レビング・ウィスタート
レビング・ウィズタート視点
誰もかれもが俺のことを馬鹿にしている。見る目がない。節穴。無能。愚か者。外に出れば、この俺を馬鹿にする言葉が必ず聞こえてくる。
それもこれもクーデリカの奴が悪い。我が家では無能を演じていたくせに、勘当した途端に、見たこともない魔法を駆使して活躍した。
その魔法はどんな怪我だろうと治してしまうらしく。軍部からもどうして聖女様を手放してしまったのかと、不満の声が聞こえてくる。
何が聖女だ。ばかばかしい。あいつは俺を陥れるために無能を演じていた悪女だ。家にいたときには俯いてばかりいたくせに。勘当を言い渡されたときは絶望した顔をしていたくせに。帰ってくることを許してやっても断りよった。
冒険者などという下等な職に就いていても栄光を望むことはできないというのに、そんな当たり前のことすら分からないらしい。
私は家にこもるようになっていた。
ドアがノックされた。私に渦巻く怒りを恐れるように遠慮がちなノックだ。
「ご当主様。入ってもよろしいでしょうか」
「バランツか、入るがいい」
バランツが部屋に入ってくる。
「この度の魔将の襲撃についての報告をまとめましたので持ってまいりました」
「うむ」
報告書を受け取って、目を通した途端、嫌気が差した。クーデリカの名前が書いてあったからだ。力任せに報告書を机に叩きつけた。
「ご当主様……ここは、クーデリカ様に謝罪なさって、和解だけでもなさったほうが良いのではないでしょうか」
「馬鹿馬鹿しい。バランツ、お前も知っているだろう。あいつは家では無能の皮をかぶり続けて我が武門の恥の振りをしておった。なのに勘当した途端活躍して見せた。謝罪するべきは奴の方だ」
「旦那様……」
いたわるようなバランツの声さえ疎ましい。
そうか。わかった。私はクーデリカが疎ましくてしかたがないのだ。消えてほしいのだ。
どうしたら消えてくれる。どうしたら消えてくれる。俺の頭の中はそれでいっぱいになった。殺し屋でも差し向けるか。いや、だめだ。翡翠とかいう英雄とマリアンヌがいる。そうそう殺せまい。
俺は一心に考え続けた。―――いるじゃないか。人類に勝てない存在が。魔王だ。魔王にクーデリカを殺させればいい。
俺は帝王の命令書を偽造して、すぐに魔王討伐に向かわせることにした。
これで死んでしまえば、もうクーデリカに悩まされることはないだろう。
私はすっきりした心持ちで久々に眠ることができた。