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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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4-7.解毒

 メーガの顔色が異常だ。何かの病気か。くそ、これ以上仲間を失って堪るか。私の手はなぜか震えている。私はそれを必死に抑えた。


「もう二十秒経った。早く言え。今から五つ数える。私が零と言った瞬間に頭を撃つ」

「分かった。毒だ。毒にやられてんだ、あの女は。でも血清がある、この部屋の金庫の中に。番号の紙はヤマメの兄貴が持ってる」

「てめえ、ふざけんなよ」


 ヤマメが机を蹴った。その衝撃で蝋燭の炎が揺れる。それにより炎が作り出す私の影が揺れ、私はそれに反応して銃口を自分の影の方に向けてしまった。直ぐに私の影であることを確認すると銃口を戻したのだが、そのときにはもう遅かった。ヤマメが折れてない方の手でもう一人の男の背中にナイフを何度も何度も突き刺しているのだ。私は急いでそれをやめさせる。


「おい、ナイフから手を離せ」


 ヤマメは笑って、男に突き刺さったナイフから手を離した。ヤマメよりこの男の方が口が軽そうだっただけに失敗だ。これでは情報を得るのに時間が掛かる。


 このヤマメ、仲間を殺すとはどういう考えなのだ。なぜ仲間を殺せるのだ。今まで仲間と過ごして来た時間や仲間からの貢献を何だと思っているのだ。不思議だ。理解できない。心がないのか。


「ふう。で、何だっけ。アウタイ・ジョーだっけ。それなら、お前はどっちを助けるか選ばないといけないぞ」


 ヤマメが私を見て言う。


「・・・どういう意味だ」

「アウタイ・ジョーは今、賭場にいる」

「・・・」

「ダイヤモンド・カジノだよ。メーガを助けるためにはよ、血清が必要だ。外で見付けれるかな、あと十数分以内に。いや、数分かな。どちらにせよ無理だ。山の近くの病院とかならあるかもしんねえけどよ」

「腹這いになれ」

「金庫の番号を自分で見付ける気か。そんな時間あるのかな。それだったらメーガを見捨てて賭場に向かったほうがいいんじゃねえのか」

「腹這いになれ」


 やれやれといった態度でヤマメは私の指示に従った。私はヤマメが腹這いになった瞬間に脹脛を撃つ。ヤマメは悲鳴を上げたが、私にはこいつの痛みなどどうでもいい。小銃を机に置いてヤマメに近付き、なぜか机に置かれていた拘束具でヤマメの両手を背中側で固定した。折れている手を雑に扱ったのでまたヤマメが悲鳴を上げたが、寧ろ痛くしてやった。


 それで、番号の紙だ。ヤマメをひっくり返し、ポケットを探る。すると、ヤマメに殺された男の言う通り数字の書かれた紙が出て来た。しかし、この紙、焼けていて完全ではない。数字が三つしか残っていないが、これが全ての番号なのだろうか。


 『121』


 私は部屋を見回して金庫を見付けた。ヤマメは放っておく。両腕が使えないうえまともに歩けないのだ。もう脅威ではない。


 金庫に近付く。そこには四個のダイアルがあった。くそ、紙には三つしか書かれてないぞ。数字の残り方からして121は下三桁だ。0121から9121を試す。ということは、そうか、直ぐに見付かるな。


 私は先ず下三桁を121にセットして千の位を0にした。レバーに手を掛ける、が、捻れない。次は千の位を1にする。レバーは捻れない。2、3、4、5、6、7、捻れない。くそ、9から試せばよかった。8、捻れない。9、・・・捻れない。


 どういうことだ。なぜ違う。紙の数字に従ったのだが、これは全く関係のない紙なのか。たまたまヤマメが持ち合わせていた他のことに関する紙、そういうことか。しかし、ならばなぜヤマメは男を殺した。


 くそ、兎に角、番号が分からないとなると、ヤマメと取り引きするしかないか。いや、ギャングなど信用できない。相手を陥れることだけを考える人種だ。時間稼ぎをされるだけで何も得れないに決まっている。


 この紙、信用できないのか。なら、できればそうしたくないが、メーガを、見捨てて、犠牲になってもらって、あいつを助けに行った方が、その判断をすべきなのか。


 ・・・いや、今はそのときではない。私は間違えていた。


 『/21』


 これは121ではなかった。1ではなくスラッシュだ。似ているから間違えた。では、このスラッシュは何だ。四桁の数字とスラッシュ、そうか、日付だ。日付を番号にしているパターンだ。何月かの二十一日が番号になっているに違いない。


 0121、捻れない。0221、捻れない。0321、0421、0521、0621、全て違う。0721、0821、0921、1021、まだか。1121、捻れない。冗談だろ。1221、・・・くそ、なぜだ。なぜ開かないんだ。


 考えろ、何を間違えた。他の候補は何だ。いや、他の候補などない。くそ、どうすればいい。いや、待て、落ち着け。そもそもなぜ存在するのだ、この紙は。それを考えよう。番号を控えた紙をなぜヤマメが持っている。


 ・・・これ、裏に粘着があるな。貼っていたということか、どこかに。ヤマメ以外の者がこの金庫を開けるときにこの紙を参考にして開けろ、ということか。あ、何か計算するのか、この紙の日付から。もしそうならどうしようもない。計算式など無限に存在する。分かる訳がない。この紙とは別の計算式が書かれた紙を探さなければなるまい。


 しかし、もう時間はない。後は、もう、ひっくり返してみるか、この紙を。あ、いや、数字自体をひっくり返してみるか。これを、そう、試してみよう。


 1210、捻れない。1220、1230、1240、1250、駄目か。もう駄目だ。これ以上粘っても時間の無駄だ。これで駄目ならもう諦めよう。


 1260、くそ、1270、くそ、1280、どうだ。あ、捻れた。捻れたぞ、捻れた。私の考えは当たっていたのか。


 私は急いで金庫の扉を開けた。中には小さい瓶や注射器がある。どれだ、どれを使えばいい。ラベルに色々と書いてあるが、どれだ。


 そのとき空気が動いた。私の背後で不穏な渦が。見なくても分かる、ヤマメが立ち上がったのだ。


 私はヤマメが何をするのか確かめるため振り向いた。その目の血走っているヤマメの姿からヤマメの覚悟が見て取れる。こいつは本気だ。何が本気というと、口にキュウリを加えているのだ。そのキュウリには火が付いている。こいつ、自爆する気だ。


 ヤマメは既に私の方へ片足で飛びながら向かって来ている。撃ち殺したくても間に合わないので、私はヤマメから距離を取ることにした。金庫から離れ、ヤマメが私から遠い所で爆発するのを待つ。幸い、ヤマメは片足しか使えず早い移動ができないので十分な距離を取れた。あと二秒程だろう。ヤマメは金庫の所に来ると頭を金庫の中に突っ込・・・。


 こいつ、くそ。


 ・・・。


 部屋が静寂を取り戻した。私は爆発の煽りを受けない様に机の陰に居たのだが、そう、何もできなかったのだ。


 なぜだ。どうして。あの様なことをする意味は何だ。狂っている。命を捨ててまで人に迷惑を掛けたいのか。頭がおかしいとしか思えない。何なのだろう。私への嫌がらせのために自分の命を使ったのか。


 私は立ち上がりたくなかった。だが、今、行動できるのは私だけ。行こう。逃走用の車は遠くにあるが、たまたま下の階で車の鍵を見付けた。エル会の車を貰って直ぐに血清を探しに行ける。絶対にメーガを助けよう。助けるしかない。


 私は立ち上がってメーガの許に駆け寄った。メーガは紫の顔で目を剥き、蠢いている。私は急いで拘束を解いたのだが、そのとき、メーガが嘔吐した。私はメーガの背中を叩き、治まったところで肩の上に担ぐ。そして、部屋を後にした。


 建物内は静かだ。きっと皆が敵を全滅させたか上手く引き付けたのだろう。私は小銃を使うことなく建物を出ることができた。


 駐車場に車が一台、私の持つ鍵で解錠・・・、よし、できた。リアシートにメーガを寝かせ、私は運転席に、小銃は助手席に置き、目出し帽を脱いだ。それからキーシリンダーに鍵を挿そうとするのだが、上手くいかない。一息吐いてから挿し、エンジンを掛けた。落ち着け、私。


 私は直ぐには車を走らせなかった。どこに向かえばいいのか分からないからだ。血清はどこで手に入る。病院か。病院に行けばいいのか。残された時間は。もう、分からない。私は考えるのをやめたくなった。どうすれば、どうすればいい。


 リアシートからドアの開く音がした。振り返ると、メーガが車から這い出ようとしてシートから外に落ちるところだった。私は車から降りてメーガが何をするのか見守る。メーガは正座し、両手を突いて軽く腰を浮かせたり戻したり、それだけだった。


 ・・・降りるということか、メーガ。自分が助かるのは諦めるのだな。死ぬまでの数分間、その苦しみと一人で向き合うのだな。それでいいのだな。


 私は、そう、メーガを助けることはできない。だが、メーガの傍に居ることはできる。・・・そして、苦しみから解放させてやることも。


 助手席の小銃を取った。小銃は片手で扱えばいい。開いている方の手はメーガの手を握る。小銃の銃口はメーガの頭に付けては駄目だ。恐怖心を助長してしまう。


 メーガが目を瞑り、強く握り返した。メーガは分かっているのだろうか、これから私が何をするか。でも、私は、いや、そうだな、早く終わらせてやろう。指を引いた。


(続)

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