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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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3-8.指名手配

 手摺壁の上に二本の指で隠れてしまいそうな程小さい瓶状のプラスチック容器が八個置かれている。私が今食べているのは九個目だ。できるだけゆっくり食べているが、如何せん小さい駄菓子なので直ぐに食べ終えてしまう。今、九個目を食べ終えた。十個目は少し時間を置いてから食べよう。


 退屈な仕事だ。ただ双眼鏡で眺めてるだけ。何も起きないあの部屋を眺め続け、夜が明けたら帰る。本当にそれだけ。


 ここからはあのエル会の事務所がよく見える。私の居るここはとあるアパートの外階段だ。私の住んでいるアパートではないが、もし誰かに見付かっても住人なら無視すればいいし、管理人ならぶん殴って逃げちまえばいい。


 私は九個の容器を腕で払って下に落とした。そして、そこに両肘を突き、双眼鏡を覗く。何も期待せずに暫くボーッと眺め、何となく、本当に何の意味もなく他の建物の窓を見てみると何かが横切ったのが分かった。


 ・・・え。今、見えたの、・・・え、は?


 今の、私の見間違いではないよな。もう一度見たいのだが、思い出せ、今見た奴を。今のは、やはり、見た。私は確かに一瞬だがあの毛むくじゃらを見た。あれは間違いなくアウタイ・ジョーだ。遂に、遂に見付けた。やったぞ、スーパーラッキー。こういうことってあるのだな。よし、報告だ。


 私は持っていた地図にそのアウタイ・ジョーが見えた建物の場所を記すと階段を下りた。気が逸る。早く報告したくて堪らない。いよいよ終わりが見えて来たのだ。最後の標的を見付けたのだ。


 階段を下り切った。そこは直ぐ道路なのだが、誰かが私の前に立ち塞がる。どうやら私を待ち構えて居た様だ。誰だ、この男は。


「てめえか、車にゴミを落としやがったのは」

「チェスト!」


 私はそいつの顎を殴った。こういうのは早く行動するのが肝心だ。


「面倒臭えんだよ。グチグチ言うな、ボケ」


 そいつは車の近くに吹っ飛んだのだが、そいつが立ち上がると同時に車の中から三人の男が降りて来た。あれ、一人ではないのか。何か、ヤバそうになってきたな。


「・・・あれ、こいつ、何だっけか」

「待て、メーガだ、こいつ」

「メーガ?」

「モルヒロ殺しのメーガだよ」


 何で、こいつら、私のことを。うわ、スーパーアンラッキー。逃げろ。


 私は車の反対側に走り出そうとしたが、後ろから掴み掛かられてしまった。拘束を解くため瞬時にしゃがみ、足を取る。そいつを転倒させ、股間に蹴りを入れたところでやっと走り出せた。


 しかし、どこに向かえばいい。スイの車か。車でとっとと逃げちまえばいいのか。奴らを撒いてからスイと合流しよう。


 後ろから奴らの怒号が聞こえる。振り返ると奴らは車で私を追い掛けようとしていた。不味いな、これでは直ぐに追い付かれるぞ。


 私は手近な住宅の塀を乗り越えた。そのまま裏庭まで走り、また塀を乗り越える。そこは細い路地だった。どこだ、ここ。迷うのは不味い。地図を見た方がよさそうだ。


 えー、先ずは右か。えっと、何だこの別れ道は。書いてないぞ。あ、ここか。間違えた。えー、曲がるか。そんで、突き当たりで右、は駄目だ、通りに繋がる。左、も通りに出てしまうな。えーっと・・・。


「居たぞ、こっちだ」


 左から大声が聞こえた。ヤバ、もう見付かってしまったぞ。そうか、連中の方が土地勘があるのか。これは右に行くしかないな。


 私は全力で走り、通りに飛び出した。それと同時に獣の叫び声の様なブレーキ音が私の体の中に響く。車とぶつかりそうになった。・・・あ、この車、さっきのだ。


「おい、待ちやがれ」


 私は車から降りて来た男達が叫び出す前に走り出した。何か、追っ手が増えてないか。もしかすると近くに連中の仲間が居たのかもしれない。


 近くの路地に飛び込み、直ぐ様塀を登る。右足を掛け、左足を持ち上げようとしたところで、その左足の足首を掴まれた。嘘でしょ、もう追い付かれたの。


「てめえ、逃げんじゃねえ」

「くそ、離せ」


 私は左足を必死で振った。すると、踵がそいつの目に入ったらしく、左足が解放される。私は塀から落ちる様に住宅の敷地内に侵入した。早く立ち上がらないと。


 私は反対側の塀に走った。手を掛けて、追っ手が来てないか確認のため振り向く。すると、そこには誰も居なかった。


「あれ」


 追い掛けて来ないのか。どうして追い掛けて来ないのだ。あ、外から追い付く気なのか。私がこの塀を越えたところで捕まえる計画なのかな。なら、このまま行くのではなく、戻ってみよう。


 私は先程登った塀に音を立てずに近付き、耳を欹てた。


 ・・・何の音もしないな。登ろうか。私は塀の上に飛び付いて外の様子を窺い、誰も居ないことを確認すると、路地に降り立った。地図を見て遠回りでスイに合流するルートをチェックする。


 よし、行こう。どうやら撒けた様だし、今がチャンスだ。


 私は路地を走った。連中の姿は見当たらない。このまま逃げ切れそうだ。それにしても連中は何だ。エル会の奴らか。私を追うということは私がポイントナインだと分かっている様だ。捕まったら何されるか分かんねえぞ。絶対に逃げ切らないといけねえな。


 通りに出て角を曲がるとスイの車が見えた。運転席のスイと目が合った様な気がする。あと四、五十メートルだ。よし、これで大丈夫。ざまあみろ、エル会のボケども。逃げ切ってやったぞ。アウタイ・ジョーを庇ってタダで済むと思うな。


 走り出して数秒後だった。私の進路を車が塞いだのだ。私は一瞬でヤバいと判断し、百八十度ターンをしたが、その先も別の車で塞がれた。不味い、囲まれたか。


 車から男達が降りて来た。余裕の笑みを浮かべて私を中心に半径八メートル程の半円の弧を描く。くそ、これでは逃げれない。私の背中側にある塀を登っても、登っている途中で捕らえられてしまうだろう。


 はあ、マジかよ、詰んだか。折角アウタイ・ジョーを見付けたのに伝えれなかった。あと少しだったのに。


 ・・・あ、待てよ、地図なら、そうだ、地図には既に記してあるのだ。この地図さえ死守すればアウタイ・ジョーは終わりだ。そうだ、何としてもこの地図を守ろう。


 私は地図を背中に回し、塀へと下がった。そして、その塀の口を務めるポストに地図を差し込む。完全に入れるとスイが気付かない可能性があるので三分の一程飛び出させておく。あとは奴らの気を引くだけだ。私は通りの少し遠くを見て指差した。


「あ、チミズだ」

「え」

「あれ、お疲れ様です」

「ど、どこに居らっしゃるんだ」


 男達が一斉に私が指差す方を見る。まさかこの手がここまで完全に通用するとは思わなかった。馬鹿ばかりだ、こいつらは。まんまと引っ掛かりやがって。私はその隙にできるだけ人の密度が薄い所を狙って走った。だが、もちろん突破できる訳もなく、近くの男が私の胴体を掴み、持ち上げた。


「離せ、くそ」

「てめえ、チミズさんどこだよ」

「チミズさん居ねえよ、いい加減にしろ」

「早く車に乗せろ」

「誰か助けて。誰か居ないのか」

「てめえ、喋るんじゃねえ」


 私は口を塞がれた。腕も足も押さえられる。もうこうなってしまったら私の抵抗もここまで。頼むぞ、スイ。あの地図に気付いてくれ、お願いだ。あの地図をリリイ・ルウの許へ、お前だけが頼りだ。あとは任せたぞ。


(終)

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