表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

後編


 エーリアは、貴族学校にて天啓を受けた。


 時間にしてみれば一瞬の間に頭を駆け巡ったのは、ある日に起こる出来事。

 

 建国記念の祭典。

 それがいつかは分からないけれど、王太子妃となったシスティアが、殿下と共に、入口から観覧席の間に敷かれた、観客の間を歩いていた時の出来事。


 突如として観客席から放たれた黒い呪いの闇が、王太子殿下を庇ったシスティアを覆い尽くす光景。

 聖女としてその場に参列していたエーリアは、すぐさま治療室に運び込まれたシスティアの元へと向かった。


 ーーーでも、助けられなかった。


 治癒魔法も、浄化の魔法も、解毒魔法も効果がなかった。

 システィアはそのまま亡くなり、ビルド王太子殿下が失意に膝をついたところで……天啓は終わった。


 それはきっと、未来で起こることの予知だった。


 でもどうすることが出来るだろう。

 システィアを誰が襲ったのか、いつの記念式典でそれが起こるのか、それが分からない。


 建国記念式典を中止するにしても、いつまですればいいのか。

 ビルドが国王陛下になるまで待つのも、それはそれで彼の信頼が揺らいでしまう。


 もし式典のやり方そのものを変えて、今度は別の場所で二人が狙われたら。


 どうすることも出来はしない。

 未来が変わるのが、良い方向なのか、より悪い方向なのかも分からない。


 だから、エーリアは決めた。


 国王陛下にだけ事情を話し、条件付きで王太子妃としてもらうことを。

 『呪いで自分が死ぬまで、二人には黙っておいて欲しい。そしてシスティアの婚姻を阻止して欲しい』という願いに、最初国王陛下は難色を示したが、予知だけでは事前に賊を捕らえることが難しいことを理解して、苦渋の決断をして下さった。


 ーーーどうか、幸せに。ビルド殿下。システィア……。


 いつ終わるともしれない苦しみの中で、エーリアは声を聞いた。


 『死ぬな』と、ビルド殿下が呻くのを。

 『お願い、戻ってきて』と、システィアが泣いているのを。

 『君の身に宿る、高潔なる魂と神の御力に願う。どうか、エーリア。生きる意志を』と、国王陛下の声が。


 ーーー願ってくれるの?

 ーーーあなた達を、私は引き裂いたのに。

 ーーー生きろと。


 エーリアは、汚泥の底からゆっくりと、自分の体が浮き上がって行くのを感じていた。


 視界の先に、淡くぼんやりと輝き始めた白い光に手を伸ばして。

 エーリアは、目覚めた。


※※※


 後で聞いた話によると。


 国王陛下は、エーリアの予知と願いを聞いた時からご準備なさっていたそうだ。

 あらゆる聖水を、治療薬を集めて、呪いを浄化する魔法陣を開発させ、記念式典の日に備えさせたのだという。


 あの夢と違い、賊が逃げることなく即座に捕らえられたのも、王太子と妃を狙う暴挙が起こる可能性を、毎年予め警護の者たちに周知徹底していたとのこと。


 狙われた理由は、一部の過激な思想を持ち、王によって弾圧されたカルト教団による〝粛清〟だったそうだ。


 エーリアは、国王陛下の備えと自身に宿る聖なる力によって、呪いに打ち勝った。


 真実を聞かされた二人には、謝罪され、そして責められた。


 何故言ってくれなかったのかと。

 知っていれば、エーリアに危険な役目や辛い役目を負わせることなどなかったのにと。


「あなた達がそう言うと思ったから、何も言わなかったのよ」


 優しい二人に、どうせ反対されると知っていたから。


「ビルド殿下を愛していたなんて、嘘よ。システィア、貴女を守りたかったの。私の王太子妃生活は終わりよ。神官長様が、婚姻は解消でも離縁でもなく、白紙に戻して下さると請け負って下さったわ」


 ビルドとシスティアを阻むものは、もうない。

 一度このような事件が起こった以上、今後はより警備が強化されるだろう。


 だから、言わなくていいの。

 


 ーーーエーリアが、本当に、ビルド王太子殿下を愛していたことなんて。



 だからエーリアは嘘をつく。

 それでも、相思相愛のシスティアと生涯添い遂げて欲しいと願ったから、憎まれ役を買って出たのだから。


 死んでも良かった。


 一度でもビルドの妻になれて、嬉しかった。

 憎まれても、恨まれても、唇を、肌を合わせることがなくても。


 ほんのひと時だけのワガママな夢を、崇高なお願いに隠して叶えたから。


 初恋に別れを告げて。

 エーリアの名声は、〝献身の聖女〟として、この上なく高まった。


 改めて二年後、盛大に行われたビルドとシスティアの結婚式では、二人とも本当に幸せそうで。

 でももう、エーリアの胸は破れた恋に疼いたりはしなかった。


 二年の間に、一人の男性と出会ったから。

 神の愛し子である女性が〝聖女〟と呼ばれるように、男性の愛し子は〝神爵〟と呼ばれる。


 この世の誰よりも神の愛を受けているという彼は、自由奔放で、エーリアが目覚めてほんの一ヶ月後に突然目の前に現れて、満面の笑みでこう告げた。


『お前の魂に惚れた! 丸ごと愛すから、俺と一緒に生きてくれ!』


 と。


 二人の結婚を見守る私の横には、今、彼がいる。

 ついた嘘も、内に秘めていたワガママも全部見抜かれて。


 全然高潔なんかじゃないエーリアごと、本当に愛してくれた彼が。


 ーーー生きていれば良いことがあるって、本当なのね。


 死ぬつもりだったのに生き残ってしまった時は、これからどうしたら良いのかしらと、と思ったのだけれど。


 今、エーリアはとても幸せだった。

 

短編です。


よろしければ、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、お願いいたします。


別作品も多数連載してます。リンクよりよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ