領主の会話
残された部屋にはマークスとセンベルが向かい合って座っていた。
「それで、センベル。あのレクをどうみた?」
「私はレク様が恐ろしくてたまりませんでしたね。百度挑めば、百度負けるそのような覇気が見受けられました」
「はっはっはっ。あの凶手のセンベルにそこまで言わせるかよ」
痛快そうに膝を叩くマークス。自分には必死な子どもにしか見えなかったが、戦うものには強大な怪物に見えていたらしい。
「ええ。そもそもグランドスネークの討伐自体。上級の冒険者パーティーか軍で当たってやっと倒せるモンスターです。それをおひとりで討伐なさったこと自体が異常ですよ」
「私はその異常に感謝したいぐらいだがな。アイスビッシュ砦の問題が片付くまではグランドスネークの討伐はできなかっただろう。問題が長引けば、娘のアリアの命もどうなったか分からん」
「そうですね。レク様は当家の恩人です」
「それにしても魔軍の襲撃か」
当惑に眉をひそめて、髭をなでるマークス。ご領主の悩みもわかるので考えが整うまでセンベルは何もいわない。
「どう思うセンベル」
「十分にあり得る話かと。最近サイクロプスなどこの周辺では滅多にみられないモンスターが現れております。近辺に魔軍が集結していることでモンスターの勢力図が変わっているとなると……頷ける話です」
「そうか」
「それに失礼ながら当家に招くにつけ、レク様自身についてもお調べしましたところ。レク様は元々最弱の冒険者といっていい者でした。ここ半月ほどのレク様の活躍は異常です。もしかしたら……魔軍の襲来に備えるために戦士の寵愛を受けたという話も存外、嘘ではないのかもしれません」
「最弱の冒険者がある日、グランドスネークの単独討伐できるほどの寵愛を受けるか、聞いたこともない話だ」
ソファーに寄りかかるようにして座るマークス。それぐらい今日の話は疲れる思いであった。
「センベルよ。レクは当家の恩人よ。黄玉の月の14日、備えられるか?」
「レク様がアイスビッシュ砦を攻略されたならば」
「賭けてみるか?」
「賭けになりませんよ。どちらも同じ方にベットしておりますでしょうから」
「そうだな。さて、うちの指揮官に貸し出している領主軍が戻ってきている前提で防衛計画を立てさせえるか」
「指揮官もおかわいそうに」
「なに、あれの仕事だ。普段練度が、予算がといってくるのだ。活躍してもらわねばな」
連合軍をもってしても攻略に手間取っているアイスビッシュ砦の攻略が、レクによってなされたならば、そのときこそ彼が本物の英雄であると誰の目にも明らかになるだろう。精々恩を売っておかなければな。
―――あっ。レクがかわいい我が家の天使アリアに恋をしてしまったらどうしよう。
「マークス様、アイスビッシュ砦の攻略の褒賞としてお嬢様を頂きたく存じます」
いかん、いかんぞ。レク。かわいい我が娘はやれんぞ。
百面相をするマークスを冷たい目でセンベルが見つめるのであった。