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6-6.早撃ちロシアンルーレット

 あれは誰だ。カノではないことは確かだが、あの傘を突いてトラップから出て来るのは、え、まさか、ニ、ニーボリか。ニーボリなのか。なぜ奴がここに居る。


 ニーボリはしゃがんで懐からライターを取り出し、何かに火を付けた。何だ、あれは。線香に見えるのだが、なぜ線香に火を付けるのだ。親戚か知り合いがここで死んだのだろうか。線香には白い線が繋がっている様に見える。


 立ち上がったニーボリは不安そうな顔でちらちら後ろを確認しながらこちらへ向かって来た。後ろというか二階の部屋を気にしている様だ。何度か振り返ると今度は満足した表情になり、振り返らなくなった。俺も同じ様に二階を確認すると一瞬ツヅキらしき人物の姿が見えた気がする。なぜ二階のあの部屋にツヅキが居るとニーボリの不安な表情が満足した表情に変わるのだろうか。


 この駐車場には車が二台だけ並んで駐まっている。ニーボリはそのうちの建物側の車のドアを開けようとした。ガチャガチャと雑にアウターハンドルを引っ張ると、直に諦めて、俺の居る車に近付き、俺の存在に気付いた。


 ニーボリは俺に笑顔で会釈する。普通の知り合いの様に俺に挨拶しないでほしい。ニーボリを無視するという選択肢もあったのだが、無視し続けると何をされるか分からないので、俺は仕方なく車を出た。


「車の陰でしゃがんだ方がいい」

「え」

「あと数秒だ。ガラスが降ってくるかもしれねえぞ。どうしたんだ、その包帯」


 俺はニーボリが何を言いたいのか分からなかったが、その発言に悪意が含まれている感じがしなかったので、指示通りにしゃがんだ。ニーボリも傘を差してしゃがむ。


「あ、しまった。キュウリ要らねえわ。導火線だけでよかったんだ。まあ、いっか」


 ニーボリが言い終わると同時に聞いたことがない程の強烈な轟音が炸裂し、地面が揺れた。何か、空気の圧力か分からないが、体の中がビリビリと震えている。何が起きた。落雷か。


 俺は辺りの様子を確認すると、先程の二階の部屋から黒い煙が上がっていた。ツヅキが居た部屋だ。爆発したのか。


「あれま、酷い。爆発事故だ」


 ニーボリが傘を投げ捨てて俺に言った。ニーボリと爆発、関係がない訳がない。何が事故だ。どうせニーボリが仕組んだことだろう。


「俺、裏に車駐めてんだけどよ。運転手がトラップの中でポイントナインの女にやられたんだよ。そんで俺、そいつから鍵回収するの忘れてて。その後、別のポイントナインの女をやってよ、ポケット調べたらこれが出て来たんだ。この車の鍵だよ。ほら、ドア開いた」


 ニーボリが俺に鍵を見せびらかした。俺にはまだ爆発の衝撃が残っているのに、この男は何ともなさそうだ。


 俺はどうすればいい。俺は今、鉄砲を持っている。ツヅキが出て行ってから直ぐに車を調べたらグローブボックスに入っていた。その上、脱獄グラブも持っている。前にニーボリから盗んだ物だ。


 俺とニーボリは車を挟んで立っているのだが、この距離なら俺でも当てれるのではないか。しかし、当然ながら直ぐに反撃されるだろう。何なら、俺の攻撃は当たらず、ニーボリの反撃だけが俺に当たるということも考えれる。だが、もしかすると俺はニーボリの頭を一発で撃ち抜けるかも、いや、あり得ないか。どうするべきなのだろう。


「んじゃあ、俺は行くから」


 ニーボリが車に乗ってしまった。俺は、どうすることもできない。戦うなど俺には無理だ。ニーボリと正面切って戦うのは正気の沙汰ではない。絶対に無理だ。やるやらないの問題ではない。無理なのだ。


 正直に言って、ニーボリには早くどこかへ行ってほしい。この男と居てもロクなことにならない。俺の前に居ないでくれ。そして、もう二度と俺の前に現れないでくれ。行け、ニーボリ、行け。


 ニーボリが車に乗ってから数秒経ったが一向に車は出発しない。それどころかエンジンが掛かってすらない。何をしているのだ、早く行けよ。まだ行かないのか。・・・まだかよ。何をもたもたしている。


「って、おーい。止めろよ。ここで俺がどっか行ったらおかしいだろ」


 ニーボリが車から飛び出して言った。なぜか嬉しそうだ。俺はうんざりするしかない。ニーボリ、行かないのか。俺などどうでもいい存在だろう。他のポイントナインの構成員が襲って来るかもしれないのに、そのリスクを冒してまで俺とここで過ごしたいのか。


「問題はお前もだ。お前なんて大問題だよ。普通に殺し合いする訳いかねえからな。ゲームの形の中で殺さないといけないなんてほんっとに大問題。お前を見逃す訳ないだろうが。残念だったな」


 この発言で俺は決心した。ニーボリを殺す。でないと、難癖を付けられて俺が殺されてしまう。もう誰かが助けてくれるのを待つ時間はない。殺される前にやるのだ、今。


 俺はグラブを嵌めた手で鉄砲をニーボリに向けた。ニーボリは車の反対側に居て、胸から上だけが見えている。よし、撃つぞ。どこを狙うか。頭か、心臓か。そもそも俺が撃ってどれ程正確に当たるのだろうか。ぼんやりと胸の真ん中を狙った方がいいのか。いや、どこでもいいから撃て。早く撃て。


「そのグラブ、俺のだろ。それは脱獄グラブっつって入手が難しいんだ。新しいの探すのに苦労したよ、このグラブな」


 ニーボリは余裕の態度で手に嵌めているグラブを俺に見せた。その手には鉄砲が握られている。


「お前は鉄砲を構える姿が様になんねえな。やめとけ。この時点で俺を撃てねえんなら無理だよ。でも撃たなくて正解だ。俺はこの下でお前にこれを向けてたからな。お前が撃ってたらお前の腹に穴が開いていた」


 くそ、何だよ。どうすればいい。ニーボリに撃つ意志がない様なので、俺は取り敢えずニーボリから狙いを外した。


 ニーボリの言うことは正しい。俺には無理だ。撃っても俺が殺されるだけだと確信してしまった。そもそも俺は人を撃てそうにない。相手が攻撃してきたら自衛のために撃てそうだが、今は指が動かない。一センチでも動いてくれれば皆が幸せになると分かっていても俺には撃てない。俺にできるのは威勢を張ることくらいだ。


「早く俺の目の前から消えろ。消えないと撃ち合いになるぞ」

「あ、ロシアンルーレットやろうか」


 無視された。当然か。ハッタリが通用する相手ではない。


「互いに鉄砲に一発だけ込めるんだ。そんでテキトーに弾倉を回した後、相手に向けて撃ちまくる。先に死んだ方が負けで生き残った方が勝ち。撃つ切っ掛けは、どうしよう、あ、これ、懐かしいな、あのときの硬貨だよ。ずっと入ってたか。これを投げて、落ちたら撃とう。落ちる前に俺が撃とうとしたら、しゃがんで避けな。これでいい、完璧だ」


 ニーボリは話をどんどん進める。俺の意見を反映する気はなさそうだ。この男は俺に命を賭けた勝負を気軽にさせようとしている。なぜただの博奕打ちの俺がロシアンルーレットという野蛮なゲームをしないといけない。やりたくない。


「やりたくなさそうにすんな。お前はやるしかねえよ。お前、本来ならとっくに撃ち殺されてんだからな、俺に。これは超破格の条件だ。お前に生き残る可能性残してやってんだから。俺に得ねえぞ。まあ、お前を普通に殺しても面白くないから別にいいんだけど。お前が贅沢言える立場なのかなあ」


 俺はどうしてもこの様な訳の分からない場所で射殺される運命を迎えたくなかった。だが、ニーボリは手心を加える様な甘い男ではない。俺が幾らごねても勝負をさせるだろう。となると、前の硬貨の勝負のときの様に相手の隙を突いて逃げるしかない。だが、この平坦な駐車場で鉄砲を持ったニーボリからどうやって逃げろというのだ。不可能だ。


 くそ、殺すしかない、俺が、ニーボリを。殺しのプロであるニーボリを一般人である俺が殺すしかない。絶望的だがそれしかない。


 このマワシには六発込めれるので、普通にロシアンルーレットをしてニーボリが死ぬ確率は六分の一か。いや、俺が死ぬかニーボリが死ぬかだから二分の一だ。二分の一、いけそうだぞ。二回に一回は大丈夫だ、いけるか。いや、そんな単純な話じゃない。無理だ、絶対ニーボリが生き残る。こういった勝負で生き残ってきたから今のニーボリがあるのだ。普通に勝負したら俺は死ぬ。


 ・・・あ。


 俺は自分の血管が開くのを感じた。閃いてしまったのだ、ニーボリを打ち破る方法を。しかも、手錠、先程まで俺がされていた手錠もある。もしかしたら生け捕りできるかもしれない。閃いてしまった、ということは、戦わねばならない。結局、やるしかないのか。


 しかし、閃いたはいいものの、確実ではない。六分の一の確率で俺は死ぬ。六分の一か、二分の一に比べたらかなりマシだが。そもそも俺の考えていることは本当に実現するのか。


「じゃあ、ロシアンルーレットが嫌なら正々堂々撃ち合いの勝負をするか。もう俺はお前の決断を待たない」

「逃げなくていいのか。あの爆発だ。警察が来る」

「来ねえんだよなあ、それが。強盗があってもお巡りが来るのは早くて半日後だ。それに今日は色んなとこで事件が起きてるから連中も忙しい。お前の当てを外してやったぜ」


 ニーボリには本当に焦りの色がない。自分が捕まらないことを確信しているのだ。こうなったら、もう、やるしかない。


「・・・分かった。お宅のルールでやるんだな」


 ニーボリが笑った。


「え、やりたいの?仕様がねえな。やりたいのね。分かったよ、お前がボスだ。お前の言うことを聞こう。やるか」


 俺は、何言ってんだ、こいつ、と思っていると突然した音に驚いた。ニーボリが鉄砲を車の屋根に思い切り叩き付けたのだ。


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