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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
131/146

4-4.相談

 俺は今まで培ってきたギャングの経験からこの女を甘く見ない方がいいと判断した。俺一人で対応するのは厳しいかもしれない。念のため上からの指示を仰ごう。


「お待ちください」


 俺は兄弟からカードを取り返し、バックヤードに向かった。今日はたまたまチミズさんが居る。チミズさんの指示を聞いておけば大丈夫だろう。


 俺は歩きながら振り返った。あの女、ポイントナインか。そうか、ポイントナインだ。俺は正直ポイントナインのことをよく知らないのだが、誰なのだろう。しかし、あの杖の形、見たことあるな。だが、模様が違うか。あの様な焦げっぽい黒い斑点はなかったかな。


 鏡の付いた扉。この鏡はマジックミラーでバックヤードから賭場の様子が見渡せる様になっている。その扉を開けると、直ぐそこにチミズさんや他の従業員達が居た。驚いた。


「あ、チミズさん」

「・・・」

「見てましたか」

「ああ」

「これ、あの傷の男が渡してきたカードです」


 チミズさんが受け取った。それを読んで溜め息を吐く。


「参ったな」

「あの女、無視しますか。上下賽をここに持って来ちまえば済む話ですから」

「無視できん。あいつはツヅキだ」

「え、あ、知ってる奴ですか。何なんですか、あいつ。強いんすか」

「お前達が束になったところで敵わん」

「そ、そんな。・・・そんな奴居ます?」


 チミズさんは再び溜め息を吐き、従業員の方を向いた。そして、衝撃的な発言をする。


「アウタイ・ジョーはまだ目覚めてねえのか」


 は、アウタイ・ジョー?アウタイ・ジョーだと。なぜその名前が。


「はい、まだです」

「最近、目覚めが不規則になってんじゃねえか。今起きてねえのか」

「はい」

「ちょ、ちょっといいですか。何ですか、アウタイ・ジョーって」

「うるせえ、説明なんかしねえよ。考えてんだ。余計なこと喋るな」

「あ、すいません」


 チミズさんに怒られた。チミズさんも内心焦っていそうだ。


 それにしてもアウタイ・ジョーがここに居るのか。そういえば、敵に居場所を特定できない様にするために転々としていると聞いたな。それで今日はここに居るのか、極秘で。


「時間稼ぎだ」

「はい?」


 チミズさんが俺に言った。


「相手を刺激しない様にしながら時間を稼げ」

「時間稼ぎですか。そう言われましても・・・」

「このカード、青天井とか客とかあやふやな部分があるからそれをはっきりさせろ」

「成る程、分かりました」

「そんでお前はアウタイ・ジョーを起こして来い」


 今度はチミズさんは別の従業員に向かって言った。


「え」

「今直ぐだ」

「待って下さい、無理ですよ。今まで一度も起こせたことなんてないじゃないですか。それに無理矢理起こしたら何されるか分かったもんじゃないですよ」

「いいから行け」

「いや、行っても無駄ですよ」

「・・・お前は何も分かってないな」


 チミズさんは呆れた色で言うとジャケットの内ポケットから短い木の棒を出した。その棒を引くと、短刀だ。なぜ今、その様な物騒な物を・・・、あ。


「さっきから言ってんだろうが。ツヅキがカチコミに来てんだよ」


 刺した、従業員の腹を。チミズさんは短刀を引き抜き、再度刺す。


「お前行って殺して来いよ、ツヅキを。早く行けよ、くそが。温いこと言ってんじゃねえぞ。現実を見ろよ」


 チミズさんが短刀を抜くと、その従業員が蹲る様に倒れた。え、これ、死んだのか。殺した?


 ・・・恐ろしい。チミズさんは他の従業員を見渡して言う。


「好きな方を選べ。ツヅキか、アウタイ・ジョーか」


 従業員達は顔を見合わせると、奥へと消えていった。ツヅキと戦うくらいなら寝ている者を起こす方がマシだと判断したのだろう。


「早く行けよ」


 チミズさんに一喝された。俺は慌てて返事をし、周りの物にぶつかりながら回れ右をする。急いで扉を開けてクラップスの卓に向かった。


 やばい、殺されたぞ。仲間が殺された。俺も、殺されるのか。嘘だろ。それ程の事態なのか。ツヅキって誰だ。何をされるのだ。


「申し訳ありません。お待たせしました」


 俺は卓に戻った。何人かの客が居なくなっている。勘のいい客だな。俺も居なくなりたい。


 傷の男やツヅキの様子は先程と変わらない。苛ついている訳でもなさそうなので時間稼ぎにある程度は期待できるな。


「お尋ねしたいことがあります」


 傷の男は何も言わずにいるが俺のことを見てはいる。話を続けよう。


「青天井というのはどういうことでしょうか」

「マキべの制限を外すということだ」

「えー、幾ら賭けるとか」

「それはこっちの戦略の一部だから言えない」

「そうですか。・・・決投は私ではなくお客様が振るということですか」

「ああ」


 傷の男が頷いた。えーっと、あと聞くことは何だ。三つの条件のうち二つについて質問した。残りの一つは、上下賽についてだから他の客が居る前では聞けないな。条件以外の何を聞くか。


「・・・何点張りするかは教えて頂けますか」

「・・・三点張りだ」

「そうですか」

「悪いがこの後に予定がある。今直ぐ始めてくれ」

「え」


 しまった。駄目か。もうこれ以上時間稼ぎは無理か。どうする。いや、始める訳にはいかない。チミズさんに報告に行こう。


「申し訳ありません。上に確認を取って参ります」

「駄目だ。始めろ」

「あ、いや、私の一存では」

「なら、あそこに立っている従業員に責任者を連れて来させろ。お宅らはここに居てくれ」

「いえ、私が行かないと」

「分かった。三分以内だ。こっちはもう何分も待たされている」


 三分か。短いな。しかし、傷の男の言うことも尤もだ。反論できない。


「分かりました。お待ち下さい」


 俺はバックヤードに早足で向かった。扉を開けると直ぐそこにまたチミズさんが。なぜこの人は扉ギリギリに立つのだ。


「どうした」


 床に倒れている先程刺された従業員、その周りには血溜まりができている。死んだのだ、本当に。恐ろしいが、今は構えない。チミズさんに報告する。


「三分以内に始めろと言われました」

「くそ、そうか。三分・・・」

「どうしましょう」

「そもそもどうなんだ。勝てそうなのか」

「え、えーっと、普通の賽と大上下賽だから、縦に1から6の六個のマスで横に4から6の三個のマスだからで、十八マスですね。その内訳は・・・」


 俺は頭の中で表を展開した。次の様な表だ。


 『789012

  678901

  567890』


「5から12まであって5と12が一マスずつ、6と11が二マスずつ、それ以外が三マスずつですね」

「どういうことだよ」

「ポイントナンバーが9だからオッズ賭けをしたら十八回やって三回は相手の勝ちで八回はこっちの勝ちです」

「一対二・七か。賽が普通だった場合は」

「えー、四と十六だから、一対四です」

「有利になるのか。当然か。あの、あれあっただろ、三十倍のヤツ」

「ああ、ホーン賭けですか」

「それはどうなんだ」

「通常なら三十六分の一ですけど、今回は十八分の一です」

「十八分の一で三十倍か。滅茶苦茶だな」

「・・・」

「やれ」

「え」

「言われた条件でやるしかない。もう時間稼ぎは無理だ」

「・・・分かりました」


 俺は覚悟を決した。不利な勝負に挑む、が、俺が勝てばいいのだ。そうすれば問題ない、筈だ。


(終)

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