観劇①
「お前のような魔法をまともに使えぬ無能、このウェンズデイ家にふさわしくない!もう二度とこの家の敷居を跨ぐな!お前なんぞ私の娘であったことすら恥ずかしい。このまま放りだしてやってもいいが、これは手切れ金だ。さっさと失せろ」
家の扉から追い出される幼い女優。薄汚い服を着せられている。悲しみのあまり地面に手を着いている。
「ああ、なんてこと。勘当されてしまうなんて!」
元気っすね。この話はもしかして。
「お嬢様。お待たせしました」
黒髪の女優が登場した。
「メリエンヌ?どうして?」
「私はお嬢様の御付きのメイドです。どこまでもお付き合いします」
「メリエンヌありがとう」
「いいえ。当然です。それで早速ですが、私たちは今後の方針を決めなければなりません。手切れ金はいくらでしたか?」
お嬢様(仮)は観客に見えるように袋を逆さにして、1枚の金貨を見せる。
「……これだけですか。すぐにでも収入を見つけなければ」
それ、三枚でしたよ。
「正直に申し上げて私も世間には明るくありません。ですので、世間に明るい人材を確保してはいかがでしょう」
「どうやってでしょうか」
「拘留されたものの保釈金に当てて、そのものに職の紹介をさせましょう」
「拘留されたものって、犯罪者でしょう。そのようなものあてにしてもよろしいのでしょうか?」
「拘留といっても、ちょっと喧嘩した、意図せず貴族に無礼を働いてしまったものもおります。保釈金を肩代わりしてやれば、職を見つける手伝いくらいならさせることができましょう」
場面が暗転した。暗い拘留所に変わる。
俺はそっと、クーデリカを覗き見る。顔が真っ赤になっている。まあ、そうだよな。恥ずかしいし、いやだよな。
髭面の男が次々と拘留者を紹介していく。そのどれにも2人は首を振る。
最後の拘留者は少年だった。金髪で青い瞳をしている。貴公子の様に拘留室で座っている。
盛りすぎじゃないですかね。俺は茶髪だし、寝ていたし、そんな座り方しない。
「私たちはとある事情で仕事を探さなくてはいけなくなりました。そのための案内人をさがしています。できれば街に詳しい人間を」
「じゃあ俺は適任ではない。この街どころか帝国の人間ではないからな」
「では、話は終わりです。お時間をありがとうございました」
「まあ、待ちなよ」
「俺にも紹介できる仕事はひとつだけある。冒険者だ。これでも俺は……中級の依頼もこなしたことあるベテランだ。……そうはみえないだろうがな」
「でも……冒険者なんて」
「お嬢様はいくつなんだい」
「今年で12歳になります」
「俺は9歳だ。なおさら職を見つけるのは難しいだろうな。一般的にはその年にはどこかで徒弟や丁稚として働いているものだ。ましてやお嬢様の高貴な髪の色、働くのは難しいだろうな。精々メリエンヌさんがどっかの屋敷か商会で働いてその稼ぎを貰って食っていくとかだな」
続けて金髪の男がいう。
「そこで冒険者だ。俺ならあんたたちを一流の冒険者にしてみせる。俺がリーダーとして活動させてくれるならな。どうだ。俺とパーティーを組んで冒険者をしてみないか。一流の冒険者になれば、お前の親父さんだって申し訳ない間違っていたって謝るさ」
「メリエンヌ」
「お嬢様の決められた道が、私の進む道です」
「わたくしたちを一流の冒険者にしてください」
「おう。任せておきな。俺の名前はレオ。あんたは?」
「わたくしはクーデリア」
場面がまた暗転した。俺は確信したこの世界に肖像権はない。プライベートもない。