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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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4-6.何でいるの?


 ツヅキは直ぐに距離を詰め、男の腰に抱き付く。男はそのツヅキの行動が意外だった様で対応に遅れた。男は恐らく腰に抱き付いたツヅキの頭を目掛けて拳を振り上げたのだが、それが振り下ろされる前にツヅキは男の股間を握り潰し、膝の裏を持ち上げる。男が一瞬宙に浮いた後、床に叩き付けられた。


 一緒に倒れたツヅキは腕をクロスさせ、男の体の横から首の後ろ深くの襟を掴み、首を前腕で押し潰し出した。首の全ての管を塞ごうとしているのだ。男は全体重を掛けるツヅキを引き離そうとする。そして、男は手の力だけでツヅキを剥がすのは無理だと判断したのだろう、左足を振り上げてツヅキの首に引っ掛け、右足と挟んで絞め出した。


 数秒後、苦悶の表情を浮かべるツヅキの手が遂に男の首から離れた。依然、男の足はツヅキの首を絞めている。ツヅキは手が男に封じられたままなので拘束を緩めることができない。


 ツヅキは膝を立てた。男を持ち上げようとしているのだ。ツヅキは少し腰を浮かせ、いや、駄目だ、元の体勢に戻ってしまった。男が手をかなり強く引いたらしい。依然、首を絞めている。


 ヤバい、どうするのだ、この後。このままではツヅキは死ぬ。ツヅキが死んだら、あれ、俺も狙われるのか。エル会にとって俺はポイントナインの一員で処分の対象だ。不味いぞ、ツヅキに死なれたら困る。いや、違う、今なら逃げれる。皆、ツヅキと男に集中していて俺が居なくなっても絶対に気付かないだろう。俺が戦って勝てる訳がないのだ。もうツヅキが駄目となったら逃げるしかない。


 どうする、俺。今、行動するか。そうしないと手遅れになる。そう、今だ。今しかない。よし、ツヅキを助ける。


 俺は杖を持って立ち上がり、男の顔の上で振り被った。男はビクッと体を震わせ、床の上を転がって杖を避ける。俺は意外だった、これ程簡単に男をツヅキから引き離せれるとは。もしかすると男はこの杖を棍棒か何かと勘違いしたのかもしれない。


 ・・・今の、男の顔・・・、いや、まさかな。似ているだけだ。


 ツヅキは激しく咽せている。立ち上がれない様だ。一方で男は既に立ち上がっている。


「ツヅキさん、早く立て」


 ツヅキが立たない。どうする、俺が相手するか。ふざけるな。ツヅキ、くそ、ツヅキを引っ張って男と距離を置くか。いや、意味ないか。しかし、ここに居ても殴り殺されるだけ。それなら俺一人でも飛び掛かった方が、いや、無理なものは無理だろ。


 男が来る。くそ、もう駄目だ。俺は逃げるぞ。俺は十分やった筈だ。ここで逃げても文句を言われる筋合いはない。


 近付いて来る男から逃げようとしたそのとき、それに飛び蹴りを食らわす別の男が現れた。しかし、その蹴りは男に両手で受け止められる。だが、俺は協力者が現れたことによって戦う決意をした。男に突進する、が、慣れないことをするものではない。足がもつれ、バランスを崩した。


 顔から転びそうになりながらも何とか踏ん張る。突然、目の前を足が通過した。男の足だ。つんのめったお陰で丁度、男の蹴りを躱す形になった。怪我の功名だ。もしこの蹴りを食らっていたら俺は戦闘不能になっていただろう。


 そして、目の前に真っ直ぐ地面に生えるもう片方の足が現れた。男の両手は協力者のために塞がれ、片足は蹴りを繰り出したため宙にあり、男を支えるのはこの足のみだ。


 俺はその足の下腿にしがみ付き、持ち上げた。男と協力者が一緒にひっくり返る。協力者というか、カノだ。またカノか。なぜここに居る。偶然か。


 男は直ぐに起き上がり、カノを床に押さえ付けた。俺はその近くの卓に注目する。先程までのクラップスの卓だ。大金の詰まった鞄があるぞ。俺は急いで鞄の許に走り、掴んで、男の背中目掛けて振り抜いた。


 見事に鞄が命中し、鞄の中の金が宙を舞う。男は体勢を崩し、カノが蹴り飛ばした。


 宙を舞う金なのだが、その殆どが白紙だ。万が一のことを考えて本物は車に置いてある。できればエル会の連中の目に触れさせたくなかったのだが、まあ、勝ったのはこちらだし、問題ないか。


 俺達は男と距離を置けたが、まだまだ男は元気だ。また直ぐにこちらに向かって来る。今回はカノの奇襲と俺のラッキーパンチで何とかなったが、次はないだろう。


「どうする」


 カノが俺に聞いてきた。カノか。カノを盾にして、いや、カノの戦闘能力など当てにできない。あ、そうだ、思い出した、椅子だ。椅子を使えばいいのだ。


 俺は傍の椅子の背板を掴んで脚を男に向けた。この椅子がある限り男は近付いて来れない。男は二秒考えた後、脚を掴んだ。俺から椅子を奪おうと力を込める。その刹那で俺は理解した、俺の力とは比べものにならない、と。しかし、椅子は奪われなかった。カノが椅子を咄嗟に掴み、俺の方に力を掛けたからだ。俺達と男で引っ張り合いになる。それで十分だった。男の後ろに立ち上がったツヅキが控えているのだ。


 上着を脱いで肩を回したツヅキは後ろから男の肩をタップして振り向かせた。そして、振り向いたところに渾身のストレートを食らわす。続いてカノが椅子で男を後ろからぶん殴り、よろけたところをツヅキがもう一発殴った。


 俺はこのコンビネーションが活路を開いたと思った。このまま男を倒せるかもしれない。しかし、それをエル会は許さなかった。従業員二人掛かりでカノを押さえる。


「手え出すんじゃねえ、この野郎」

「くそ、離せ」


 視線をツヅキの方に戻すと、ツヅキは右腕を男に押さえられながらも左で男の顎を下から殴っていた。男は顔を逸らしながらも右でツヅキのボディーに打ち込む。もうこうなったら打ち合いだ。ツヅキは左で、男は右で打ちまくる。


 しかし、ツヅキの利き手はどっちなのだろうか。もし右なら不利なのでは。そもそも見えているのか。見えていなかったら攻撃がしっかり入らないのではなかろうか。


 十数秒の撃ち合いの結果、最後にボディーを打たれたツヅキが前屈みになってしまった。男はツヅキの頭を固定し、顔面に膝を入れようとする。だが、ツヅキはそれを肘で打ち返した。そのまま足をその手で押さえ、もう一方の手で男の胸ぐらを掴み、男の顎に向かって自身の頭頂部を突き上げる。


 これは決まった。クリーンヒットだ。男が衝撃に耐え切れず後ろに反れる。そこを更にツヅキは右で潰そうとした。だが、男の戦いの意思は強く、仰け反っている体勢だというのに、男は上半身をバネの様に弾かせて回転し、ツヅキの顎を拳で捉えたのだ。


 片足を軸に半回転したツヅキは床に崩れ落ちた。男は結局、倒れていない。体勢をゆっくりと戻し、立とうと這い蹲るツヅキに近寄る。ツヅキは、ツヅキはもう駄目か、立てないか。恐らくこれからツヅキは蹴り殺されるのだろう。


 もう、終わりだな。ここに居るのは危険だ。早く逃げよう。あ、そうだ、カノさんが捕まっているのだった。面倒だな。早く逃げたいが、助けてもらっておいて放っておくのも違うか。どうしようかな。


「杖、杖は・・・」


 ツヅキの掠れ声が聞こえた。杖?


 なぜ今、杖を欲するのだろうか。まさか混乱している訳でもあるまい。杖があれば何かを起こせるということだろう。しかし、杖で何ができる。何か起こせるというのは俺の想像に過ぎない。どうするべきか。


 ツヅキを見捨てて逃げる、ツヅキに杖を手渡す、俺はどちらを選択してもいい。ならば、賭けてみるか、その杖に。もし、この賭けが負けに終わったら俺の命に関わるが、俺も博奕打ちの端くれ、勝ちの可能性が残されているのなら何だって賭けよう。頼んだぞ、ツヅキ。


 俺は杖を探した。先程までこの手に持っていたのだが、あ、フロアの真ん中にあった。いつの間に落としたのだろう。


 俺が杖に駆け寄り、拾った瞬間だった、全員の注目が下のフロアに向く。下のフロアから発砲音がしたのだ。俺は杖を握り、頭を低くした。


(終)

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