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2-5.不在

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「嘘だ、負けたの、マジかよ」

「けっ、てめえ、一個も当てらんねえでやんの」

「そんな、無理だろ、これ」

「そっちの傷の男は当てただろうが」

「こいつが異常なんだよ。おれが普通だ」

「負けたのはてめえのせいだかんな」

「んだと、そもそも当てられたのはキカじゃねえか。キカがテキトーに選んで頭使わねえから読まれたんだよ」

「はあ、おれかよ。おれ、関係ねえだろ」

「関係ねえは違うだろ。関係なんて大ありだろ」

「なし寄りのありだろ」

「あり寄りのありだ、外道が」


 女達が言い争うのは予想外だったが、俺の勝ちに間違いはない。これで俺は助かった。助かったのだよな。そうだよな。


 ツヅキは机から立ち上がり、俺の目の前に再び立ちはだかった。


「ここから出たら直ぐにテラを返せ」

「ああ」

「逃げようと思うな」


 そう言うとツヅキは部屋を出た。ぶつぶつ何か言っている。


 ツヅキが視界から消えると、どっと疲れが出た。肩に重りが乗っかっている様な気がする。膝が床に付きそうだ。


「カイライ、行こうか」


 カノが足を引き摺りながら俺の許へ来た。まだ痛いのか。


「おい、傷の男、どうやって当てたんだ」

「本当に勘なのか」

「てめえら、敵となんか喋んじゃねえ。傷の男どもはさっさと帰れ。直ぐにテラを解放しろよ」


 ヒコが俺達を睨み、背中を押した。俺達は悲鳴を上げる。俺は先程ツヅキにボコボコにされて全身打ち身状態だから、カノは足が痛くならない様に絶妙なバランスで立っていてそれを崩されたからだ。カノの悲鳴の方が大きかった。


「早く行け」


 ヒコが言うので俺は早速、部屋を出た。カノが付いて来なかったので部屋の外で待ってると、カノは壁伝いにゆっくりと出て来た。いつも通りに歩けないのだな。これでは十秒で行ける所が一分掛かりそうだ。カノの後ろには俺達を見送るためにヒコが居る。見送りというより監視か。カノを置いてさっさと行く訳にもいかないので、カノに合わせて玄関に向かった。


「ぐっ」


 カノが玄関に差し掛かったところでバランスを崩し、チェストの上に倒れた。来るときに見た鉄砲が乗ってるチェストだ。


「お前、やめろ」


 ヒコが注意した。


「好きでやった訳じゃねえよ」


 俺はカノのために玄関の扉を開けて押さえた。カノが通り過ぎる。ヒコも通り過ぎる。俺はヒコのために押さえている訳ではないのだが。俺は扉を閉め、ヒコに車を使う許可を求めた。あの車にはテラが居る。ここに置いておく訳にはいかない。


「駄目に決まってんだろ。歩いて帰れ」

「カノさんは歩けねえよ」

「知るか」

「それに車はテラの引き渡しに要る。俺はお宅らと直接会う気はもうないからな。これからテラさんをあの車に乗せて、お宅らに車の場所を教える」

「・・・分かったよ。えー、鍵はどうしたっけ」

「俺が持ってる。テラさんから取った」

「・・・ちっ、行けよ」


 俺は車に向かった。運転席のドアを開けて乗り込み、リアシートのテラを確認した。瞬間に心臓が痛い程縮んだ。そのときの俺の心情は一生忘れることはないだろう。きっと死ぬまでトラウマとして俺に付き纏うと思われる。そこに、リアシートに、眠っている筈のテラが居なかった。


「・・・は」


 俺は一先ず運転席に収まった。チェンジレバーを握る。なぜ自分がレバーを握ろうと思ったか覚えていない。何を、何が起きている。どうする。降りるか。テラが消えたと正直に打ち明けるか。いや、そうなるとツヅキは俺を殺すかもしれない。このことは隠し通さないといけない。


 助手席のドアが開いた。カノが乗って来る。


「痛え」


 カノがドアを閉めた。一方の俺は気絶し掛けているため発車できない。痺れを切らしたカノが俺に声を掛けた。


「お前、どうした。顔面真っ白で唇がガタガタ震えてるぞ。だ、大丈夫か。死ぬのか、お前」


 その声で我に返った俺、俺は訳も分からず車を発進させた。無事にポイントナインの敷地を出れたのはいいものの、これから俺はどうすればいいのだ。消えたテラは一体どこへ行ったのだ。


「俺、上手くやっただろ。お前の科白で、俺に通しをやれってことか、ってピーンと来たんだ」

「・・・」

「でも、カウントダウンのアイディアもよかっただろ。テキトーに札を出すのが嫌だから何か意味のある順番にしよってなって思い付いたんだ。カイライなら分かってくれると思ったよ。『8・7・6』ってな。お前、俺に感謝しろよ」

「・・・」

「これ、見ろよ」


 カノが鉄砲を取り出した。しかし、それはカノが前に見せてくれたマワシではない。ポイントナインのトラップで見たスベリだ。なぜカノが持っている。


「珍しいからパクってやった。若に自慢するぜ。で、このボタンを押すと、マガジンが落ちて来るんだよ。でも、見ろよ。なぜかマメが入ってねえの」

「・・・」

「お前、どうした。涙目だぞ」


 俺はポイントナインのトラップの緑色の壁が見えなくなったことを確認して車を路肩に停めた。先ず、もう一度リアシートを確かめる。間違いなく誰も居ない。次に車を降りてバックドアを開ける。誰も居ない。俺は運転席に戻り、ハンドルに額を擦り付けた。そのときに間違えてクラクションを短く鳴らしてしまったため、その音に驚いて上体を起こした。くっ、動揺するな、俺。俺は頭を抱えた。


「何やってんだよ」

「・・・」

「教えろって」

「テラが居ない」

「え」

「・・・」

「テラって、お前が拐った女だろ。どこに居るんだ」

「拐ってはない。この車で眠らせただけだ」

「は」

「お宅の眠り薬入りの飲み物でこの車に閉じ込めて拐ったって嘘吐いたんだ」

「・・・あー、そうだったのか。お前一人でどうやったのかなと思ってたけど、そもそも拐ってなかったのか」

「・・・」

「居ないって、はあ?やっべーっぞ。やっべーって。何で居ないんだ」

「・・・」

「テラは起きたんだ、薬が切れて。で、帰ったんだ」

「帰ってたら俺達の所に来る筈だ。任務中に居眠りしたんだぞ、どうなったか確かめるだろ、普通」

「ああ、そっか。じゃあ、誰かが連れ出したのかな」


 ・・・誰かが連れ出した?


 俺はその言葉にハッとさせられた。なぜ気付かなかったのだろう。自分で車から出たのでないのなら誰かが出したに決まっている、人間は煙の様に消えれないのだから。


 そうだ、誰かが出したのだ。そいつからテラを取り返さないといけない、できるだけ早く。


「そうだ、お宅の言う通りだ。誰かが本当に拐ったんだ」

「あ、そう。誰なの、そいつ」

「・・・俺達は袋を頭に被らされたよな。ってことは、あのトラップの場所は外部の誰にも知られてないということだ」

「え、じゃあ、身内の犯行ってことか。ポイントナインの中に反逆者が居るんだ」

「でも、・・・身内なら、ツヅキが居るときに誘拐するか。俺なら居ないときにする」

「ああ、俺もそうするな」

「・・・俺達は本当に付けられていたのかもしれない。付けるとしたら誰だ」

「ええ、付けられてたのかよ。誰だろ。あ、中ゼミだよ。お前はビンゴとか恨まれるだけの理由があるからな」

「中ゼミか。中ゼミ、どうだろう」

「・・・」

「お宅、組織に自分の行動を逐一報告してんのか」

「そりゃ、もちろん」

「あの駐車場のことも言ったのか。集合場所の駐車場」

「・・・。いや、ポイントナインに誰にも言うなって言われたから言ってない」

「あ、そうだ、ナカセだ。ナカセが何か見たかもしれない。ナカセに電話しよう」


 俺は辺りを見渡した。直ぐそこに電話ボックスがある。あれだ。俺は急いで車から飛び出した。あ、飛び出しは危ない。電話ボックスは逃げないのだから慌てる必要はないのに俺はどうも気を急いている。


 財布に小銭があることを思い出しながら電話ボックスに着いた。ドアを開けようとしたが、力を掛ける方向が駄目なのか、上手く開かない。どうして電話ボックスのドアは変な構造なのだ。普通のドアでいいだろう。


 俺は落ち着いてドアを開け、ナカセがよく行く雀荘に電話した。しかし、いつまで経っても出ない。くそ、店員は何やってんだ。俺は待ち切れず、電話を切った。今度はナカセの滞在先に掛ける。ナカセは、ビンゴの賭場が自宅から遠いため、一時的に週貸しの短期賃貸に滞在しているのだ。早く出ろ、ナカセ。


「もしもし」


 よし、出た。


「ナカセさん、俺だ」

「あ、カイライさん。あんた、大丈夫なのか。僕、車、あれ放置したけど、いいの?」

「車?ああ、カノさんの車か。あれは放っといていい。それより、お宅、いつ起きた」

「いつって、あんたとカノさんが女と話してたときだよ。その女に縛られてなかった?」

「そう、合ってる。その後、俺達がその女の車に乗せられただろ」

「うん、で、どっか行ったけど、どこ行ったの」

「その車の後を付ける車はあったか」

「後?ああ、あー、そうそう、あったよ」

「え、マジか。見たのか」

「見た」

「どんな車だった」

「普通の車だよ、銀の。何か、よくある四人乗りの車。それがどうしたの」

「もっと詳しい情報はないのか。傷とか凹んでるとかの特徴は」

「あー、その車のナンバーがさ」

「ナンバー覚えてるのか」

「覚えてるよ。ナンバーが惜しかったんだよな。『11893』で、いいヤクザ。何だよ、いいヤクザって。悪いヤクザなら完璧だったんだけどね」

「分かった。また掛けるかもしれないから今日は電話から離れないでくれ。もう切るぞ、いいな」

「いいなって、あんたが掛けて」


 俺は受話器を戻した。急いで車に戻る。


「どうだった」


 乗るや否やカノが聞いてきた。


「一般的な四人乗りで銀の車だ」

「ああ、よくある車だな。そういうタイプの車、ウチにもあるよ」

「そうなのか。で、ナンバーが『11893』だ」

「ああ、そういうナンバーの車、ウチにもあるよ」

「そうなのか。・・・ん?どういうことだ」

「だから、ウチの車だよ。いいヤクザ」

「・・・」

「何でお前がウチの車のナンバー知ってんの」

「・・・」

「なあ」

「俺達を付けていたのはニシマツだ」

「え」


 カノは驚いている様だった。しかし、俺はカノに構ってる余裕はない。


 ニシマツがテラを拐うということはニシマツにとってポイントナインは敵なのか。なぜポイントナインを敵対視するのだろうか。もし、テラが敵の一味として拐われたのなら、殺される可能性もあるのではないか。そうなってしまったら、俺はツヅキに殺されてしまうぞ。


「ニシマツってフルズと関係持ってんのか」

「ずっと鉄砲を売り付けてたけど」

「手を組んでたのか」

「いや、そういう訳じゃない。ただの客」


 俺は何が何でもテラを保護しないといけない。でないと、俺が死ぬ。今、テラの居場所を掴むためにはニシマツでテラの誘拐を指示した者に接触するのが一番早い。


「もしニシマツがテラを拐ったとしたら若は把握してるか」

「まあ、そりゃ把握してるだろうな」

「会いに行くぞ。案内してくれ」


□□□□□□

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