ワッフルとフレア
買ってきたワッフルは食後にみんなに提供した。みんな久々の甘味に大はしゃぎだった。ときどきはこういうものも買ってきたほうがみんな嬉しいのかもしれない。
食事中、冒険の話をねだられたので今日戦ったグランドスネークが如何に恐ろしい見た目で強かったかを語った。ハインツにロイ、サナは怖がっていたので、今日は三人で寝るのかもしれない。
妖気の森は攻略したし明日からどうすっかなあ。いい討伐依頼が掲示板に張り出されているといいんだけど、と考えていると上段のベッドからささやくような声がした。
「レク、起きてる?」
「寝てるよ」
「起きてるじゃない」
上からフレアがひょいと降りてくる。今日はやけにフレアの赤い髪が月光に映えて見える。
「グランドスネークっていったら、冒険者がパーティーでやるか、軍が出動して戦うようなモンスターだって都市の人たちがいっていたわ」
「そんなことはないさ。実際ひとりだったけど無事に倒して帰ってきただろ」
「レク。レクはいったいどこに行こうとしているの?」
どこに行こうとしているのか、ずいぶんと哲学的な問いだ。とはいえ俺の答えは簡単だった。
「家を守りたいだけさ」
「院を?じゃあ、もう十分じゃない」
全然十分ではない。魔物一体相手であれば、戦えるだろう。しかし、軍勢に来られるとまだまだ無双できるような力はない。
「夢を見たんだ。最近、魔軍の侵攻が活発になっているだろう。コレントの都市に魔軍が押し寄せる夢を見た。でも、スライム相手にまともに戦えない俺じゃあ、みんなを守れなかった。だからもっともっと強くなりたいんだ」
「このままじゃレクが、強くなる前にいなくなっちゃわないか心配よ。ねえ、レクお願いだから無茶をしないで」
「大丈夫だよ。冒険者は無茶が厳禁なんだ。生きて帰るのが第一だからな。今までのどの戦いでも、ちゃんと逃げる算段はできてたさ。俺はいなくなったりしないよ」
「本当に?」
「本当に」
なんだか、フレアが孤児院に入った初めの頃を思い出す姿だった。安心させたくてその頃よくやっていたように、頭をなでてみる。
「あ、なんか久しぶりにレクに頭をなでられてる気がする。最近レクったらいっつも頭をワシャワシャとするんだもの」
「お前が心配そうな面をしているのが悪い」
「私は戦えないんだから、心配くらいさせなさいよ。馬鹿レク」
「俺は安全第一の男だから、心配はいらないの」
実際、戦記を改竄してやるためにはまずは生きていないといけない。どんなところでも死んでやるわけにはいけない。
「ん、なんかレクになでてもらってると安心する。今日は寝るまで頭なでてくれる?」
「えー」
「えーじゃない」
ぽすりとしたこぶしが飛んできた。
「分かりましたよ。お嬢さん。良い夢を」
「うん、いい夢が見られそう。ありがとうレク……」
フレアが起きてしまうかもしれないので、目をつぶってもしばらく頭を撫で続けていた。フレアの体温が伝わってくる。孤児院で出会った頃はお互い寂しくてよく一緒に寝ていたな。
絶対魔軍の襲撃からこの都市ごと守って見せるからな。
安心して眠ってくれ、フレア。……なんか今日女の子と縁があるな。