魔将ディルギン
最前線はウィズタートの防壁だった。防壁の上から領軍が魔法や弓を放って、キマイラやサイクロプスたちを倒そうとしていた。よかった。防壁が突破されていたら都市戦となって少なからず被害が出たはずだ。今なら間に合う。サイクロプスやキマイラどもは必死になって防壁を登ろうとしたり、砕こうとしたりしていた。
俺はフル装備で防壁の上からモンスターを対象に重力渦を発動した。モンスター達が引き寄せられる。続いて暴嵐の魔法を唱えて、竜巻に引き込む。流石にボスモンスターは、打ち上げることはできないが、動きを阻害することはできる。
「翡翠のレク。出陣するぞ!」
一応味方に身分を明かしておいて、城壁を駆け下りる。今も暴嵐のなかに閉じ込められているモンスター達を片っ端から切りつける。それでもすべてのモンスターは倒れない。反撃の攻撃をしてきたキマイラにジャスト回避で獅子、山羊、蛇の三つの頭を切り落とす。サイクロプスの振り下ろされる棍棒をパリィしてがら空きの胴体を切り捨てる。そんなことを繰り返し続けていると、仲間たちの声が聞こえた。
「レク。待たせましたわ」
「おう。クーデリアたちか。武具はどうだった?」
「マリアンヌとわたくしの防具とロイの剣とわたくしの杖ができていましたわ」
「上等上等」
思ったよりも職人たちは急いで仕事をしていてくれたようだ。
そんなとき、絶望が降ってきた。俺にとっては慣れた雰囲気。しかしクーデリカたちにとってはそうではなかったのだろうがくがくと身体を震わせている。
白髪の体中に雷に打たれたような火傷跡……リヒテンベルグ図形だったか?がある魔将だ。
「お前だな。前回の襲撃をひとりで防いだという冒険者は」
「ああ、俺だ」
あんまりにも嬉しそうに尋ねてくるから、無警戒に答えてしまった。
「そうか、お前強いんだな。よかった。人間には雑魚しかいないのかと絶望すらしていたよ」
頭を撫でつけながらそんなことをいう。戦闘狂か?
「安心しろ。俺が世界最強になる男だ。お前を絶望させることはない」
「じゃあ、やり合おうか」
「まあ、待ってくれ」
「なんだ?」
「周りにモンスターがうじゃうじゃいて集中できない。存分に楽しみたいなら離れたところでやりあおう」
「いいぜ」
俺はクーデリカたちに向き合う。
「俺がこの魔将を討つ。だからこっちの戦場を任せる。冷静にいつも通りに戦闘を回せ。特にクーデリカとロイアルクは武器が更新して強力になっているからヘイト管理に気をつけろ。いいな」
「そんな、レク魔将をひとりでなんて」
「悪いがまだお前たちでは足手まといだ。ひとりの方が戦いやすい。代わりにこっちの戦場を任せる」
「……わかりました」
不安そうに答えてくれるクーデリカ。頭を撫でてやる。
「安心しろ。俺は絶対に勝つ」
俺は振り返って白髪の魔将にいった。
「待ってくれるなんて親切だな」
「俺は全力のお前と戦いたいんだ。だからかまわねえよ」
「そうかい。じゃあ少し離れようか。そういえば俺はレクっていうんだ。あんたは?」
「俺はディルギンだ」
この戦い、負けるつもりはない。しかし問題がある。このルーンレコードの世界でこいつという魔将を見たことがないということだ。初見でのボス撃破を達しなければならない。腕が鳴るな。