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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
132/146

4-5.フライング・ボディ

 賽出しが戻って来た。もう追い詰められた様な顔をしている、まだ勝負は始まっていないのに。


「お待たせしました」


 そう言って席に着いて卓に置かれている賽子の一つを卓の下に持っていき、また卓の上に持ってきた。何をしているのだ。あ、そうか、数字の小さい賽子を普通の賽子と持ち替えたのか。


 そして、賽出しは片手で卓の賽子を拾い、握り込んだ。それを俺に差し出して言う。


「手を出して下さい」

「条件を認めるということだな」

「・・・はい」


 俺は指を開いて空であることを示した。そして、賽子を受け取る。確認すると、確かに一つが普通の賽子で、もう一つが数字の大きい賽子だった。


 俺はそれを手許に置き、代わりに封筒を持った。中から三枚のカードを出す。『一億』『二億『五億』と書かれたカードだ。


 『一億』は12にホーン賭け、『二億』は11にホーン賭け、『五億』は10にプレイス賭けだ。このタイミングで後ろのツヅキが手に持っている鞄を卓に置く。俺はそのジッパーを開けた。中には札束、大量の金だ。更にツヅキはスーツケースを二つ携えている。ここに八億あるということは十分伝わっただろう。


 賽出しは立ち上がって鞄の中を見た。溜め息を吐いて座る。予想より額が大きかった様だな。


 この金はポイントナインにとって命の様な金だ。これを失えばポイントナインは活動できなくなるうえ、構成員を国外に逃すこともできなくなる。それ程重要な金を俺に託すということは俺を信頼しているから、ではなく、恐らくもう戦えるだけの十分な戦力がないからだろう(まあ、確実に勝てる勝負だから安心して託せるというのもあるとは思うが)。このツヅキも、もう戦えるとは思えない。なぜなら、いや、今は勝負に集中だ。


 さて、振ろうか。今まで何百回と練習し、ひたすら成功率を高めてきた振りを見せてやる。絶対に成功させなければならない。


 周りに客は、十分居る。証人が居てくれないと俺の勝ちをうやむやにされるからな。よし、いくぞ。


 俺は二個の賽子を握った。普通の賽子は小指だけで巻く様に握る。拳を縦にしたときに6の目が天井を向く様に握らなければならない。大きい数字の賽は普通に握ればいい。


 この握り方をすると、自然と普通の賽子の1の目が拳からはみ出る。この1の目を相手に見えない様にしながら、卓にくっ付けた。このまま手首を捻って勢いを付けて手を開くと、大きい数字の賽は手から飛び出して不規則に回転するが、普通の賽子は6の目を天井に向けながら横回転だけして真っ直ぐ滑る。


 この横回転はこれだけ見ると何が起きているか直ぐにバレるのだが、それとは別にもう一個が普通に転がっているため、それが目眩しとなり、気付かれなくなる。


 つまり、一つは6の目確定だ。そして、もう一つは4か5か6の目。つまり、俺の賭けた三点張りで全てカバーできる。もう俺の勝ちなのだ。


 二個の賽子が停止した。一個が5でもう一個が6だ。周りの客は静かに反応し、賽出しは顔を押さえる。俺は別に嬉しくとも何ともなかった。後ろのツヅキもノーリアクション。


 二十二億の儲けだ。目の飛び出る様な大勝ち。もちろんこの賭場が今直ぐに払える訳がないし、そもそもポイントナインの目的は金ではない。俺は最後の仕事に取り掛かる。


「払えないよな」

「・・・」


 賽出しは黙って俯いている。こいつ、徹底的に時間稼ぎするつもりなのか。しかし、それは俺には通用しない。絶対に責任者を引き摺り出す。


「ここに呼んで来い、責任者を、今直ぐに。予定があると言った筈だ。早くしてくれ」


 俺は強く言ったつもりだが、それでも賽出しは動こうとしない。困ったな、責任者をツヅキと会わせる様にリリイ・ルウから言われているのだが。仕方ない、もう賽出しは放っておくか。直接バックヤードに探しに行こう。


 俺は立ち上がった。それと同時に、卓の上に大きな塊が突然落ちて来て液体が飛び散る。俺や周りの客は驚き、そして、その塊の正体に恐怖した。これ、人だ。血を流した人の死体だ。何だよ、これ。なぜ人の死体が・・・。


 死体が独りでに飛ぶ訳がない。誰かが投げたのだ。俺は死体から顔を上げると直ぐにその異様な人影に気付いた。何だ、あいつは。様子がおかしいぞ。一人だけ獣の様な奴が居る。あいつしか居ないではないか、死体を放り投げそうなのは。


 騒然とする場内、客達が走って卓から離れる。俺も逃げたいところだが、俺には仕事があるのだ。逃げるに逃げない。


「何が起きた」


 ツヅキが言った。俺はその異様な人影から目を逸らさずに答える。


「死体が飛んで来た」

「どういうことだ」

「多分、あいつが投げた」

「どんな奴だ」

「どんな奴って、前髪で顔が隠れてるから分からないな、髭も凄いし。おい、こっちに来るぞ」

「分かった。もういい」


 そう言ってツヅキは卓の縁に手を伸ばした。何かを探している様だ。


「おい、おれの杖は」

「杖?」


 そういえばツヅキが持っていたあの変な模様の杖がない。先程まで卓に立て掛けてあったと記憶しているが、あ、そうか、死体が落ちて来た衝撃で倒れたのだ。杖は、あった、床だ。俺は杖を、いや、それどころではない。


「直ぐそこに居るぞ」

「くそ、どこだ」

「右だ、右」


 異様な男はもう俺達の前に居た。俺は急いで床に伏せて杖を拾うが、そのときにはその男の攻撃が始まってしまっている。ツヅキはその男が腕を振り始めてからそいつの所在地を掴んだ様でガードが遅れた。首辺りにパンチを食らい、よろける。


 不味いぞ、ツヅキは目が見えていない。正確には全体的にぼんやりと黒幕が掛かっている様に見えていて、はっきりと見えているのは左上の一部分だけという状態らしいが、戦いに不利なことに変わりはない。相手の男は手強そうだ。勝てるのか、ツヅキ。


 パンチを食らったツヅキだったが、相手の男の手首を掴んでいた。よろけながらもそれを斜め下に引っ張り、男の上半身を回転させて腕の外側に位置取る。そのままツヅキは男の腕を捻って関節を極めようとしたが、男は腕を瞬間的に引き抜き、拘束を解除した。しかし、その勢いで男の上半身は更に回転し、ツヅキは最早男の肩の外側に居る。そのまま男の上腕を押さえ、男の首の後ろ側に左の手刀を叩き込んだ。


 ツヅキの手の側面と男の首が触れたのは一瞬、しかし、その際に発生した音でその力の強さが窺える。首の血管や神経が極短い時間だが切断された筈だ。もう男は動けない筈、だが、男は直ぐ様上半身の回転を利用してツヅキの顔の横を殴った。俺にはツヅキがガードした様に見えたのだが、ツヅキは柵の方へ吹っ飛ぶ。柵に衝突するツヅキ。危ない、下のフロアに落ちるところだった。


 あの男、平気なのか。凄い音がしたが、何ともないのか。首の筋肉が防いだのかな。いや、男の首はそれ程太い様には見えない。なぜ平気なのだ。


 男はツヅキに近付いていく。ツヅキは、不味い、見失ってる。男と違う方向に顔が向いているぞ。これではまた殴られる。俺はツヅキと男を結ぶ直線上に移動した。


「ツヅキさん、こっちだ」


 ツヅキは男の方に顔を向け、両手で顔の左側をガードした。男は右を繰り出している。その拳はツヅキのガードの下、脇腹にヒットした。唸り声を上げるツヅキだったが、上半身が沈むことはなかった。男の服の胸辺りの布を掴み、ボディーに打ち込む。だが、男は無反応だ。


 このとき、男の右腕は既にパンチを撃てる位置に戻っている。男は再び右を繰り出したが、ツヅキはそれを完璧に読んでいた。間合いを詰め、男の右腕を左脇で挟み、固定する。そして、右で男の顔を殴った。もう一発。更にもう一発というところで、男がツヅキの首に左手を伸ばした。ツヅキはそれを避けるために体を開く。それでツヅキの左脇を締める力が弱まったのだろう、男が右腕を抜いてその右でツヅキの顔を短く打った。


 二人が離れる。ツヅキが血を流す一方で男は、前髪でよく見えないが、血を流してない様だ。痣もなさそうだし、ダメージがないのか。なぜだ、あれ程殴られたのに。どうなっている。その様な奴にツヅキは勝てるのか。


(続)

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