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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
142/146

5-6.電灯


 ふう、この展開ならこの男も文句はないだろう、ちゃんとコントラクトを取ったのだから。


 第五ディールは百四十負け、第六ディールは四百二十勝った、どちらも責任払いは私だが。この男は負け続けることや私のプレーを疑っている様だから、テキトーに勝たせてやった。


 さて、次だ。Sがディーラーで私に配られた十三枚、見てみよう。


 私はタバコを灰皿に押し付け、カードを取り上げた。そして、眉を顰める。


 『♠︎J98♡KT95♢QT8♣︎Q52』


 またか。また弱い。今回のブリッジは私達の手札がいつも弱い。これではこの男に変な疑いを掛けられてしまう、本当にただの偶然なのに。しかし、だからといって配り直しをする訳にもいかないし、困った。


 衝立に指が現れた。先ずはNから『1・2』、Sは『1・5』、再びNの薬指、小指、Sが中指、もう一度Nが『2』、Sが『5』。そうか、NはHCPが十二点で♢Aと♣︎Aとアナーを二枚を持っている、Sは十五点で♡Aとアナー五枚。


 オポネントが二十七点で私が八点だから、この男は五点、そして、アナーが十二引く四引く五引く二で一枚。つまり、この男の手札にあるのは♠︎AとJ一枚か。


 そのJのスーツは分からない。アナーの内訳をオポネントから聞くサインもあるのだが、Aの位置を覚えるだけでも面倒なのにアナー全てがどこにどうあるかなど覚えるのは、他人は知らないが、私には無理だ。する必要性もない。情報が過剰だと処理でミスる。そこまでしなくても私達は十分有利なのだ。


 オポネントのHCPが二十五点以上あって、今までの得点で見ても勝っている。3NTで問題ないだろう。HCPの高いSがオープナーだな。


 私はSの方の衝立に三本の指を出して、その後五本の指を出した。三行目の五番目、3NTということだ。


「オープン」


 Nが手札を開き、Sが『3NT』を出す。


 『♠︎52♡84♢972♣︎96』


 この男の番だが、きっとパスだろう。


「オープン」


 ん、オープン?


 ・・・意外だ。HCPが五点でオープンか。先程もそうだったが、剛気な男だ。通常の者なら迷いなくパスするだろう。何か策があるのか、それともただのうつけか。


 私はT以下のカードを露わにした。手に残ったのは二枚、Aとアナーは合わせて二枚という訳だ。これを見てこの男はどう思うのだろうか。


 『4♠︎』


 ビディングカードが控えめに置かれた。自信がないのだろう。しかし、その割にはビッドしてくるのだな。どうするべきか。


 私の手札にはスペードは三枚ある。この男は何枚持っているのだろう。もし六枚以上持っていたら厄介だ。放っておいたら勝手にダウンする様な気もするがビビらせてやるか。


 私はSにサインを送った。Sが『4NT』を置く。その後、この男があっさりパスしたので、Sがディクレアラーになった。ダミーとなったNの手札は次の通り。


 『♠︎52♡84♢AKJ972♣︎A96』


 男は降りたか。しかし、降りるのならなぜオープナーになったのだ。4NTを引き出すためか。まあ、私としてはこの男が責任払いをしてくれればそれでいい。


 男のオープニングリードだ。何を出すかな。スペードでビッドしたからそのままスペードか。


 私からは衝立で男が見えない(もちろんNとSが監視してはいる)。そのため、カードが出てきたら突然に感じるのだ。今回、突然現れたのは♠︎6。予想通りスペードだ。


 Nが♠︎5、私は定石通りサードハンドハイで♠︎J、そしてSが、よし、問題ないな、♠︎4だ。


 ここでSがアナーを出す様では話にならない。男のスペードが長そうなのだ。先ずは勝ことより男のスペードを削ることを考えるべき。


 それにダミーを見るとダイヤのフィネスが要る。私はそれが失敗すると知っているが、オポネントはやらないといけないし、失敗したら私の方に抜け、私はスペードを打ち返さないといけない。そうなると、この男にスペードのエントリーがあっては不都合だ。オポネントがスペードのアナーを出すのは男のエントリーを奪うときであるべき。


 俺が♠︎8を出す。Sが、♠︎K、よし、それでいい。これで男から♠︎Aが出てくる筈だ。それにより男はエントリーを失う。つまり、何もできなくなる。


 男が、・・・そうか、ふん、成る程。そうくるか、♠︎3か。男は♠︎3を出した。Aではなく3、簡単にはAを手放さない。未来が見えているのかと私に思わせる程の素晴らしい判断だ。これからスペードで刈るとなると、ディクレアラーのコントラクトは厳しいかもしれない。


 Nが♠︎2を出し、Sのトリックとなるが、その次、♢3、♢5、♢J、♢Qで私のトリック。ここからだ。ここから、本当はしたくないのだが、スペードを打ち返すしかない。


 私が♠︎9を出し、Sが♠︎Q、男が♠︎A、Nが♣︎6、これで男以外からスペードが消える。男は次を♠︎T、その次を♠︎7で取った。


 不味いな、ダウンした。やってしまったよ、全く。何をやっているのだ、私は。


 ディクレアラーをダウンさせてしまったが、そこから男は♡2を出し、それ以降はオポネントが取り続けた。


 ♡2♡4♡9♡J、♣︎3♣︎9♣︎A♣︎5、♡8♡T♡Q♡3、♡A♡5♢7♡6、♡7♣︎2♢9♣︎4、♣︎K♣︎8♢K♣︎Q、♣︎T♣︎J♢A♡Kと続き、最後だけ男のトリックになった。


 六ダウンか。恥ずべき結果だ。六個もダウンするなどみっともなさ過ぎる。これは男が上手だった訳ではない。私が下手だったのだ。反省しよう。


 今回はノンバルだから男の得点はプラス三百の四分の三、ここまでのを全て合わせると男の得点はマイナス四百三十。つまり、勝ってはいる。儲けは二百万程か。十分と言えば十分だが、もう少し搾りたい。次の最終ディールこそはきっちり勝つ。


 カードが集められNがシャッフルする。その次に私が、最後にSがシャッフルし、それが男に渡る。


 男はカードを、・・・どうした。男がカードを配ろうとしない。カードを持ったまま固まっている。何だ。何を考えている。


 ・・・まだ配らないのか。確かに男はかなり負けているが、手札もないのに一体何を考、む。


「・・・」


 何も見えないな。この卓は窓から遠いうえ、窓にはカーテンが掛かっている。カーテンから透けて見える光は道路の街頭だ。つまり、停電ではない。建物内の電気が消えたのはブレーカーが落ちたせいだろう。


「・・・」


 真っ暗な建物内に店員の、すいません、という声が響く。店員はこれからブレーカーを上げに行くのだろう。それにしてもなぜブレーカーが落ちたのだろうか。


 私は得体の知れない違和感を抱いた。中々配らなかった男、そして、突然消える電気、何かおかしい。


「・・・全員居るか」

「いや、Wの奴がどこかに行きました」

「・・・む」


 何、どこかに行っただと。それは駄目だろう。何を企んでいるのだ、あの男は。暗闇の中、卓を離れて咎められないとでも思っているのか。男の考えていることが分からん。


 電気が点いた。それと同時くらいに男が座る。男は何事もなかったかの様に赤い箱からカードを取り出した。


「おい、あんた」


 Nが男を問い詰める。


「何だ」

「何だじゃない。どこに行っていた」

「様子を見に行っていた」

「はあ、様子?何だそれ。んじゃあ、何でカードが箱に入ってんだ。いつ入れたんだよ」

「停電してから入れた」

「ふざけんな。意味分かんねえよ。何で入れたんだよ。怪し過ぎだろ、それ」

「そうか。じゃあ、満足するまで調べてくれ。皆で混ぜてくれていい」


 男がカードを卓の中央に置いた。NではなくSがそれを手に取って調べ始める。


「いい、調べなくて。受付で新しいのを貰ってくる。いいですね」


 Nが私に聞いてきた。そうか、私はNにとって敵だから私の許可が必要なのか。


「・・・好きにしろ」 


 Nが立ち上がって受付に向かった。暫くしてSがカードを卓に戻し、男がそれを引っ込める。


 この男、Nを止めなかったな。いいのか、止めなくて。そのカードに何か仕掛けがあってそれを使いたいのではないのか。もしそうなら何としてもNを止めないといけないと思うのだが、分からないな、男が何を考えているか。


(続)

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