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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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3-11.当然の勝利

 確かに俺自身の喧嘩の能力はそこまでは高くない。恐らくそれはこのお客にも雰囲気などで伝わってしまっているだろう。しかし、今日は髭の三馬鹿トリオを連れて来ている。このお客が滅茶苦茶強くない限り・・・、え、あ、もしかして、滅茶苦茶強いのか、このお客。三馬鹿トリオを倒せる程の実力があるのかも。いや、まさかだよな。あ、そうか、後ろの連れか。連れが滅茶苦茶強いのか。折れてるっぽいけどな、腕が。強そうには見えないが、どうなのだろう。


 しかし、そうでもないと、このお客の平然とした態度を説明できない。二連続三ペアという異常現象を起こして平然とできるか、普通の人間が。きっと自信があるのだ。二回戦も勝って俺から三百万を奪い、この部屋から逃走するだけの自信が。


 くそ、喧嘩か。結局、ギャングは殴り合いの喧嘩で勝った方が正義。そういうことか。俺達は何をしようが行き着くところは暴力。


 俺は♣︎を持った。そして、左上から9753A、左下からT8642と並べる。お客は相変わらず直ぐにその上に置いていった。


 どうなるか、と思い、真剣な眼差しをトランプに送っていたのだが、その結果は意外なものだった。


 『99』『A7』『25』『36』『84』


 最高一ペアの五組で既に一ペアできている。つまり、俺が一切の手を加えることなく、引き分け以上が確定しているのだ。何だ、どういうことだ、これは。一ペアできている。


 俺は考えを巡らせていたが、お客がトランプを集め出したので、俺も思い出したかの様に集めた。何もせず、普通に開けていく。もちろん、一ペアだ。


 お客は俺が開けた後に十枚をひっくり返した。横に広げると、一つもペアが成立してない。勝敗が決まると直ぐにお客は十枚から♣︎を抜いて俺の方に置いた。俺は・・・、まあ、勝った。


 勝ったということは、先程までの三ペアは本当に偶然だったのか。いや、何かをしていたがやめた、ということか。どっちなのだ。喧嘩強い説は思い違いか。俺の脅しが功を奏したのか。何なのだろうか。


 いや、だが、待てよ。まだ俺が完全に勝った訳ではない。二勝先取で一勝しただけだ。俺に一回勝たせて油断させる作戦の可能性もある。三回戦が終わるまで気を抜いてはいけない。


「一勝一敗ですね」


 俺は♠︎の五枚を渡した。そして、♣︎を両手の間に広げ、片手で持つ。このお客、必ず何か仕掛けてくる。


 悩むイトー君に耳ゴシゴシ、でいこう。俺は左上から7861T、左下から92354と並べた。お客は直ぐにその上に重ねる。俺はその様子を固唾を飲んで見守っていた。そして、僅か数秒後お客が置き終わる。


 ・・・またか。また俺の引き分け以上が確定している。


 『67』『3A』『49』『82』『55』


 ・・・お客が何をするかガン見してやろうか。何かをするかもしれないからな。


「集めましょうか」


 そう言って俺は動かない。お客が集め終えるまで待つつもりだ。


 この事態にどう対応するかな、と俺は期待したが、お客は固まっている俺を意に介することなく、五組を集めた。そのまま卓に置く。何かをした様には全く見えなかった。


 何も起きていない。なぜ何も起きない。俺は、俺はもうトランプを開けるしかない。卓の中央にある五組を開けた。もちろん、5の一ペアのみが成立している。


 俺はなぜか不安を感じていた。何も起きないのが不気味過ぎる。先程まで二連続三ペアだったのに急に何も起きなくなったは、別に、おかしくないのか。いや、しかし、二連続三ペアはやはりおかしい。何かが起きないと、あ、まさか、もう既に何かが起きたのか、俺が気付いてないだけで。嘘だろ、何かを見落としたか。不味いぞ。


 お客が十枚をひっくり返した。横に広げる。俺は必死に目を動かしてその十枚の内訳を確認した。


 俺から見て右から、T24A678T39、あれ、ペアなしだ。えっと、ということは、俺の勝ちか。ん、あれ、何か、勝ったぞ。


 お客が立ち上がった。特に悔しがる様子もなく颯爽と部屋を出る。連れもそれに続いた。


「あ、ど、どうも」


 俺は余りにもあっさりお客が帰るので呆気に取られてしまい、締めの挨拶もロクにできなかった。俺が、どうも、と言ったときには、お客はもう部屋の外だ。何だよ、変な奴だったな。


 ・・・俺の勘違いだったのかな。あのお客は何もしていなかった。二連続三ペアはただの偶然。そうとしか考えれない。もし俺に本気で勝つために仕掛けを施していたら、俺の脅しに屈せずゴリ押しするだろうしな。


 あ、あ、もしかして、金か。金をポーチごと摺り替えられたか。ポーチはノーマークだったぞ。しまった。


 俺は慌ててポーチを掴み、中を確認した。中には、三百万が。偽札の様には見えない。三百万だ。摺り替えられていない。何だ。


「兄貴」


 気が付くと俺の隣に先程俺が部屋から追い出した舎弟が立っていた。そういえばお客と入れ替わりで入って来ていたな。


「居らっしゃってます、ガイザワさんが」

「ああ、そうか」


 まあ、勝ったならいいや。それよりメインゲストだ。今日はガイザワから七百万毟るのがメインイベントなのだ。前哨戦で景気よく勝ったと思えばいい。


「お呼びしろ」


 舎弟が部屋を出て行った。俺は部屋に居る従業員に百万を持って来る様に指示をした後、ポーチから三百万を出して卓の三百万に重ね、ポーチは棚の空いている所に置く。トランプを♠︎と♣︎で分け、従業員が持って来た百万を六百万の上に重ねた。これで準備完了だ。


 舎弟が部屋に入って来た。その後に、ガイザワだ。これはこれは、人相の悪いこと。おー、怖い。ガイザワに続いて二人の男も入って来る。スペシャルゲストにボディチェックはしない。全員で監視すればいいだけのことだ。よし、愛想よくしよう。


「やあやあ、どうも、ガイザワさん。初めまして。よくご活躍を伺ってますよ。お待ちしてました」


 俺はガイザワに近寄り握手を求めた。ガイザワはそれに答えたが、力が強い。


「イーヤロさんだな」

「ええ、どうも。ふー、力強いですね」


 俺は手を離してひらひら振った。そのままガイザワを卓に案内する。


「悪いな、突然」


 ガイザワのこの発言だが、俺は少し頭に来た。はあ、悪いな、だと。ふざけんなよ。思ってねえだろ。んなこと言うんじゃねえ。俺は中ゼミが嫌いなんだよ。とっとと死ねや。俺は喉まで出掛かった言葉を飲んで笑顔で応対する。


「いえいえ、大勝負はいつでも歓迎です。是非、他の中ゼミの方にもお勧めして下さい」

「ボロ儲けしてるんだってな」

「そんなことないですよ。負けたお客さんがよく喋るからそういう印象になるんでしょう。負けた腹いせに誇張して喋るんですよ」


 ガイザワが卓に付いた。俺も対面に座る。


「変なことしてんじゃねえだろうな」

「そんな、やめて下さい。何もしなくたって手数料で十分儲けてますからね。何もしてませんよ」


 何だ、こいつ。舐めてんのか。その様なことよく言えるな。その立場で言っていいことと悪いことがあるのが分からんのか。まあいい、七百万捨ててくれる客だ。大目に見よう。


「俺は本気で勝ちに来てるからな。正々堂々とやれよ」

「当たり前じゃないですか。もちろんですよ。私は誠心誠意をモットーに仕事してますからね」

「少しでも変なことをしたって分かったら無条件で俺の勝ちだからな」

「ええ、ええ、もちろんですよ」


 ガイザワの後ろの男がカバンから札束を出した。七個。一応確認しておこう。


「このトランプを使います。どうぞお調べ下さい。そちらのお金、ちょっと見させてもらいますね」


 俺はガイザワの方にトランプを置き、金を引き寄せた。まあ、本物だな。これが偽物な訳ないか。金を元の場所に戻す。ガイザワはトランプを手に持って、その裏を見詰めていた。短い一辺を指で固定し、反対側をパラパラ漫画の要領で弾く。何をしているのだ。


「ルールについて何か質問ありますか」

「・・・いいや」

「では、始めましょうか。♣︎を下さい。あ、どっちでもいいですよ、♠︎でも」

「♣︎が欲しいんだろ。やるよ」


 ガイザワが俺の方に♣︎を投げた。何だ、こいつの態度は。気に食わないな。腹立つ。ガイザワは♠︎を卓に伏せて腕組みをしている。


「じゃあ、並べますから」


 瞳にゴロゴロ悔しいな、でいこう。俺はこの語呂で♣︎を並べた。ガイザワはまだ腕組みを解除しない。


「この上に一枚ずつ置いていって下さい」


 俺は手で次の手順を促した。しかし、ガイザワはニヤニヤしたまま腕組みだ。何をしている。早くやれよ。


「これ、始まってんだよな」


 ガイザワが無駄話を始めた。俺は早くやってほしい。ガイザワなどと話をしても時間を浪費するだけだ。余計なこと喋ってないでさっさと七百万を置いて帰れよ。


「始まってますよ」

「俺達はもう走り出してる訳だ」

「え、ええ。えっと、すいません、どういう意味ですか。何を仰っているのか」

「もう言い訳は通用しねえよってことだ」

「・・・は」

「てめえ、イカサマしてんじゃねえよ」


 俺は唖然とした。何が何だか分からない。このガイザワは何を言っている。イカサマなどしていない。急にどうした。馬鹿が発症したのか。


「どうなさったんですか。何がお気に召さないんです」

「へえ、惚けんのか、図々しい奴だな。俺を嵌めようとして知らぬ存ぜぬか」

「何、何ですか」

「これは何だっつってんだよ」


 ガイザワが俺の並べた裏向きの♣︎を指差した。


「説明できんのか」

「・・・トランプですか」

「ただのトランプじゃねえだろ。ガン付けられてんじゃねえか」

「は、え、いや、そんな」


 ガイザワがとんでもないことを言い出した。ガン付けられてるだと、その様な筈はない。これは俺が用意した通常のトランプだ。何の印もない筈だ。


「どこにですか」

「ここだよ。小っちぇえ白い点が塗り潰されてんじゃねえか。綺麗な仕事だ、同じ色で塗り潰しやがって。こっちは違う点が塗り潰されてるな。これじゃあ分かっちまうよ、裏から。とんでもねえイカサマだよな。気付かなかったら大惨事だ」

「そんな筈は・・・」


 俺は目を見張った。本当に点が塗り潰されている。何だ、これ。俺は本当に知らないぞ。なぜ塗り潰されている。どういうことだ。何なのだ。十枚それぞれ違う点が・・・。


「どういうことなのかな、イーヤロさん」


 俺ではないということは、ガイザワが塗り潰したのか。いや、無理だろ。でも、実際に塗り潰されてるし・・・。


「対応してもらおうか。何だっけ。誠心誠意だっけか」


 勝ち誇るガイザワに俺は何も言い返せない。ただ俯くしかなかった。


(終)

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