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4-1.マメ作り

「秘密結社?」


 カイライが笑いながら俺の言葉をオウム返しした。いい歳こいてその様な幼児性の強い言葉を使うな、と言いたいのだろう。


「マジだよ。ジューロクポイントナインっていう秘密結社、まあ、そういう新しいギャングがフルズと揉めてんだよ。だから、お前の勝負の話が中々纏まらないんだろうな」


 カイライが俺達のトラップに来て三週間は経つ。いつフルズと再戦するか、まだ決まっていない。カイライはいつも暇そうだった。やったことといえば、銀行に行ったくらいだ、金を預けに。


「フルズって東で最大勢力なんだろ。そんな意味の分からないギャングを相手に手子摺ってんのか」

「苦戦してるらしいぜ。ポイントナインの噂を色々と聞くんだけどよ、最新鋭の武器を持ってるとかタナカ・リョーコっつう大女がフルズの兵隊を薙ぎ倒してるとか」


 カイライの顔に、何だそれ、と書かれている。


「どこまで本当か分かんねえけど苦戦してんのはマジらしい」


 カイライは興味なさ気に、へえ、と呟いた。


 俺はマメ作りの最中だ。既にクリーニングとリサイズ、トリミングの完了したケースをプレスに装着し、プライマーを押し込んでいる。


「それ、あと何個作るんだ」


 興味あるか、俺が何個作るかに。カイライは答えを知らなくてもいい様な質問をする程やることがないのだ。


 俺は箱の中の大量のケースを見せた。二つのケースのみがぶつかると、ちゃらちゃら、と高い音が鳴るのだが、箱の中には大量に入っているので、じゃらじゃら、と低い音が鳴る。


「これ全部だ」

「お宅ら、そんなに銃撃戦をするのか」

「今は俺達じゃない。フルズだ。奴らがこれを全部買うんだよ」

「ああ。秘密結社とやり合ってるからか」


 俺は、そういうこと、と返事をした。


「お宅らは武器の販売をやってんの?」

「そうだよ。ウチが最大手だ。ブランドものしか扱わない」

「フルズは何やってんの」

「フルズは賭場だな。あとドラッグとかチャージクラブとか色々だな。ドラッグはアゲグスリとヒカリグスリがメインだ。サゲグスリは中ゼミが売ってる」

「アゲって何」

「アゲってのは気分を上げるドラッグだ。サゲはその逆。ヒカリは幻覚のドラッグで凄いらしいぞ。連中は大儲けだ。皆、鉄砲よりドラッグが欲しいからな」

「じゃあ、何でお宅はフルズに入らなかった」

「連中はストイック過ぎだ。顔にラインが入ってるから表向きの仕事が一切できない」

「お宅も何かやってんの」

「まあ、秘密だ」

「へえ。そういや、昔の友達でドラッグの売人やってる奴が居るよ。今も東でやってる筈だ」

「東でか。東なんて売人がいっぱい居るから競争激しいだろうな」

「何か色付けたり工夫してるってよ。お宅はドラッグやったことあんのか」

「やんねえよ。ドラッグやった奴なんか何人も見てきた。全員ロクでもねえよ」


 カイライは、へえ、と呟くと、退屈そうに伸びをして窓の外のつまらない景色に目を遣った。あ、そうだ。暇なら手伝ってもらおう。


「おい、ここに置いてあるケースをこのローディングブロックに入れてくれ」


 カイライは大人しく俺の言葉に従った。黙って俺の言うことを聞くとは可愛い奴だ。


「お宅も鉄砲持ってんの」


 カイライは作業をしながら聞いてきた。俺は机の上の鉄砲を指差す。


「あれ、俺のだよ」

「撃ったことあんのか」

「あるよ。ギャングだぜ、俺は」

「性能いいのか」

「まあ、マワシの時点でスベリに劣ってるけど、国内にスベリはない筈だからこれが一番ってことになるな」

「何だ、マワシって」

「マワシってのは西部劇の早撃ちとかロシアンルーレットに使うヤツだ。スベリは海外の警察とか軍隊が犯罪者を蜂の巣にするのに使う。マワシと違って一々ハンマーをコックしなくていいし、マメも沢山入る。面白えのが、ウチですら輸入できないのにポイントナインは持ってるらしい」

「何で」

「さあ、知らない。噂だし」

「噂か」

「噂で言ったら他にもポイントナインはミサイルランチャーとかスナイパーライフルとか自動小銃とか戦闘ヘリとかを持ってるらしいぜ。俺も使ってみてえな。俺、そういうの使いたくてギャングになった節があるし」


 この様な他愛もない話をしているうちに、カイライがブロックをケースで埋め尽くした。俺は何の気なしにそのうちの一個を取り上げ、プレスに装着し、レバーを下げ、弾頭を取り付けてしまった。


「あ、火薬入れてねえじゃん」


 俺は工程を間違えてしまった。火薬を入れないとただの金属の殻だ。ケースをブロックに並べたのは火薬を入れるためだったのに。火薬の入ってないマメは危険である。


 俺はプレスに装着してあるマメを外し、引き出しからカラマメ入れを取り出した。


「捨てんのか」


 カイライが俺の手許を覗き込みながら聞いてた。


「ああ。危ねえからな」

「火薬が入ってないなら安全じゃないのか」

「本物のマメと混ざると危ねえ。カラマメを撃っちまうと銃身の途中で止まって詰まっちまうんだよ」

「ふーん。要らないんなら、それ、頂戴」


 カイライがカラマメを強請ってきた。これ、欲しいか。まあ、デザインは格好いいか。けど、危ないからな。


 しかし、カイライの鉄砲について無知なところを見ると、鉄砲に興味なさそうだし、これからも鉄砲を扱うことはないだろう。なら、いいか。


「本物と混ぜんなよ」


 俺はカラマメを手渡した。受け取ったカイライがそれを光にかざすと、カラマメは美しい金色の光線を反射した。カイライはその後、それを胸ポケットにしまった。


 俺はカラマメ入れを戻してファンネルを取り出し、ケースで埋まったブロックを手許に持ってきて作業を再開した。


 これでカイライはまた暇になった。俺に聞くことももうない様だ。手持ち無沙汰になったカイライは、あろうことか俺の鉄砲に手を伸ばした。俺は透かさず注意する。


「おい、危ねえぞ、触んな。鉄砲ってトラブルがあるからな。無闇に触らない方がいい」


 手を止めたカイライが言う。


「トラブルがあるのか」

「あるよ。グラブしてないのにセーフティーが誤作動したりな。あとウチのマワシはマメのリムが見えない様になってるから、記憶違いで何発残ってるか間違えたりする。俺の記憶ではこれには一発も装填されていない筈だが、もしかしたらマメが残っているかもしれない」

「グラブって何だ」

「ん、グラブ、知らないのか。お前、丁半のとき、あ、知らないの」


 俺は笑ってしまった。丁半のとき、フルズの連中が全員でグラブを嵌める脅しをカイライに仕掛けていたが、カイライはその意味が分かってなかったのだ。俺はカイライが強い精神で脅しを跳ね返したのだと思っていたが、実際は脅しと認識すらしていなかったのだ。俺はカイライに説明してやった。


「鉄砲っていうのはな、セーフティーが掛かってて引き金が引けない様になってるんだよ。それを解除するためにはセーフティーグラブを嵌めないといけない。グラブに対応する鉄砲が一丁だけあって、その鉄砲をグラブを嵌めた状態で握ると解除されるんだ」

「ってことは、お宅が持っているグラブでセーフティーを解除できるのはこの鉄砲だけってことか」

「そうだ」

「何か、不便だな。戦場でその鉄砲が壊れたらもう為す術なしじゃねえか」

「そんな簡単には壊れねえよ」

「そうかもしんないけど、不測の事態ってのは必ず起きるだろ」

「まあ、そうか。そうなったとしたら脱獄したのを見付けて他の鉄砲を使おう」


 カイライが、脱獄って何だ、と聞くのと同時に部屋のドアが開いた。そこに立っていたのはナオという名前のウチの構成員だった。


「あ、居た。カイライさん、明日はいけますか」


 カイライは戸惑いながら答えた。


「え、何が」

「何って麻雀やんじゃないんですか、フルズと」

「そうなのか。初めて聞いたな」

「明日の夜に東に行けます?」

「分かった。行ける」

「そうですか。じゃあ、そう伝えます」


 次にナオは俺に話し掛けた。


「じゃあ、カノ、お前もな」

「俺も?」

「俺達でカイライさんを守るんだとよ」


 ああ、そうか。必要だな、その役割の人間は。カイライもその役割をする人間が必要だったから、丁半のときわざわざ俺達の所へ通報したのだ。あのときはたまたま若も行ったが、今回は俺達だけだ。無茶をしに行く訳ではないので若が居なくても心配する必要はないだろう。


 ナオが言った。


「じゃあ今日の午後出発で」


 ドアが閉まる。その後、カイライは立ち上がり、俺に挨拶してから部屋を去った。


 俺はマメ作りを続行した。


 

 ✳︎


 

 カイライはニシマツカジノの客人扱いなので、宿の部屋は俺達とは別の一人部屋を押さえている。俺達は大部屋だ。


 俺は部屋で、今、直面している問題に頭を悩ませていた。俺はどうするべきか。カイライに付いて行くべきか、それともナオ達に付いて行くべきか。どうすればいいのだ。非常に悩ましい二択である。


「大丈夫だって。カイライさんが勝ったとしても俺達が鉄砲振りかざさなきゃいけねえ程トラブることはねえって。行こうぜ。折角東に来たのにチャージクラブに行かないなんて馬鹿らしいって」


 うーん。確かにその通りだ。東に来たのならば普通は行くだろう。この前は若とずっと一緒に居たから行けなかったが、正直な所、行けなくて不満だった。


 しかし、チャージクラブにはいつでも行けるが、カイライの博打はそうではない。とても貴重な機会である。そのうえ、もしかしたら今回でカイライの博打を見るのが最後になるかもしれない。というかそもそも東に来たのはカイライの博打のためだ。


 俺は頭を抱えた。どうしたらいいのか分からない。俺は優柔不断な男だ。絶対にチャージクラブに行きたい。もう自分で分かっている。行きたい。チャージクラブが本音で、カイライの博打が建前である。


「エナジーギャルが全員可愛いんだってよ。組織のネットワークからの情報だから間違いない。行くしかないだろ」


 エナジーギャル全員が可愛いだと。それは行くしかないではないか。俺はその全員が可愛いというチャージクラブに行きたい。


 けれども、やはり駄目だ。正気に戻れ、俺。カイライに付いて行かないと駄目だ。俺自身の成長のためにも行かないといけない。この上なく残念だがチャージクラブは諦めよう。残念でならない。不本意だ。この世は不条理だ。


「分かった。じゃあ開店と同時にそのクラブに行って、カイライさんの博打が終わりそうな時刻に出よう。そんで合流すればいい」


 ああ、成る程、それなら何も問題はない。俺はチャージクラブにも行けて、カイライの博打も見れる。一挙両得の妙案だ。最悪、カイライの博打には行かず、ずっとクラブに居ればよい。トラブルなど起きないだろうからな。ナオ、お前なんて発想力だ。大物になれるよ。


 よかった。もし今回もチャージクラブに行けずにエナジーギャル達とジェンガをすることができなかったら、俺は日々のストレスで死んでいたかもしれない。俺は生き抜いたのだ。残った問題はどうやって他の連中に勘定を押し付けるかだ。


 大問題を片付けた俺は布団の上に大の字で寝転がった。天井を眺め、ふう、と息を吐く。


 あ、別の問題発生。どの様にしてカイライにこのことを伝えようか。上手い言い訳を考えないとな。でも、まあ、いいか。俺達が付いていようがいまいが、あいつは天才だ。必ず勝つ。多分、俺達が居なくても何も思わないだろう。では、よいではないか、チャージクラブに行ったって。言い訳なんて下らないことを考えるくらいなら早く寝よう。


 俺は明日が待ち遠しい気分だった。楽しみだな。

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