噂話と転機
「あの子に近づくと、想い人と両想いになれるんですって!」
「聞きましたわ!なんでも、’キューピットちゃん’なんて呼ばれてるのだとか!!」
この手の噂話は、聞き飽きるほど聞いています。
失礼しました。
私は、この噂話の人物、’キューピットちゃん’こと、ミリーア・アスバノでございます。
ちなみに私は、侯爵令嬢をしております。
ここは、バードナ王国といい、国王陛下と3つの公爵家により、成り立っています。
そして、王国の未来を背負うものたちは、王立ウェールト学園に入学し、4年間学びます。
卒業後の進路としては、女性は嫁ぎ、夫となるものに尽くし、男性は、騎士団や王政に携わる文官として働きます。
と、この国の説明はここまでにします。
冒頭の’キューピットちゃん’のウワサに戻ります。
始まりは、私の婚約者に<想い人>ができてしまったことでした。
かつて私は、3大公爵家であるエスカル家の長男・ウィリアム様と婚約しておりました。
関係性は良好だったと思います。ただ恋愛感情をお互いを見ることなく、将来のパートナーとしての認識でした。
ある日、婚約者であるウィリアム様から、
「伯爵令嬢のユミール・サガリタに一目惚れしてしまったので、婚約破棄してほしい」
となんとも無責任なことを言われました。
私としても、簡単に認めることができず、思いが通じ合えば、婚約解消をすると伝えました。
ウィリアム様には、愛情はありませんでしたが、何かしら情があったのだと思います。
もし振られたときを想定し、うまく行けばとウィリアム様に有利な条件を出しました。
ウィリアム様自身は、そのことに気づき、礼儀や立場を考えながら、ユミール様に近づき通じ合うことができました。
その後、両家の納得のもと円満的に婚約解消することができたのです。
その出来事により、ウワサがが形を変えながら、周囲に広がっていったようです。
そのため、私には、学園内にゆっくり過ごせる場所はありませんでした。
婚約解消しても、私は、エスカル家には通っていました。
理由としては、親友であるマリーお姉さまに会うためでした。
元婚約者宅ということもあり、はじめは渋りましたが、ユミール様にも、ウィリアム様にも、今までと変わらず過ごしてほしいと言われたので、マリーお姉さまとの友情は切れることはありませんでした。
今日もマリーお姉さまに会いに、エスカル家にお邪魔していました。
「ミー、どうしたの?お菓子美味しくない?」
私の表情が、暗く見えたからかはわからないが、心配して声をかけてきました。
「マリーお姉さま、私は大丈夫です!と言いたいところだけれど、少し問題ができてしまいました。。。」
私の返答を聞くなり、マリーお姉さまは、人払いをし聞く体制に入ったので、その問題について説明しました。
「実は、ウィリアム様との婚約破棄がなぜか私にすがれば想い人と両思いになるなどといった内容に変わっておりまして、令嬢方や令息方が休み時間のたびに私を訪ねてくるのです。ですが、ウィリアム様とユミール様は、自身で勝ち取った運命なのですから私は何もしておりません。なのに、日に日に訪ねてくるものは多くて大変です。」
それを聞いたお姉さまは、
「確かにミーは、あの子達を応援しただけで何もしてないものね。。このこと、ユーリお姉さまに伝えたの?」
ユーリお姉さまとは、私の姉であり、隣国スタン帝国の公爵家に嫁いで隣国で生活しているユーリカ・アスバノこと、ユーリカ・フェルノート公爵夫人を言います。
お姉さまは旅行が好きで、庶民のように見た目を変え、礼儀や言葉遣いまでも変え、旅をするのが好きな方で、旅先で、奉仕活動などを行うような方です。
ちなみに、私とマリーお姉さまは、ユーリお姉さまを尊敬し、ロールモデルとしていました。
「話しましたわ。。そしたら、スタン帝国に留学に来なさいと言われてしまいましたわ。。。マリーお姉さまと離れるのは嫌だし、だからといってここで暮らし続けるのも嫌だし。。。」
悩みを打ち明けると、マリーお姉さまは少し考えたあとにこう言いました。
「なら私も、一緒に行くわ!!なんか楽しそうじゃない?」
と軽く答えられるので、驚いて何も返すことができませんでした。