孤児院でのひととき
「兄ちゃん、かっけー」
「皮鎧なんて、初めて見た」
「―――きれいな剣」
「サナ、危ないから触っちゃだめだぞ」
俺は今モテていた……子どもたちに。シスターテレサに今日の分のホーンラビットの肉を手渡すと構えていたちび達に囲まれたのである。
今日買った防具をペタペタと触れる。武器はさすがに危ないので触らせないが。
「中級冒険者になったし、装備も更新した。これで兄ちゃんも一端の冒険者だな」
せっかくなので、大人げなく自慢する。……レクくんもまだ9歳だから、と俺は心の中に棚を作った。
「すげえええ!」
「9歳で中級冒険者になるのはすごいって都市の人もいっていました」
「うん、お兄ちゃんはすごいっていってた」
「アッハッハ、兄ちゃんは強いんだ」
そんなことをしていると縫製所で働いていたフレアが帰ってきた。
「ただいま~。なんの騒ぎ?ってうわ、レクの装備が変わってる」
「ああ。新しい冒険に向けて装備を一新したんだ」
「……新しい冒険。レク、縫製所の人たちもいってたけど、普通は何か月も同じ狩場で冒険して、次の冒険に行くものだって。レクは妖気の森でピクシーとゴブリンを相手にするようになってから三日しか経ってないじゃない。そんなに急がなくてもいいんじゃないの?」
ちび達は何やらシリアスな雰囲気を感じたのか、離れてこちらを見ている。……かしこい子たちだなあ。
「うん。普通はもっと時間をかけて冒険していくものだと思う。けど、俺はもっともっと強くならなくちゃいけないんだ。それに、次の冒険に耐えられるだけの戦士の寵愛を受けていると思うよ」
「なんでそんなに急いで強くならなくちゃいけないの?」
「……夢を見たんだ。この都市が魔軍の襲撃に遭う夢を。……もうあんな夢は見たくないし、あんな思いはしたくない」
「夢は夢だよ、レク。それでレクが無茶をして死んじゃったら私たちは……どうしたらいいの」
「大丈夫だよ。冒険者は安全が第一なんだ。最低限の無茶しかしない。装備の更新だって、確実に生きて帰るためにしたんだ。大丈夫だって」
何かをこらえるような顔をしているフレアの髪をワシャワシャと乱してやる。こちらの手を払いのけると小さく笑ってくれた。……よかった。家族の泣く顔見たくはなかったから。
「もう。髪を乱すのはやめてよね」
「いやだ。これからもフレアの髪をワシャワシャするのは俺だ」
「馬鹿なことばっかり」
「馬鹿だからな」
にまにまとしたハインツが茶化すようにいう。
「夫婦喧嘩は終わったの?兄ちゃんと姉ちゃん」
「「夫婦じゃないから」」
期せずしてシンクロした。顔を見合わせて笑う。
「さあさあ!俺は腹が減った。今日は俺がホーンラビットを狩ってきたんだ。楽しみだろう」
「肉は肉だよ。兄ちゃん」
「そうかもな」
装備の更新に買い物、妖気の森での試験運用、家族交流にうまい飯。充実した一日だった。また、こんな一日があってほしいものだ。
ホーンラビットの丸焼きに舌鼓を打ってそんなことを思った。