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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
145/146

5-9.面会


 今まで一度も通ったことのない通路だな。いや、通ったが昔のこと過ぎて忘れてしまったか。


 私は後ろ手で手錠をされ、三人の先生の存在を背後に感じながら真っ直ぐ歩かされている。嫌な緊張感だ。息が詰まる。ただ、この緊張感というものは毛嫌いする対象ではない。体がこれからのパフォーマンスを上げるために働かせる機能なのだ。そう自分に言い聞かせる。私は久し振りの感覚にどう対処すればいいのかを思い出していた。


 もう既に幾つもの扉を通り過ぎている、一体どの扉に入るのだろう。というか、これ程大きな施設だったのか、ここは。それともずっと狭い房に居たものだから大きく感じられるだけか。


「止まれ」


 後ろに居る先生が突然言った。私は先生が声を出す空気を察せたので、先生が言い終わるときには既に止まっていた。


「壁を向け」


 私は言われた通りに横を向く。そこにあるのは壁だ。暗い通路の無機質な壁、それが私の鼻先五センチにある。複雑な感情だ。早く行きたいのか、帰りたいのか。


 手首が手錠から解放された。三人か。それも戦闘経験の浅そうな三人。実戦からかなり離れているが、この三人ならいけるか。いや、もう頭は動いても体が動かない。確実ではないだろうな。


「こっちを向け」


 私は百八十度回転し、先生と正対した。先生は事務的な口調で続ける。


「三十分だ。当たり前だが騒いだり暴れたりするな。小声で話すのも禁止だ。問題が見受けられる様な行動を取った場合は即刻面会を中止する」


 先生の言うことは常識で考えれば当たり前のことだった。言われなくてもその様なことはしない。だが、わざわざ言うということは、そういったことをする受刑者が本当に居るのだろう。大変だな、先生も。


 私が、はい、と返事をすると先生の一人が近くの扉を開けた。ここからは中が見えない。先生達は私をじっと見詰めたまま固まっている。あとは私が部屋に入るだけ、ということか。


 遂に会う、面会人に。そう思うと私は第一歩を中々踏み出せなかった。ずっとここで立っていたいくらいだ。しかし、そうする訳にもいかないし、私も寧ろ面会人に会いたい。仕方ないので重い足を上げた。緊張が濃くなる。


 部屋に入ると、そこには沢山の椅子と沢山の仕切りが壁に向かって設置されていた。それぞれの仕切りには受話器が掛かっている。壁の半分はガラスになっていて向こうの部屋が見えている。


 一つの椅子の近くに先生が立っていた。先生は何も私に言ってこないが、察するに私はそこに座らないといけないのだろう。


 その席にゆっくりと近付く。その席の部分のガラスはまだ仕切りで見えない。更に五歩近付くと、面会人の遠い方の肩が見える様になった。だが、顔はまだ見えない。まだ見えないが、次の一歩だ。次で面会人の顔が見れる。


 私はもう一歩踏み出した。


 ・・・。


 そこからは何も思わずに席に向かい、座る。すると、先生が少し遠ざかった。


 最後に会ったときと比べて、一気に老け込んだな。それもその筈、最後に会ったのはもう何年も前だ。面会人も私のことを老けたと考えているのだろう。


 暫くの沈黙。面会人は自分から喋り出すタイプではない。では、何を話すか。何を、といっても私に新しい情報はないから、昔話をするしかない。面会人は昔話で盛り上がるタイプでもない様な気もするがな。


 私は受話器を手にした。面会人も同じ様に受話器を手にする。そして、私は声を出すために一つ息を吸った。


(終)

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