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エピローグ

 王都の裁判所で、オレアン伯が裁かれるのに時間はかからなかった。幼いジャンを放りだしたことは、すぐに認定された。同時に追及された罪――公爵邸を燃やした罪とか――と比べれば、これ自体はそれほど重い罪ではないみたいだけど、個人的には一番重い罪だと思う。だけど、そのおかげで私とジャンが出会えたのだと思えば、憎さも半減する。

 また、裁判の過程でフィリップの能力も明らかになった。相手の目を見て微笑みかることにより、その人間を操ることができるらしい。中には私やジャンのように効かない人間もいたけど、どういう人間に効いてどういう人間に効かないかはわからなかった。

 ジャンが言うには、意志力の問題だということだけど、意外と核心をついているかもしれないと思った。つまり、何をされても屈しない、確固たる野望があるかどうかという話だ。




♢♢♢

 

 

 

 「随分デカい家になりそうだなあ」

 「燃えてしまったうちの屋敷分はそもそもオレアン伯から徴収されることになっていたし、それに加えて、あなたを追放した罪の賠償金も入ってきたからね。そりゃあこれだけの建物にもなるわよ」

 

 とうとう建設が開始された私とジャンの新居の工事を眺めながら、私たちはこれまでのことを振り返った。

 

 「それに、フィリップの能力を使って色々な人を操った罪とそれに関連する犯罪行為まで追及されちゃって、オレアン伯はもう一文無しね」

 「正確には、親父はもう伯爵じゃないけどな」

 「そうだったわね」

 

 ジャンの言う通り、オレアン伯は貴族位を剝奪された。オレアン伯――元オレアン伯と呼ぼうかしら――の領地の大部分は、お父様によって接収されたのだ。これによって、将来的には旧オレアン伯領もジャンのものになることになる。

 

 「それにしても驚いたよな。ガストンの実家がうちの親父に潰されてたなんて」

 「私もちょうどそのことを考えていたわ」

  

 ガストンは貴族の実家を出奔したと聞いていたけど、実は家を潰されていたらしい。元オレアン伯とガストンは同い年であり、元オレアン伯が伯爵になる直前のタイミングで、男爵であったガストンの父を暗殺したのだとか。そして伯爵になったときに、そのまま隣接していたガストンの実家の領地を乗っ取ったのだ。

 これは元オレアン伯の辣腕の成果でもあるが、さすがに許容できるような手段ではない。今回の一連の裁判でこれが明るみに出たことにより、旧オレアン伯領の一部は、ガストンに与えられることになった。

 このことでガストンには感謝されてしまった。感謝されて悪い気はしないので、素直に受け取っておいた。

 

 「人生、思った通りに運ばないもんだ」

 

 一歩前に出て、伸びをしながらジャンが言った。

 

 「何よ、急に」

 「ガストンも同じこと言ってたのを思い出してさ。本当にその通りだと、改めて思ったわけ」

 「ふうん。よくわからないわね」

 

 ジャンは振り返って、意外そうに目を丸めた。何かおかしなことを言っただろうか。

 

 「マリだって、今回は色々と予想外なことが起きただろ?」

 「そうね」

 「ってことは、人生は思った通りに運ばないってことじゃないか」

 「そもそもそれがよくわからないのよ。思った通りに運ばせてどうするの?」

 

 今度は目を丸めるのではなく、眉間に皺を寄せたジャン。表情豊かなところも好きだ。

 

 「ちょっと待ってくれ、俺の方もマリが何を言ってるのかがわからない」

 「思った通りに運んだって面白くないじゃない」

 「なるほど……」

 

 ジャンはそれだけ言って黙ってしまったので、一歩前にいるジャンの横に並んで言う。

 

 「私は頭がよくないから、予想したって毎日予想外の出来事ばかりよ。でも、だからこそ面白いの。自分の力でそれをひれ伏すのがね」

 「マリらしいな」

 「自分らしさなんてわからないけど、そういうことにしておくわ」

 

 大工たちが鎚を振るう音が聞こえた。

 

 

 

♢♢♢

 

 旧オレアン伯領では、お父様による接収前に新たなダンジョンが見つかっていた。先日、冒険者ギルドによる調査が行われ、公式にレベル五という認定がなされた。

 私たち六人――私とジャン、それにあの四人――は、そのダンジョンを腕試しに探索しに来ている。

 

 「右から【アースドラゴン】二体だな」

 「了解!」

 

 アダンの報告を受けて、ジャンが走り出す。右手前の岩陰の奥へと消えていく。いつものようにレイドは置いてけぼりだ。

 

 「ジャンがいたら、他に剣士いらないよな。剣士以外の職を探そうかな……」

 「それがいいわね」

 「それがいいかもなァ」

 「それがいいな」

 「それがいいと思います」

 「おい。止めてくれよ」

 

 飛び出していったジャンを除くパーティーメンバー全員に攻撃、もとい口撃を受けるレイド。このパーティーではお馴染みの構図だ。

 

 「正面からも来るな」

 「任せて」

 

 地面を突き破り、砂や土を撒き散らしながら姿を現したのは、土色の鱗に覆われた【アースドラゴン】。このレベル五のダンジョンでも上位の強さを持つ強敵だ。

 杖を一振りする。私が繰り出したのは得意の火の玉。その数は百。全弾が一斉に【アースドラゴン】へと向かう。

 翼を貫かれ、胴体を焼かれ、【アースドラゴン】が地に伏せる。次の瞬間には、灰のようになって消えた。魔法の先生をつけたことで、我ながらさらに強くなったと思う。

 

 「ま、こんなものね」

 「さすがは『烈火』だなァ」

 「もう、それやめてよね」

 

 屋敷を燃やしたのが私だという話が広まって以降、私は再び『烈火』と呼ばれることが多くなった。ガストンはそのことをからかっているのだ。

 

 「そういえば、最初はなんで『烈火』って呼ばれ始めたの?」

 

 うちでメイド見習いをしているくせに、私にタメ口をきいてくるレネー。うちの外に出れば、いつもこの様だ。

 

 「別にどうでもいいでしょ、そんなこと」

 「えー、気になる」

 

 すり寄ってくるレネーを押し退けると、そのときジャンが帰ってきた。大きな【魔結晶】を二つ手に持っている。

 私たちの話を聞いていたようで、滑らかに会話に参加してくる。

 

 「その話なら知ってるぞ」

 「ジャンさん、教えてください!」

 「実はな、フラーム公爵領に現れた魔物を一撃で倒しちゃったんだよ。それも、3歳のときに」

 「えええ!? 三歳!?」

 

 レネーの声がダンジョンに反響する。ガストンやレイド、アダンも驚いているようだった。

 だけど、残念ながらジャンの言っていることは――

 

 「嘘よ。本当はね、うちで飼ってる猫をいじめていた子爵家の子供を燃やしてやったの。あの日は私のお披露目会だったから結構な数の人に見られちゃって、それで『烈火』って呼び名が広がったの」

 「えええ……」

 

 今度は大声を上げて驚くのではなく、静かに恐怖を噛み締めているようだ。せっかく本当のことを教えてあげたというのに、その態度はないと思う。

 

 「燃やすわよっていう脅し文句、本気だったんだね……」

 「確かに燃やしたけど、炎の温度調節くらいしたわよ? 所々火傷したくらいで、死にはしてはないわ」

 「ああ、そうなんだ」

 

 私が殺人犯ではないと知って、一安心したみたいだ。とは言っても、ジュエルム大空洞では間接的にあの赤髪の男を殺してしまっているけどね。

 

 「お取込み中悪いけど、また来るみたいだぞ。今度は感じたことのない気配だ。注意してくれ」

 「任せなさい。私がいれば何だって――」

 

 私の口上を遮ったのは、ズズズと何かが地面を擦れる音。正面の岩陰から頭を見せたのは、巨大なミミズだった。

 

 「いかにも炎に弱そうな見た目をしてるわね」

 

 強敵かと思って損した。そう思いながらも、杖を一振りして、全力の炎魔法。【アースドラゴン】を屠ったのと同様の火の玉がミミズを襲う。

 しかし――

 

 「おい! 効いてねェぞ!」

 「見ればわかるわよ!」

 

 ガストンの顔が驚愕の色に染まる。私の中にも焦りが生まれ、思わず怒鳴ってしまう。

 

 「マリ、これは予想外だったんじゃないか?」

 

 ジャンがニヤニヤしながら聞いてくる。聞く前からわかっている顔だ。

 

 「そうね、予想外だわ。――でも、それが面白いのよ」


 ひとまず完結とさせていただきます。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!

 アダンの話はもう少し深堀りしたかったのですが、身近な人でも全てを知り得ることはできませんし、そもそもマリはあまりアダンに興味がなさそうなので、触れるのは止めておきます(言い訳)。

 気に入るか否かはさておき、率直な感想や評価を寄せていただけると幸いです。

 

 繰り返しにはなりますが、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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