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2-4.51枚ゲーム

 卓に戻ると、その卓を囲む様に群衆ができていた。既に傷の男は卓に着いていて、ニシマツの構成員も俺が外に出させた弟分も戻って来ていた。俺は群衆を掻き分け、傷の男の対面に座り、カンニングペーパーを足の間に置いた。


 俺側の卓の上には赤と白のトランプ、そして二つの茶封筒が置いてあり、相手側には現金五千万が置いてある。


 傷の男が説明を始めた。


「それらはモルヒロさんが用意してくれた。ジョーカーは取り除いてある。俺は調べたから、お宅も調べてくれ」


 俺は取り敢えずトランプを両手の間に広げてみた。傷の男は続ける。


「お宅も金を置いてくれ」


 俺のトランプを調べる手が止まった。俺は上目遣いで傷の男を数秒見た後、弟分に顎でしゃくって金を置くよう指示した。


 弟分は戸惑いながらも鞄から金を取り出し、机に置いた。傷の男は満足げに頷き、ルールの確認をする。


「互いにトランプを持ち、そこから一枚抜いて茶封筒に入れる。茶封筒は卓の中央に置き、どちらかが特定するまで触れてはいけない。トランプを混ぜたら交換してゲームスタートだ」


 俺はトランプを置き、茶封筒に手を伸ばした。簡単には透けなさそうだ。


「ゲーム中の注意点は、何だろう、二つの束に振り分けるとき表向きでも裏向きでもいいが後戻りするのは駄目なことと制限時間一分を守ることくらいか」


 俺は顔を上げた。


「あと、先攻が特定できても」

「そうだった。後攻にもチャンスを与える。これでいいな」


 俺は頷いた。


「じゃあ、始めよう。お宅がどっちのトランプにするか決めてくれ。俺はどっちでもいい」


 傷の男は椅子に浅く座り、背もたれに体を預けている。リラックスできている様だ。なぜ五千万もの大勝負なのに余裕で居られるのだろう。こういったことがよくあるのだろうか。


 俺は卓の上の赤いトランプを取り上げ、手に持っている二枚の茶封筒の一方を俺の許に置き、もう一方を赤いトランプと共に傷の男に渡した。そして、卓の上の白いトランプを取り上げる。


 白いトランプを選択した理由は単純で、まだ調べていないからだ。赤いトランプには何もなかった。


 傷の男は一度咳払いをし、両手の間にトランプを広げて言った。


「一枚抜いて茶封筒に入れよう」


 一枚のトランプの選択、ただの選択ではない、相手がこれから必死になって特定するトランプの選択だ。どれにするべきかよく考えよう。


 俺は手の中でトランプを広げ、一通り目を通した。その結果、俺の直感が目立つ数字は避けた方がいいと知らせてきた。


 目立つ数字、則ちAやK、7など。目立つ数字は作業の途中でバレてしまう気がする。途中でバレたら四回目の作業を迎える前に勝負が決する、その様な事態は避けなければならない。


 目立たない数字、2とか6とか?だが、これはこれで目立たない数字の定番として目立っている気がする。3はAを除くと最小の奇数だから目立つ。9は6と似過ぎているし、4は縁起が悪過ぎる。8は逆に縁起がいいから駄目だ。5ならいいのか?何だこれ、水掛け論か?結論出るのか?一回この考えを消そう。


 俺が今までの人生で形成してきた理論で使えるものはないか探そう。何か、ヒントになる様なもの。あ、ある。あるぞ。


 それは名を冠するならカウントアップ理論、人は複数の数字について考えるとき小さい順に考える傾向があるという理論だ。この理論を適用すると、普通の人間なら先ずAが四枚あるかを検討し、次に2が四枚あるかを検討する。つまり、最後に検討するのはK。抜く一枚をKにすると十三個の数字を全て調べなければいけないので、かなりの時間を要する。


 しかし、Kが絵札であることが気掛かりだ。絵札は数札と比べると異質で目立つ。絵札は避けておいた方がいいかもしれない。となると、Tか。Tだな、Tでいこう。


 では、マークはどうする。♠︎♡♣︎♢の四つ。俺が普段なら最も選ばないのは♡だ。その次が♣︎か♢。今回は何がベストなのだろう。


 ・・・『♢T』、これを俺の選択としよう。決定だ。もう変更しない。


 俺は周りのギャラリーに見えない様に『♢T』を抜き出し、茶封筒に入れた。俺が動き出すのを見てから傷の男も一枚を茶封筒に入れる。そして、俺は茶封筒を卓の中央に置き、その上に手帳を乗せた。これは何らかのアクシデントでこの茶封筒が傷の男の方へ吹っ飛んで行かない様にするためのものだ。傷の男も俺の真似をして胸ポケットから取り出した物を茶封筒の上に乗せたが、それは金色に光るマメだった。なぜマメを持ち歩いているのだ。


 傷の男は手に持っているトランプを混ぜ出した。俺も同じく混ぜ、互いに混ぜ終わると交換した。これで俺の許に赤いトランプがやってきた。何かが一枚抜けているトランプだ。


「時間はこの人が計る。先攻後攻はどうする」


 傷の男が、卓の隣に立つ腕時計を手に持った従業員を指差した。その後ろでモルヒロが怖い顔をしている。


 先攻後攻か。どちらも大差ないが、先攻の方が自分のペースで勝負に入れるから、先攻にした方がいいかな。


 俺は先攻を希望し、傷の男がそれを認めた。これで勝負前にやるべきことは全て完了したことになる。あとは誰かがゲームスタートの合図をするだけだが、場の雰囲気からして、それをするのはこの俺だ。


 俺は一息吐き、気持ちを落ち着かせた。そして、左手首の腕時計の位置を確認して座り直し、従業員に始めるよう伝えた。


「いいですか。よーい、スタート」


 ゲームが始まった。一分以内に作業を終えないといけない。


 俺は頭の中で、表向きで奇数が左、と繰り返し唱えながら、トランプの一番上を取り上げた。


 『♢K』、これは左だ。次。


 『♢2』、これは右。次。


 『♠︎T』も右。


 この様に続けて行った。


 『♠︎8・♠︎6・♠︎K・♢7・♠︎9・♡Q・♢J・♣︎8・♡8・♠︎4・♣︎2・♣︎A』、奇数が少ない様だが、俺はどこかで間違えたのか。いや、迷うな。大丈夫に決まっている。


 『♢3』、右、違う、左。


 くそ、間違えるな。


 『♣︎K・♠︎5・♡7・♡6・♣︎5・♣︎9・♢T・♡5・♣︎Q・♡K・♡T・♡J・♡A・♣︎J・♠︎J・♠︎A・♡3・♣︎7・♢6・♠︎7・♣︎4・♢5・♡4・♣︎3・♣︎T・♢A・♢9・♢Q・♡9・♠︎3・♢8』と続いた。


 腕時計を見る。まだ余裕だ。


 『♡2』、右。『♠︎2』、右。『♠︎Q』、右。


 全部を無事分け終えた。右の束を左の束の上に乗せ、全体をひっくり返す。


「じゃあ一分まだ終わってないですけど、いいですか、始めて」


 従業員が傷の男に言った。頷く傷の男。時間がまだ余っているのなら俺の許可も必要な気がするが、まあいい。


「よーい、スタート」


 傷の男が一番上のトランプを取り上げ、作業を開始した。俺と違い、裏向きで左右の束を作っている。俺は少しの間だけ眺めていたが、直ぐに足の間のカンニングペーパーに視線を落とした。


『②37J26T』


 俺のトランプは上半分が奇数、下半分が偶数になっている。取り上げるトランプが奇数ゾーンにある場合は37Jを探し、偶数ゾーンにある場合は26Tを探せばいい。決して難しい作業ではないので、焦らない限りミスはしない筈だ。


 傷の男が分け終えた。傷の男のトランプを見てみると、俺にとって異様な光景がそこにあった。右の束の高さが左の束の高さに比べると断然低かったのだ。俺は左右の束は同じ高さになるものだと勝手に思っていたが、一体どの様なルールで分けたのだ。


「いいですか、よーい」


 気が付くと傷の男はトランプを元の状態に戻しており、俺に番が回っていた。


「スタート」


 あ、早、待っ、しまった。


 俺は慌てて一番上のトランプを取り上げた。


 『♢K』、えーと、37Jだ。落ち着け。相手は関係ない。俺は俺のすべきことをするだけだ。


 最初に出てきた37Jは『♢7』だった。その次が『♢J』、その次が『♢3』だ。


 こういった調子でトランプを振り分けていき、『♠︎3』を左に置いた後に取り上げたトランプが『♢2』だった。偶数ゾーンに突入したのだ。


 26Tが左、それだけを考えろ。


 十数秒後、俺は分け終えた。束を重ね、元の場所に戻す。


 ミスしてないよな。ミスしてない筈だ。


 俺は自分に言い聞かせ心を落ち着かせた。


・・・(※)

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