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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
139/146

5-3.半裸ブリッジ

 X字の衝立が卓の対角線上にそり立っている。しかし、この衝立は完全ではなく、卓に接する中心部分に四角く大きな穴が空いていて、皆の手許が見える様になっている。とはいえ、衝立があるのは卓の上だけなのでオポネントの姿は普通に見えるのだが、パートナーの姿は全く見えないので問題はない。


 この四角い部屋の四つの壁、それぞれに一つずつアルファベットが書かれており、俺が背負う壁にはWと書かれている。つまり、俺がWで、ミラがE、パートナーだ。Nは受付に新品のトランプを取りに行っている。


 今回の並びだとミラは味方ということになっているが、それでもミラはカツアゲパーティーの一員、そして、オポネントの二人も両手に指輪をしているのでパーティーの一員、つまり、三人はチームということだ。ミラは表面上は俺達の勝利に貢献するが、心の中ではオポネントの勝利を願っている。プレー以外の部分で俺を妨害する筈だ、大体どの様な妨害をするか見当は付いているが。


 俺は今回の勝負で一千万勝たなければならない。一点五千両なので、二千点だ。しかもそれを八ディールで稼がなければならない(第二、三、五、八ディールが全員バル、それ以外は全員ノンバル)。厳しいが、やるしかない。


 Nが戻って来た。手に持つトランプは、あれ、赤だ。俺の集めたデータだと青の方が好きだった筈だが、二分の一を外したか。まあ、問題はない。


 開封したトランプを皆で混ぜる。特に俺は入念に混ぜる。それをNに返し、Nが一枚ずつ全員に配り出した(ディーラーはNからE、S、Wの順で二周する)。


 さあ、俺の手札十三枚が配られた。ここに強いカードが、絶対にないといけないという訳ではないが、あった方がいい。どうかな。


 『♠︎J74♡632♢A8732♣︎74』


 かなり弱い。HCPがたったの五点、これでは駄目だ、とてもオフェンスにはなれない。しかし、だからといって負けるということではない。ダイヤはエントリーがあるうえ長いし、何とかなるかもしれない。


「オープン」


 ディーラーであるNが宣言した(これでNが第一オープナーだ)。そのパートナーであるSが手札のT以下のカードを公開する。このクラブではビディングシステムを知らなくてもオークションができる様に特殊ルールが設けられてある。それがこのT以下、要はゴミカードの公開だ。ここからオープナーがパートナーの手札を推測してビッドする。


 『♠︎T652♢6♣︎T2』


 Sのゴミカードは七枚。ということはAとアナーは六枚。俺のと違って強いな。


 『3S』


 Nがビディングボックスからカードを卓の中央に置いた。俺は今のうちに手札のアナーとゴミを分ける、どうせミラはオープナーになるのだから。


「オープン」


 ほらね。これでミラが第二オープナーになった。パートナーである俺はもうオープナーになれない。だが、俺がオープナーになれない様にするのは当然だ。俺がオープナーになって、ディクレアラーになって、コントラクトを達成でもしたら、カツアゲパーティーにとって痛手。それは避けようとするだろう。


 俺はゴミカードを公開した。ここからは衝立で見えないが、恐らくミラは考えている演技でもしているのだろう。


 『3NT』


 Sや俺にはオークションに参加する権利はもうない。次はNの番だ。


 『4S』


 『PASS』


 これで決まった。4SbyN、ゲームだ。Sが全ての手札を公開した。


 『♠︎T652♡AK♢KJT6♣︎QT2』


 コントラクトがゲームになったということは、手札は見えないがNとSの合計HCPは二十五点以上で、ミラのHCPは十点以下となる。


 これは推測ではなく確信だ。なぜならこの三人、ミラとカツアゲパーティーの一員、こいつらは通しをしている。今までこのクラブに通って何度も見掛けた、衝立に指輪を嵌めている指が掛かっているシーンを。なぜ衝立を触る必要がある。カツアゲパーティーとしては何の気なしに触ったという口実なのだろうが、俺からしたら怪しさ満点、絶対に勝つという意図がビンビン伝わって来る。


 こいつらは恐らく指でAとアナーを真ん中の一人、今回の場合はミラに伝えている。そして、その真ん中の一人がその情報から最善のビッドを提案するのだ。


 ブリッジはプレーよりオークションの方が重要とも言われている。そのオークションをほぼ完璧に熟す、それがイカサマパーティーの手口だ。小癪な真似しやがって。


 もちろん、その通しは見破られる可能性がある、例えば俺とかに。通しを見破って、誰かに見張らせて、通しのサインが出たらその誰かが俺にこっそり教えてくれて、そうすれば俺にも有利となるが、実現は厳しい。


 それに俺は相手の手札が見えたところで満足しない。もっとだ。もっと欲しい。見えるどころか支配してやる、それが俺の狙いだ。


 オープニングリードはミラの♣︎Kだった。ミラは普通にプレーする筈なので、これも定石通りに出したに違いない。


 ♣︎Kか。トップオブシークエンスの場合ならミラは♣︎Qを持っているということになる。しかし、AKからのKの場合なら♣︎Aを持っていることになるな。どっちなのだろう。あ、ダミーであるSの手札に♣︎Qがあった。なら、ミラは♣︎Aを持っているな。


 一方で俺の手札にはクラブは二枚しかない。だが、ミラがAKとあるので俺の手札からクラブを一掃してもミラにエントリーがある状態を保てる。ならば、カモンサインだ。俺の♣︎7と♣︎4、どっちを出してもいい状況で敢えて強いゴミを出す。


 SがNの指示で♣︎2を、俺が♣︎7を、Nが♣︎5を出した。もちろんミラがこのトリックを取る。そして、ミラは俺の思惑通り♣︎Aを出した。よし、やはりミラは定石通りにプレーする。俺の足をあからさまに引っ張る様な真似はしない。


 Sが♣︎T、俺が♣︎4、Nが♣︎8を出した。俺の手札からクラブが消える。これで俺は好きなカードを出せる状況になった。次でオポネントのアナーを殺せる、本来なら勝つことのないゴミカードで。


 ミラが♣︎3を出し、エスが♣︎Qを出す。俺はクラブがない。だから何を出してもいい。スペード、切り札のスペードだ。俺は♠︎Jを出した。そして、祈る、Nの手札にクラブが残っていることを。確率はそこまで高くはないと思うが、Nの手札からクラブがなくなっていたらNもスペードを出せる。もしそうだったとしても、俺が♠︎Jを出したことによってNがアナーを消費しないといけないので最悪ではないのだが、オーバーラフなど見たくない。頼む、クラブよ、残っていてくれ。


 Nが手札に手を伸ばした。一枚を掴み、卓に置く。♣︎Jだ。このトリック、無事に俺が取る。


 俺は心の中で息を吐いた。これで一安心だ。現時点で三トリック取っており、俺の手札には無敵のAが一枚ある。ディフェンス成功だ。


 俺は♢Aを出した。それからは順番に、♢4、♢5、♢6と出て俺のトリックとなり、これで四トリック目、ディクレアラーがダウンした。その後は、俺もできるだけトリックを取ろうと試みたが、結局残りの九トリックを全て取られ、四ダウン止まりだった。


 よし、先ずは勝った。幸先いいな。ノンバルだから二百点獲得。今回はミラがオープナーになったので責任払いとなり、二百点のうちの四分の三がミラに、残りが俺に割り振られた。つまり、俺が獲得したのはたったの五十点だ。


 まあ、マイナスよりはマシだが目標には程遠い。俺の計画では第八ディールが始まるまでにある程度得点を稼がないといけないのだ。これでは足りない。次も勝たなくては。


 ミラがディーラーの番だ。皆で混ぜた後、ミラによって十三枚が配られる。先程は弱かった。ということは今回は強い筈だ。


 『♠︎Q8♡QJ95♢Q865♣︎853』


 HCP七点、弱い。くそ、弱い、畜生。


「オープン」


 ミラが宣言した。俺はT以下を公開する。


 そうか、どうせディクレアラーになれないのだから弱くていいのか。なら、いい流れだ。そう、いい流れ、いい流れだと思い込もう。ミラがビディングカードを出した。


 『2NT』


 何だ、それ。2NT如きしか出せない様な手札なのかよ。そんなんでオープナーやりやがって、くそ。


「パス」


 俺はパスと言う必要はない。パートナーであるミラがオープナーになったから俺はそもそもオークションに参加できないのだ。


「オープン」


 Nが第二オープナーになった。Sが手札の一部を公開し、Nがビディングカードを置く。


 『3NT』


 それに対し、ミラは『PASS』。3NTbyNのコントラクトとなった。Sがダミーとなり、全ての手札を公開する。


 『♠︎642♡K83♢AKJ32♣︎T9』


 またゲームか。オポネントの手札は調子いいな。ミラの手札も俺と同じかそれ以下程度か。これではきつそうだ。


 ・・・待てよ。ダミーにスペードのアナーがない。俺がQを持っているから、残りのA、K、JはNかミラの手札にあるということだよな。


 ミラのオープニングリード、♠︎T。


 Tはオープニングリードのときだけアナー扱いとなる。オープニングリードで♠︎Tを出すということは、ミラは♠︎9を持っていてスペードが長いということだ。ということは、もしミラが♠︎Aを持っていたら、ディクレアラーをダウンさせれるかもしれない。


 Sが♠︎2、俺が♠︎Q、Nが♠︎Kを出す。第一トリックはNの勝利だ。KはNが持っていたか。


 スペード以外も考えておこう。ダミーであるSの手札には♢AKJがあり、俺の手札に♢Qがある。つまり、このNの番、ダイヤのフィネスをしてきてもおかしくない。十分にあり得る。


 もしフィネスをしてきたら、そのフィネスは失敗に終わり、俺がリードを切ることになる。俺の♠︎8、ミラが♠︎9を持っている筈なので、Nのアナーを挟めるぞ。Nがアナーを出したらミラがAで潰せばいいし、Nが出さなかったらミラはゴミを出せばいい。


 これはいいぞ。いける。またダウンさせてやる。よし、してこい、フィネスしてこい。


 Nが手札からカードを一枚出す。それは、♡4、ダイヤのゴミではなかった。♡2、♡K、♡5と続き、Sがこのトリックを取る。


 ・・・そうか、そうだよな。してくる筈がないよな。当然か。なぜなら連中はアナーの情報を共有している。三人が持ってないアナー、それは俺が持っているに決まっているのだ。失敗するフィネスとやる前から分かっているのにどうしてやるだろうか。


 オポネントがダイヤのフィネスをしてくることはない。ならば、俺のこの弱い手札でどうすればいいのだろうか。


 その次のトリックは、♣︎T♣︎3♣︎4♣︎K、とミラが取ったが、それ以降は♠︎5♠︎6♠︎8♠︎J、♢7♢4♢A♢5、♣︎9♣︎5♣︎7♣︎2、♡3♡9♡A♡7、♣︎A♣︎6♠︎4♣︎8、♣︎Q♢9♡8♢6、♣︎J♡T♢2♢8、♢T♠︎7♢K♢Q、♢J♡J♡6♠︎9、と全滅だった。最後は♢3♡Q♠︎3♠︎A。あ、最後、ミラが勝った。


 最後の最後でミラが勝ったため取られたメイク数は五で済んだが、バルで得点はマイナス六百六十の四分の一、先程のプラス分を上回ってしまう。


 くそ、仕方ないか。ダイヤのフィネスをしてくれたらな。たらればを言っても何の意味もないが。


 だが、ここまでの展開は俺の予想と大きくは違わない。ここからが本番だ。これからは俺がディクレアラーになる。最適プレーで最適ビッドを打ち破ってやる。


(続)

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