テラスで踊る者たち
知らないうちに楽団が入ってきて演奏を始めた。人々は踊り始めている。
……俺、踊りなんてしたことなんてないぞ。俺は戦略的撤退でテラスに前進した。夜風が気持ちいい。
「こら、主賓が躍らないなんて聞いたことがないわ」
「クーデリカ」
気づかれていたのか。
「クーデリカは踊らないのか?」
「わたくしは……レクと踊りたいです」
それは難題だな。
「俺は踊ったことがないんだ」
「……驚きました。レクにもできないことがあるんですね」
「たくさんあるよ」
本当に手が届かないことばかりでうんざりだ。
「なら、今日のところはわたくしがエスコートして差し上げますわ」
「そいつはどうも」
月が見下ろすテラスで、クーデリカが俺の腰に手を回す。俺も真似して腰に手を回した。
「ステップはこう、違いますわよ。もっとこうゆっくり……」
クーデリカに指導されながらテラスで二人きりで踊る。
俺があまりに拙すぎて踊れていたかは分からないが、最後の方にはそれなりに形になっていたと思う。
会場からは喧騒が聞こえるが、ここは静けさが支配されているようだ。
クーデリカが囁くようにいった。
「レク。わたくしレクのことが好きですわ」
「俺もクーデリカが好きだ。でも他にいる五人も好きだ。同じくらい愛して見せるから俺の婚約者になってくれ」
「最っ低の告白ですわね」
くすりと笑うクーデリカ。
「でもレクはわたくしにとって王子様ですから、及第点をあげますわ」
「そいつはどうも」
「レクがいなければ路頭に迷っていたかもしれません。あの日、あの場所で出会ってくれて本当にありがとう」
「それはこちらのセリフでもあるな」
俺たちは外灯に照らされる中庭を見ながら手を繋いだ。
一緒に笑いあった。
手を繋いだまま、祝宴に戻るとマリアンヌはなんか悔しそうな顔をしていた。マリアンヌとしてはクーデリカのことだけを愛してくれる人が良かったのかもしれない。ロイアルクは分かっていましたとばかりににこりとした。
クーデリカを口説いていた男どもは悔しそうにしていたが、俺に文句を言えるような奴はいそうになかった。そうだ、俺は怖いぞ。クーデリカを口説きたかったら、俺を倒して見せろ。
クーデリカと一緒にあれこれ食べて感想を言いあったり、昨日クーデリカが何をしていたのかを聞いたりした。なかなかに幸せな時間だった。