妖気の森でレベリング④
この四日間でダイアウルフとハーピーを狩って狩って狩りまくった。
その結果は如実にレベルに現れている。俺は『パーティー』を開く、燦然と輝くレベル27の数字。それと同時に憂鬱にさせられる数字だ。このくらいのレベルからダイアウルフやハーピーは格下の扱いになり、経験値の入りが悪くなるのだ。
俺は今日、妖気の森を完全攻略するつもりだ。
まずは下準備である。
冒険者ギルドを出て、マーテル商会に向かう。入口ドアをくぐるとすぐにカウンターにサリアを見つけた。目が合ったので手を振って挨拶する。
「よっサリア。注文していたものはそろっているか」
「そろっているわよ。時々大物を討伐する冒険者や軍が買っていくけど、あんた大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫」
サリアはお店の奥から慎重な手つきで五個のポーションを持ってきた。
「はい。爆発のポーション。ぶつかったら爆発するから注意して扱ってね。しめて金貨十枚になります」
ダイアウルフとハーピーのおかげで懐が温かくなっていた俺は、余裕で金貨で支払うことができた。
レクの頃だったら目を回すような金額だな。
「レク。妖気の森で爆発ポーションを使うってことは、グランドスネークの討伐に行くのよね。無事に帰ってきなさいよ」
「当たり前だろ。冒険者は安全第一なんだ。このポーションでぱぱっとやっつけてやるさ」
「もう、軽いんだから。爆発ポーションを5つも手に入れるの大変だったんだから、帰ったら何かおごりなさいよ」
「分かったよ」
そんな会話をして、マーテル商会を出た。ぶつかってポーションが爆発、俺が木っ端微塵になったらと思うと怖かったので、バックから爆発ポーションをアイテム欄に入れる。……ふう、暴発しないでよかった。
妖気の森に向かう。グランドスネークの対策のその二として、ダイアウルフとハーピーを相手にして貯めたスキルポイントで一度だけ物理ダメージを無効にする『風壁』と大ジャンプができるようになる『大跳躍』を習得する。特に『風護』は多くのスキルポイントを消費するだけあって有用な魔法だ。
道中、依頼分のダイアウルフ狩って、妖気の森の中心部へと向かう。風護を唱えておく。
そこには大きな壁があった。いや壁ではない。壁と見まがうほど巨躯なのである。全長二十メートルはあるのではないかという長さ、大樹を思わせるような太さ。
こちらに気がついたのか、面倒そうに鎌首をもたげる。縦に裂けた大きな瞳、どんな獲物が来たのかと見定めるように出される二股の舌。その上、鱗ひとつひとつが黒曜石のように輝いている。グランドスネークだ。
俺は感動した。その強大な在り方に。恐怖よりも感動が勝ったのである。
ゲームでは何度も戦ってきたが、かかるプレッシャーが段違いだ。大丈夫だ。レベルも装備も十分に条件を満たしている。
グランドスネークはこちらを雑魚だと判断したのか、そのままこちらを飲み込もうとしてきた。アイテム欄から爆発のポーションを口の中に投げ込んで、ダッシュ回避をする。瞬間止まったように遅くなるグランドスネーク。翡翠の剣を首に大上段から叩き込む。グランドスネークが内側から膨れ上がった。口内でポーションが爆発したのだ。
痛みにのたうち回るグランドスネーク。のたうち回る蛇身。無造作に振るわれるその身体にも攻撃判定がある。一回一回冷静に見極めてジャスト回避を決めていく。黒曜石のような輝きをもっていたその蛇身に少し少し傷をつけていく。
爆発の攻撃で怒っているのか、体勢を立て直して速攻で尻尾を振るってくる。
俺は大跳躍のスキルで振るわれる尻尾を飛び越えた。俺は勢いそのまま蛇の首に抱き着くと翡翠の剣を突き刺して、えぐった。
たまらず頭を振るって、こちらを叩き落そうとするグランドスネーク。俺はこちらから蹴り飛ばして、距離を取る。
グランドスネークは鎌首をもたげた。また、飲み込み攻撃か。
しかし、それは違った。
口を閉じたままこちらに突進してきたのである。―――そんなの有りかよ。ゲームにはなかった攻撃パターンだった。
驚愕を抑えてダッシュ回避、緩やかな時の中でこちらもゲームにはなかった行動をしてみることにした。アイテム欄から爆発のポーションをとりだして、さっき爆発した個所の外側にぶち当てた。
激しい爆発にこちらの身体も吹き飛び、木にぶつかる。風護が発動して衝撃を和らげた。
砂煙が立ち込めている。小盾を構えてじっとする。煙が晴れると、首が裂けたグランドスネークが倒れていた。アイテムウィンドウが表示されている。
ゲームだったら、ジャスト回避中に攻撃アイテムなんて使えなかったはずだ。これからも思いついたら色々と試してみないとな。
それにしてもグランドスネークが一匹でよかった。実は番でしたみたいに二匹相手にする用意もあったけど、杞憂だったな。
グランドスネークをアイテム欄に入れる。巨大な蛇身が光の粒となって消える様は圧巻であった。これで、領主様のご依頼は達成と、うまくいけば……俺ひとりが魔軍の襲撃に備えるのではなく、領軍を活用できるかもしれない。
それもこれも、グランドスネークの胆のお礼に家に招待してもらえたらの話だ。今考えても仕方がないか。俺は奇襲に備えて風護を唱えると、コレントの都市に帰ることにした。
帰る途中、『パーティー』を開くとレベルが3も上がってレベル30になっていた。これだからボスと戦うのはやめられない。