クーデリカとレストラン
「ひどくありませんか。勝手に人のことを舞台の題材にするなんて」
「ひどいと思う。あと名前いじっていたのはあくまでも別人の話だからで言い逃れするつもりだと思う」
俺たちはいつもよりちょっと高級なレストランに入って昼食をとっていた。
「もう観劇の間、顔がずっと熱かったですわ」
「俺も恥ずかしさで何度離席しそうになったことか」
互いに顔を合わせてくすりと笑う。
「そんなことは忘れてしまって、料理を楽しもうクーデリカ。この牛肉の煮込み料理とってもおいしいよ」
「本当においしいですわ」
婚約者と一緒に旨いご飯を食べる。すごく幸せである。
「おっ。ここのレストラン、デザートも豊富だぞ。クーデリカ何に行く」
「どうしましょうかしら。ケーキかマカロンか……」
「じゃあクーデリカがケーキで俺がマカロンにしよう。分けっこしようぜ」
「そうしましょう」
「クーデリカは紅茶でいいだろ?」
「はい」
俺はテーブルに置かれてあるベルを鳴らした。
すぐにウェイトレスがやってくる。
「この季節のケーキとマカロンを一つずつ。紅茶とコーヒーをつけてくれ」
「かしこまりました」
しばらく話していると、ケーキとマカロン、飲み物は直ぐに来た。
俺はマカロンを一つまみすると、クーデリカにあーんをする。
「ほらクーデリカ、ひとつどうぞ」
「恥ずかしいですわ」
「パッと食べたら恥ずかしくないさ」
小さな口でぱくりと食べるクーデリカ。甘さが幸せなのか柔らかい表情をしている。クーデリカが悪戯っ子の顔をしてケーキをフォークで切って、乗せた。
「あーん」
「うん。美味しい」
「なんだか、つまらないですわ」
「あっはっは。考える前に食べてしまうのさ。でも初心なままのクーデリカでいてくれ。からかいがいがあるからな」
「もう、レクったら」
会計を済ませて店を出ると、シャーベット片手に、街を見下ろせる高台に歩いてきた。
「レク、わたくし魔法が使えなかったから、どこかの側室にされるってずっと思っていましたわ」
「うん」
「でも実際は側室どころか、勘当されましたが」
「うん」
「でも、そのおかげでレクと出会えて、沢山の冒険ができて。なにもできなかったわたくしがだれかの役に立つことができるなんて幸せですわ」
「俺もクーデリカと出会えて幸せだ。あの拘留場でクーデリカと出会った瞬間にはどうやって仲間にしようか考えていたくらいだからな」
「そうなんですの?」
「そうなんです」
「……レク。あの日わたくしと出会ってくれてありがとう」
「おう。こっちこそ出会ってくれてありがとうな」
俺たちはシャーベットをつつきつつそんな話をした。
日が傾いた頃、炎鹿亭に帰った。マリアンヌがあからさまにほっとしていた。泊りを警戒していたのだろうか。
夜は皆で、勝手に劇にされていることを笑い話にしながらご飯を食べた。
明日からは魔王討伐だ。頑張らないと。