表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/37

第二十九話 再会

 ジャンは街道のど真ん中で私たちを荷車から降ろした。辺りに人影はない。

 

 「間近って言ってたけど、どこにいるの?」

 「森の中だ。馬車での移動じゃなくて、徒歩でコソコソ移動するのを選んだみたいだな」

 「へえ、そう。――なら、早いところ捕まえちゃいましょ」

 

 私が左手にある森の方に歩き始めると、ジャンに肩を掴まれる。


 「何よ」

 「索敵が得意なやつがいるんだろ? バレたら逃げられるかもしれない。びっくりさせるなら、俺に作戦があるんだ」

 「確かに、アダンさんの索敵は天下一品ですからね。何かしら対策を講じないと」

 

 レネーは自然と話に割り込んできた。図太さは私を超えているかもしれない。

 と、それはさておき――

 

 「あなた、アダンにも敬語だったのね」

 「私の方が年下だし、アダンさんって凄腕冒険者だからね」

 「え、アダンの方が年上だったの。あんなに小さいのに」

 

 凄腕冒険者という言葉も引っ掛かかったけど、それよりもレネーよりアダンの方が年上だと言うことの方が気になってしまった。

 

 「そんなこと言ったら怒るわよ、アダンさん。――あれ、待って。アダンさんより私の方が年上に見えてたってこと?」

 「まあ、そういうことになるわね」

 「それって、私が老けてるってこと!?」

 

 悪魔のような形相になり、レネーは私に掴みかかってきた。両肩をがっしりと掴み、ガクガクと私のことを前後に振る。私は堪らずレネーを突き飛ばした。

 

 「ちょっとやめなさいよ、鬱陶しい。気にしすぎだって」

 「気にしたくなる年頃なのよ」

 「そう」

 

 レネーはうな垂れてしまった。私は何と慰めていいかわからず、とりあえず放って置くことにした。時間が解決してくれるだろう。

 

 「で、作戦の話していいかな?」

 

 レネーが静かになったところで、ジャンは切り出した。

 ジャンも乗り気になってきたみたいで、私は嬉しくなった。悪い笑みを浮かべているのを見ると、こっちまでそんな顔になりそうになる。頬を押さえて、私は口角が上がるのを防いだ。

 

 話を聞くと、ジャンの作戦はごくごく単純なものだった。まずは顔の割れていないジャンが先行して三人に接触、仲間を紹介するという口上で、私とレネーをそこに連れて行くというものだ。

 索敵に引っ掛かったとしても、自分だけなら逃げ出される前に三人のところへ辿り着けると、ジャンは自信満々に言っていた。さっきの走りを見れば、それにも頷ける。

 

 

 

♢♢♢


 


 俺は自分にいくつかの魔法をかけ直す。全ては移動速度を向上させるためのものだ。夜の森は走りづらいからそこだけが心配だが、何とかなるだろう。


 「じゃ、行ってくる」

 「気をつけなさいよ」

 「行ってらっしゃいませ!」


 マリとレネーを森のすぐそばで待機させて、俺は森に駆け出した。案の定、草や苔、木の枝などのせいで走りづらい。が、脚をしっかり上げて走れば、転ぶようなこともなさそうだ。

 臭いを追跡する魔法のおかげで、暗くとも向かうべき場所はわかる。一分ほどで、三人が野営しているキャンプが確認できる場所に着いた。


 何かを話しているのが確認できる。逃亡計画についてだろうか。耳を澄ましても内容までは聞き取れないため、風魔法で音を自分のところまで運ぶ。

 家を追い出されてすぐのときは、こうして会話を盗み聞きして、自分に役立つ情報を集めたもんだ。盗みに入るときとか、特に重宝して……

 いやいやいや、そんなことはどうでもいい。せっかくバレていないみたいなんだから、ちょっと情報を聞かせてもらおうじゃないか。マリの前では言いづらいようなことを話しているかもしれない。


 と思ったんだが、聞こえてくるのは公爵の「計画」に関わったことへの後悔の念か、思い出話のどちらか。有益そうなものはない。

 いつまでもマリとレネーを待たせるわけにもいかないし、そろそろ三人の前に出て行くか、と立ち上がったときだった。


 「人生、思った通りには運ばないもんだなァ」


 大柄な男――マリの話では、ガストンという名前だった――が、そう漏らすのが聞こえた。


 「ああ、全くその通りだよ」


 俺が最近思ったことと同じことだったこともあり、俺は立ち上がった勢いで声をかけてしまった。


 「誰だ!?」


 ガストンがこちらに顔を向ける。しっかり目が合う。険しい目つきをしていることから、警戒されていることがわかる。

 やってしまった。いきなり話に割り込むという最悪な登場をしてしまった。ここからどう挽回したものか。とりあえず、高圧的に出てはまずい。反感を抱かせては、さらなる警戒に繋がってしまうだろうからな。

 俺は両手を挙げて武器を手にしていないことを表明しながら、努めて弱そうな口調で言った。

 

 「あ、怪しい者じゃないんだ」

 「いや、怪しい」

 

 アダンと思われる小柄な男が、ジト目を向けながら言った。

 俺のことを怪しいやつ呼ばわりしているのに、誰も立ち上がって逃げ出すような姿勢を取らない。武器に手を伸ばしもしていない。

 俺の弱そうなやつの演技が効いている証拠だろうか。それとも、いざとなれば三人がかりで俺を殺せると思っているからだろうか。

 いずれにせよ、最初よりも警戒心が弱まっているように思える。油断を誘えているはずだ。畳みかけるなら今しかない。

 

 「俺はここら辺の村人なんだが、ここ最近、森で魔物の動きが活発でな。それで、森の見回りをしているんだ」

 「そんな貧相な格好で、しかも一人でか?」

 

 ガストンの指摘はもっとも何だが、貧相な格好と言われると、少々頭に来る。しかし、ここでムキになってはいけない。

 

 「まさか! あんたの言う通り、こんな貧相な格好で一人なわけがないじゃないか。仲間はいる。だけど、魔物に襲われている間に森で迷ってしまって……」

 「確かに魔物は多かったな」

 「だ、だろ? それで、森から出れなくなってるんだよ。助けてくれないか?」

 

 ガストンは腕を組んで難しい顔をしているし、レイドとアダンは俯いている。

 まあ、当然の反応だ。俺に関わって時間を取られれば、逃亡にかかる時間が増える。そうなると、逃亡失敗の確率も高まるだろう。

 何か一押しが必要かと思ったときだった。

 

 「ガストン、いいんじゃないか? 村に送り届けるくらいならすぐに終わるだろ」

 「まあ、アダンがそう言うなら」

 

 そう言ったのは、アダンだ。顔を伏せていたから、話を聞く気すらないのかと思っていた。だが、食いつてくれたのならなんでもいい。

 

 「い、いいのか?」

 「人助けなんて、やればやるほどいいからな」

 

 アダンの台詞は予想外のものだった。マリとレネーを置いて行ったと言うから、非情なやつらだと思っていたんだが、意外といいやつなのかもしれない。

 

 「これはありがたい。じゃあ、ここまで仲間を連れてきてもいいか?」

 「いいけど、一人で大丈夫か?」

 「あ、ああ。仲間はすぐそこで待ってるから、呼んでくるよ」

 「そうか」

 

 そのやり取りを最後に、俺は踵を返してすぐにマリとレネーの元に戻った。

 

 「やっと帰ってきたわね」

 「ジャンさん、お帰りなさい!」

 「で、あいつらはいたの?」

 

 戻るや否や、矢継ぎ早にマリとレネーから言葉が飛んでくる。

 

 「いたいた。数百メートル先だから、ちょっと歩くことになるぞ」

 「さっさと行きましょ。驚いた顔が早く見たいわ」

 「楽しみです!」

 「お、おう。――こっちだ」

 

 さっきの五倍ほど時間をかけて、三人のキャンプのすぐそばまで行った。

 そこから発せられる焚火の明かりを見て、マリも到着を悟ったようだ。

 

 「あそこの明かりね?」

 「そうだ」

 「うふふ。ちょっと笑いが堪えられないわね、これ」

 

 マリが愉快そうなのを見て、俺もつられて頬が緩む。

 

 「さて、どうやって――」

 「おい、さっきのやつか? 早く出てこいよ」

 

 どうやって登場していくかをマリに相談しようとしたとき、先にアダンに声をかけられてしまった。索敵が得意だというのは、嘘じゃなかったらしい。

 

 「今行く!」

 

 それだけ答えて、俺は三人の眼前へと躍り出た。三人は不思議そうな顔をしている。

 代表するように、アダンが口を開いた。

 

 「あれ、仲間は?」

 「ちょっと恥ずかしがっててな。――ほら、来いよ」

 

 振り返って、俺はマリとレネーを呼んだ。

 

 「ちょっと助けてもらいたいのだけど」

 

 何とも皮肉な台詞とともに、マリはその姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ