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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
129/146

4-2.毒

 舎弟に先導され、階段を上る。その部屋は階段から二番目の部屋だった。


「ヤマメの兄貴」


 別の舎弟が扉を開けて俺を迎え入れる。部屋の中のその女は火の付いた蝋燭の立っている机の近くで項垂れていた。椅子にがっちりと縛り付けられている。俺は笑顔でその女の前に立った。


「初めまして、お嬢さん」


 その女は痣まみれの顔を俺に向けた。片目が腫れで開かなくなっている程の怪我だが、その女も口許を歪ませて笑顔を作ろうとしている。平気だとアピールしたいのだろう。いい顔だ。


 舎弟が俺にナイフを差し出した。俺はそれを受け取り、火で炙る。


「俺のことは知っているのかな」

「さあ、知らねえな。興味ねえ」

「そっか。お嬢さんはメーガで間違いないんだよな」

「だったら何だよ」

「モルヒロとニシカを殺したんだって?」

「違う。私は・・・えー・・・タヤマ」


 ナイフが十分熱せられた。俺はメーガの首を固定し、刀身を押し付ける。絶叫を噛み殺すメーガ。刀身を外すと、その首にはその形の焦げがくっきりと残った。


「惚けてもロクなことないよ。話しなさい」

「・・・何で私がその二人を殺せんだよ」

「ポイントナインの助けがあったからだろう」

「何だそれ。どーゆー理屈だよ」

「自分の状況を分かっているのかな。誰も助けに来ないよ。お嬢さんはライオンの檻に放り込まれた兎だ」

「面白えな。ライオンのくせに兎にやり返されるのが怖くて縛り付けるのか。これを外せ。やり合おうぜ。そんなに私が怖いか」

「ほざけ。外したところでお嬢さん一人で何ができる」

「じゃあ外せ。さっさと外せよ。何もしねえでやるからよ、さっさと外せ」

「元気があるんだね。その元気があるうちにポイントナインに関して知ってることを全部話せ」

「玉なしどもが。何を話すにしてもこんなんされてたら話す気失せるだろうがよ」

「何も話す気ないのか。なら、時間の無駄だ。やり方を変えるか」

「うるせえ、さっさと外せ、くそども」

「分かった、外してあげる。でもその前にコブラ印の正直薬を射とうね」

「は」


 俺は金庫の許に歩いた。四桁の番号にダイアルを合わせると開くタイプなのだが、金庫の扉にその番号のメモが貼られていることに気付く。そういえば前、いちいち番号を舎弟に伝えるのが面倒だから貼っておいたのだった。剥がしておこう。


 『1280』


 ダイアルを合わせると扉が開いた。中にある事前にセットしておいた注射器を手に取る。・・・違う、これ、血清の方だ。最近目が悪くなってるな。こっちこっち。


 扉を閉め、ダイアルを変える。これでロックが掛かった。俺は歩きながら注射器のキャップを外して机に置き、メーガの許に向かう。机の上は書類やガラスの灰皿や文房具やキュウリなどで色々と散らかっていた。このニーボリさんが作られたキュウリも処分しないといけない。


「何だよ。おい」


 俺はメーガの許に辿り着くと、問答無用でメーガの手首の上辺りに注射を刺し、毒液を注入した。空になった注射器を机に置いてメーガに一発ビンタを入れる。


「調子に乗るなよ、お嬢さん。知ってること洗いざらい脳みそが空っぽになるまで喋るんだよ。射たれた所が痛いだろ。これからどんどん痛くなるぞ」

「ふん。いいや、全然痛くねえな」


 俺はもう一発ビンタを入れた。可愛げのない女だ。


「俺は何十回何百回も使ってモニターしてもらってんだよ。強がるな。正直に言え」

「痛くねえよ。こんなんが痛いって今までザコしか相手にしてなかったんだな」


 俺はビンタを入れ、椅子を蹴った。メーガはぶっ倒れ、肩のラインが床と垂直になる。


「お前は三十分で嘔吐して、その十分後に死ぬ。ゲロを喉に詰めない方がいいぞ。でも、そうか、お前の体格なら、もしかすると二十分で嘔吐、そしてその五分後に死ぬかもね」


 俺はメーガの頭を踏んだ。メーガは真っ直ぐ前を見て耐えている。


「朗報だ。金庫に血清がある。お嬢さんには勿体ない程高価だけど使ってやってもいい。でも、気を付けろよ。血清の効果があるのは射たれてから何分以内なんだろうな。もう手遅れなのかもね」


 俺は楽しんでいた。メーガが死ぬのもいいし、喋り出すのもいい。どうするのかな、こいつは。


「血清が欲しいのなら簡単に手に入るよ。ポイントナインのことを全部喋れ。決断は早い方が賢いね」


 そのとき俺の靴が振動し出した。いや、靴ではない。メーガの頭が小刻みに揺れている。足を退かすとメーガは笑っていた。


「ゴチャゴチャうるせえ奴だな。殺したいなら早く殺せよ」

「・・・待っててやるから、声掛けてね」


 ったく、気の強い女だ。


 俺は女を暫く放っておくことにした。こいつは今熱くなっている。数分もすれば頭を冷やしてまともな判断をできる様になるだろう。俺はメーガから離れ、舎弟達の方へ赴く。


「蝋燭の火消しますか」


 舎弟が俺に聞いてきた。


「いや、消さなくていい」

「さっきこいつ前髪焦がしたんすよ」

「いや、あれは仕様がねえだろ。気付かなかったんだから」

「馬鹿か、お前。どうしようもねえな。寺に行って鍛えてもらえや」

「何で寺なんすか」

「紙って燃えるっけ」

「髪の毛ですか」

「違えよ、ペーパーの方に決まってんだろ。お前も寺行け」

「何で寺、寺を何だと思ってんすか」

「これ、燃やしてみるか」

「何の紙すか。燃やしていいヤツなんすか。何か書いてありますけど」

「金庫に貼ってた番号のメモだよ」

「ああ、ならいいか」

「おお、燃えた燃えた。熱っ」

「ちょっと」

「何やってんすか」

「熱いから落としちった」

「危ない。火事になりますよ」

「消えた?」

「消えました」

「貸せ。・・・臭っ」

「焦げ臭いっすね」

「短時間で半分焼失したな」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


 舎弟達と雑談して五分程経った。メーガからは苦痛に呻く声が時折するだけで、俺を呼ぶ声はしない。もう、これ、喋らないな、こいつは。死ぬ覚悟はできている様だ。どうせ死ぬのなら、そうだな、こいつの肌に落書きして遊ぶか。


 俺はナイフを手にメーガの許に近寄り、しゃがんだ(今回はナイフを炙らない)。メーガの顔色が変わってきているが、意識はある。もしかすると、ナイフの苦痛で喋るかもしれない、喋らないと思うけど。


「メーガ、喋らないのか」

「・・・」

「お前の肌は自由帳みたいに白いな」


 メーガの片方の手を縛る拘束具を外して机に置き、その手を取った。


「ちょっと痛いぞ」


 俺はナイフを振り上げた、が、それが振り下ろされることはなかった。下の階から発砲音がしたのだ。


 何だ。なぜ発砲が。何が起きている。鉄砲が使われるなど異常事態だ。敵が来たのか。もうメーガに構っている場合ではない。なぜかは分からないがこの場所がどこかの敵にバレて侵入された。重大問題だ。


 部屋の中の五人の舎弟のうちの二人がグラブを嵌めて鉄砲を手にした。俺は鉄砲を持つ舎弟のうちの一人に状況確認に行かせる。


「何なんすかね」


 部屋の中に居る舎弟が声を発したので俺はその舎弟の方に首を振った。すると、直ぐ近くで発砲音が轟く。この部屋の扉の方だ。心を落ち着かせながら扉の方を見てみると、先程確認に行かせた舎弟が倒れている。そして、何が起きたのだと考える暇もなく、小銃を持った目出し帽が部屋に侵入して来た。そいつが発砲し、舎弟の一人がやられる。俺達は急いで机の陰に飛び込んだ。


 くそ、マジかよ。誰だ。何をしに来た。小銃を持っているということは国家権力か。いや、その様な訳があるか。国家権力がウチに襲撃など仕掛ける訳がない。


 ・・・そういえば、ポイントナインが小銃を持ってるという噂があったな。まさかポイントナインか。ポイントナインの誰かが俺達を殺戮しに・・・。


 しかし、今、重要なのはあの目出し帽が誰かではなく、どうやってあの目出し帽を始末するかだ。俺と三人の舎弟、人数は勝っているのだ、大丈夫。だが、早く行動を決めないといけない。


「どうします」


 俺達は同じ机の陰にいる。一人が鉄砲を持っているものの、小銃に敵うかどうか。あ、そうだ、キュウリだ。キュウリがある。キュウリを取りに行こう。


「お前ら二人はあっちに行って奴の気を引け。お前はその隙に奴を撃つんだ。俺はキュウリを取りに行く」

「分かりました」


 俺達は行動に移った。先ず鉄砲を持っていない二人が走り出して囮になる。その直後、発砲音と短い悲鳴が一つ。一人やられたか。でも、重要なのはここからだ。鉄砲を持った舎弟が胸より上を机から出し、目出し帽を狙った。目出し帽の銃口はまだ囮の方に向いていたので撃ち殺すチャンスだと思われたが、舎弟は目出し帽ではなく天井に向かって発砲しやがった。くそ野郎、メーガだ。床に倒れているメーガが舎弟の膝を蹴ったのだ。舎弟はあえなく目出し帽に撃たれる。


 俺はキュウリの置かれている机の許に辿り着けた。しかし、生き残っているのは俺と囮の一人だけだ。くそ、この状況でどうすればいい。取り敢えずライターとキュウリを持っておくか。いや、もう火を付けちまおう。策など要らん。鉄砲とキュウリならキュウリの方が勝つに決まっている。目出し帽を爆殺してやるぞ。


 目出し帽は囮の位置を気にしている様だった。今なら投げ付けてやれそうだ。俺はライターで導火線に火を付けた。そして、まだ、まだだ、よし、今だ、身を乗り出して、キュウリを投げ付ける。


 キュウリは目出し帽に向けて真っ直ぐ飛んだ。決まった、あとは爆殺するだけだ、と思われたが、目出し帽は当然の様にそれをキャッチして小銃で窓を撃ち、そこから外へと放り投げた。その間僅かコンマ三秒。キュウリは目出し帽の手許ではなく外で爆発する。あら、見破られてた?


 俺の攻撃は失敗に終わり、目出し帽に俺の位置がバレた。俺は机の陰に隠れるが、目出し帽はどんどん近付いて来る。くそ、もう一度キュウリを、いや、もう近いからキュウリは使えない。こうなったら引き付けてぶん殴るしかない。


 俺は目出し帽が来るのを待った。くそ、撃たれるかもしれねえけど飛び出すしかねえ。足音が近い。もう十分引き付けた。よし、行くぞ。


 俺は飛び出した。目出し帽の銃口が俺を向く。やべ、思ったより遠い。焦って待てなかった。やっちまった。


 撃たれることを覚悟したそのとき、目出し帽が突然回転した。そして、その背中側から先程囮をやった舎弟が飛び出して来る。どうやら舎弟は目出し帽の後ろから奇襲を仕掛けた様だ。それで目出し帽に察知されて避けられたという訳だな。


 でも、それでいい、この近距離で二対一ならいける、と思ったのも束の間、舎弟がすっ転んだ。目出し帽が咄嗟に足を掛けたらしい。何だよ、これでは一対一だ。くそ、俺一人でもいくぞ。


 俺は目出し帽の小銃に掴み掛かり、縦にした。小銃をしっかり掴んでいた目出し帽は上体を崩し掛けたが、パッと手を離し、俺との距離を詰める。俺の両手が小銃で塞がっているところ、目出し帽は俺の耳を握り、思い切り捻った。


「ああああ」


 痛え。千切る気か、こいつ。抵抗したら本当に千切れる。俺は目出し帽の為すがまま倒れるしかなかった。そして、顎を蹴られる。


 倒れた俺の代わりに立ち上がった舎弟が目出し帽に向けて腕を振るった。目出し帽は二、三発の打撃を避け、舎弟の腕の外側に立つと、机に置いてあった灰皿で舎弟の蟀谷辺りを殴る。あれはかなり重い灰皿だ、相当なダメージだったのだろう。舎弟は反射的に両腕で顔をガードした。そこで目出し帽は容赦なく舎弟の股間を蹴り上げる。舎弟は体を前に傾け、頭頂部を目出し帽に差し出す形となった。当然そこを灰皿で殴られ、舎弟は床に潰れる。


 その間に俺は立ち上がっていた。ナイフを手にし、目出し帽に向かって突く様に振る(小銃を使いたかったがグラブがないから使えない)。しかし、俺のナイフ攻撃も目出し帽は知っていたかの様に最小限の動きで避ける。そして、俺のナイフを持つ手を掴んで腕の外側にクルッと回り、肘で俺の上腕を押した。俺の腕は棒の様にピンと張り、そして、こいつ、許せねえ、そのまま俺の腕を曲がっては行けない方向に衝撃を加えることによって折りやがったのだ。


 俺は悲鳴を上げた。だが、俺の肩から骨折部分までは依然目出し帽の支配下にある。俺はそのまま舎弟が居る横の床に押し付けられた。


 くそ野郎、俺の腕を。いや、早く立とう。寝てるのは危ない。


「動くな」


 目出し帽が小銃を俺達に向けていた。隣で腹這いになっている舎弟の溜め息が聞こえる。生きてたのか、こいつ。


「アウタイ・ジョーはどこだ」


 この声、やはり女か。ポイントナインで間違いない様だな。恐らく舎弟達がメーガを攫ったとき、尾行されていたのだろう。馬鹿どもが、尾行されてんじゃねえよ。


「メーガ、大丈夫か」


 机越しにメーガに声を掛ける目出し帽。そうか、俺はメーガを人質に取っている様なものだ。交渉次第では助かるな。


「メーガに何をした」

「・・・」


 俺は何を言うべきか考えた。どうすれば俺の身の安全を確保できるか。


「私はそっちの腹這いの、ヤマメじゃない方に話し掛けている。お前が二十秒以内に話さないのなら、お前を始末してヤマメから聞き出す」


 俺はこの発言で焦り始めた。ヤバいぞ、この舎弟、自分の命欲しさにペラペラ喋るのではないか。情報を持っていることだけがこちらの存在価値なのに、それを失ったら俺は殺されてしまう。


 喋られては駄目だ。この舎弟の口を塞がなければ・・・。


(終)

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