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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
140/146

5-4.妨害かミスか

 皆で混ぜ、Sが配った。俺の十三枚、今まで弱かったのだから強くなっている筈だ。絶対に勝ってやる。


 『♠︎3♡K852♢K986♣︎QJT4』


 あー、・・・。外れだ。これ、この手札でディクレアラーになれっていうのか。無茶だ。その様なこと、俺にはできない、したくない。だが、しかし、そうは言ってもやらないと得点を稼げない。どうする。何だ、これ、どうすれば。


「パス」


 Sがパスをして俺に番が回る。決めなければ。俺は、俺は、くそ。


「・・・パス」

「オープン」


 駄目だ。幾ら何でも弱過ぎる。オープンしてオポネントにプレッシャーを掛ける手もありかと思ったが、この手札では余りにもリスクが高い。もうパスするしかないのだ。


 『4S』


「パス」


 またゲームかよ、くそ。俺ばっかり弱くて、オポネントがいつも強い。くそ。4SbyNだ。Sが手札を公開する。


 『♠︎AK54♡AQJT♢32♣︎853』


 Aが二枚もある。ハートは強いのばっかだし、くそ、勝てる気がしない。あ、でもハートのフィネスは俺に抜けるな、先程と同様に避けられるかもしれないが。でも、一トリックは取れる筈だ。ミラの手札にAがあるとしたらもう一トリック。オポネントをダウンさせるにはあと二トリックだ。何とか捻出しないと。


 ミラのオープニングリード♢Q、ダミーからは♢2、俺は♢Kを持っているから♢9だ。そして、あれ、Nからは♢4。ミラが勝った。これで捻出するのはあと一トリックで済む。


 Nは♢Aを持ってないのか。あ、いや、違う、ダックだ。ダイヤはヤバい。気付け、ミラ。でも、ミラは敵側だ。絶対ダイヤを出してくる気がする。


 ミラが出すのは、♢J、くそ。やりやがった。Sが♢3、俺が♢6、そしてNが♢A、このエントリー確保のためにダックしていたのだ。不味いぞ、Sからダイヤが消えた。スーツコントラクトでこれは不味い。


 Nが♡3を出した。俺は直ぐにスペードでくると思っていたので意外だった。しかし、今でなくともどうせ後でラフされるに決まっている。


 ミラが♡4、Sが♡A、俺が♡2を出した。そして、直ぐにSから♡Qが出る。俺は♡5を出し、Nは、え、♣︎6?ハートがなくなったのか。くそ、ラフするのはNの方か。


 ミラが♡6を出し、次のトリックに移る。♡J♡8♣︎7♡7で同じ様な展開。そして問題は次だ。Sが♡Tを出した。俺はもう虎の子♡Kを出すしかない。Nは予想通りスペード、♠︎7で殺しにくる(ミラは♡9)。ラフィングフィネス成功ということか。俺の♡Kが上手いこと捕まえられた。俺の貴重なアナーが、くそ。


 俺はそのままトリックを取られ続け、最後の二トリックは俺の♢Kとミラの♣︎Aで取ったものの、ディクレアラーのコントラクトは達成。バルで俺もミラもオープナーにならなかったためマイナス六百二十の半分だ。


 これは仕方ない。手札が悪かったのだもの。この手札で負けは避けれない。・・・はあ。


 少し負け過ぎだ。もう負けれない。次こそ、次こそ強い手が来る。それが確率というものだ。強い手が来ないとおかしい。絶対に来る。大丈夫、来る。来ない訳がない。


 今回のディーラーは俺だ。皆が混ぜた後に配る。一枚ずつ丹精込めて配る。気持ちを込めたのだからAやアナーが俺の手札に集まってくれる筈だ。絶対に集まってくれる。絶対だ。頼む。


 配り終えた。手札を見よう。運命の瞬間だ。


 『♠︎J73♡9863♢QT4♣︎T93』


 うわっ・・・俺のHCP、低・・・くそ、マジかよ。これで勝負しろだと。群を抜いて弱いじゃねえかよ。


 こうなるとは予想していなかった。HCPが一回も二桁にならないとは、偏りが酷過ぎる。くそ、ゴリ押してやるか、これ。やってやるか。


「・・・」


 俺は賢明だ。無茶などしない。勝算がないのならオープンしては駄目だ。本来ならミラにオープナーになってもらいたいが、ミラは敵だ。俺にできるだけ得点が入らない様にするだろうから俺がパスしたらミラもパスする。


 何かこの手から見出せないだろうか。俺の手札、もしミラが♠︎AKQ♢AKJと持っていたら九トリック取れそうだ。しかし、その確率は・・・。


 よし、強気でいくか。ミラのゴミを見てやろう。


「オープン」


 俺は胸を張って言った。連中、特にミラはアナーの場所を分かっている。俺のこの宣言は意外だろう。ミラがT以下を公開した。


 『♠︎T8♡72♢973♣︎86』


 あー、・・・ああ、強気でいったのは間違いだった様だな。ゴミが九枚、ということはAとアナーが四枚、HCPは二・五掛ける四で大体十点程、俺と合わせて約十三点か。絶望的だな。オポネントはゲームでくるだろう。


 『1NT』


「オープン」


 Nが宣言し、Sが手札を公開した。この情報から俺の次のビッドが決まる。


 『♠︎652♡4♢62♣︎72』


 『3NT』


 ・・・切り札なし。長いスーツがない。


 これ、もしかすると全員4333のバランスハンドか。明確な根拠はないがその様な気がする。もしそうだとすると俺が四枚持っているのはハート、ミラは何を四枚持っている。


 『PASS』


 ミラの四枚にアナーが複数あったら、ダウンさせれるかもしれない。


 Sが手札を全て公開した。俺からすれば悪くなさそうな十三枚だ。


 『♠︎652♡QJ4♢J62♣︎KQ72』


 4333のバランスハンドで、フィネスしそうな♡QJ♢Jがある(例に漏れずフィネスをしてこない可能性もあるが)。フィネスの成功率は五十パーセント、二トリック取れるか。それにAがない。Aは残り四枚あるが、四枚とも全てNが持っていたらもっと高いコントラクトにする筈だ。そうしないということはミラが一枚は持っている。三トリックいけるか。


 もちろん、手札が配られてから今までの時間で連中が三人の手札の情報を全て共有し、そこから戦略までも立てていたら、もうこの時点で俺の負けは確定しているだろう。だが、現実にその様なことができて堪るか。この短時間でどうカードを出せば勝てるかを知るにはコンピューター並みの計算力が必要だ。きっと連中もまだ手探りに違いない。


 ミラのオープニングリード、それは♠︎K、♠︎Kだ。スペード、俺の手札にはJがあり、ダミーのSにはアナーがない。なら、トップオブシークエンスなのでミラの手札に♠︎QTがあるのか。♠︎AはNか。


 スペードで三トリック取れるぞ。六ダウン噛ませてやる。これは勝てそうだ。


 Sが♠︎2、そして俺は♠︎3ではなく♠︎7、カモンサインだ。ミラにはスペードを続けてもらう。Nは♠︎4だった、どうせ♠︎Aを持っている癖に。後のエントリーが欲しくてダックしたに違いない。


 これで一トリックだ。あと四トリックでダウン、いけるぞ。


 ミラが次に出したのは、え、な、♡2?・・・♡2?


 ・・・なぜスペードを出さない。それには何か意味があるのか。ハートはオポネントが強そうだと思っていたが違うのか。


 Sが♡J、俺が♡3、Nが♡5でSがこのトリックを取る。その次のSの♣︎Kをミラが♣︎Aで返したものの、その後ミラが♢3を出してSが♢Jを出したので、俺が♢Qを出すと当然ながらNに♢Aで取られる。


 それからNの♢Kにやられた後、Nの♣︎J、Sの♣︎Qでクラブを枯らされ、エスタったSの♣︎7で取られる。その次と次はよかった。Sの♡Qをミラの♡Kで取り、ミラが♢9を出してオポネントがゴミしか出さない中、俺の♢Tで取った。


 だが、その時点で俺の手札にはスペードとハートしかない。Nが♠︎A、♡A、エスタった♢5で三連勝。三メイクでコントラクト達成だ。


 マイナス四百点の四分の三、つまり三百、マイナス三百だと。スペードが全然出なかった。そのせいで最後に使えないスペードが余る形になった。


 これは勝てた。くそ、勝てただろうが、カモンを無視されなければ。ミラのせいだ。これはうっかりミスで済む話か。いや、大金が賭かっているのだ。全然怒っていい。それに第八ディールで足を引っ張られたら不味い。しっかり注意しておかないといけない。俺はカードを集めようとする皆の手を止めさせた。


「待ってくれ。レビューだ。最初のトリックだけでいい」


 俺は♠︎7を表にし、皆を待つ。ミラの太った手の動きを眺めていたが、やれやれといった感情が見て取れた。


「お宅が♠︎Kを出した。それに対し俺は♠︎7、これはカモンサインじゃないのか。なぜ無視した」

「・・・」


 衝立の向こうからミラの溜め息が聞こえる。こいつ、ふざけやがって。直ぐに謝れよ。


「・・・見逃してしまっただけだ。そんな他人のミスを責めなさんな、お若いの」

「このクラブではパートナーを意図的に妨害するプレーは禁止の筈だ」

「・・・勘違いするな。ただのミスだ」

「そのミスを連発されたら俺にはどうしようもない」

「・・・私もそうだ。君だってミスをするだろう」

「次、意図的にミスをしたら店員を呼ぶ。俺の大金が賭かっているんだ。ふざけたプレーはするな」

「・・・構わんよ」


 惚けた奴だ。次はこの様なことさせない。俺は負けまくる訳にはいかないのだ。現時点でマイナス七百二十五点、ボロ負けだ。ここから巻き返さなければならない、何としても。


 俺は時計を見た。ポインに伝えた時間までまだある。その時間までに勝たなければならない。


(終)

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