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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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3-7.買い物

 人が近付いて来る気配がする。目線を上げると、ジョーではなく紙袋を提げた男が車の前を通るだけだった。ジョーはまだか。遅いな。


 俺は暇潰しにもともと持っていたトランプであのゲームを再現してみた。直ぐに終わるゲームなので何度もやってみる。


 試して分かったのは、二回に一回はペアが全くできないこと、二ペアですら中々できないこと、だ。イーヤロはあのときよく三ペアも作れたな。多分だが、あの胡散臭いおっさん、真っ当に戦ってないな。何かしら不正をしたに違いない。


 運転席のドアが突然開いた。ジョーが戻って来たのだ。シミュレーションに夢中で気付かなかった。


「グッドニュースとバッドニュースがあるんだけど、どっちから先に聞きたい」


 銀色のレジ袋を膝に置いたジョーが妙なことを言い出した。何だよ、さっさと言え。


「どっちでもいい」

「じゃあグッドニュースなんだけどよ、お前の言う通りイーヤロのトランプは一般的に流通しているのと全くデザインが一緒だ、俺が見た限りだけどな」

「トランプを見せろ」

「ちょっと待てって」


 ジョーのレジ袋、随分と膨れている。幾つ買ったのだ。無駄に大量に買いやがったな。


「お前、そのトランプは全二色っつったろ。それを踏まえて、バッドニュースはこれだ」


 ジョーがセンターコンソールボックスの上にレジ袋の中身をぶち撒けた。レジ袋からゴロゴロと出て来たのはカラフルな六個のトランプだった。何だ、これ。


「赤、青だけじゃなく、緑、黄色、オレンジ、紫も普通に売ってんだってよ。メジャーなのは赤と青だけど、他の四色も結構取り扱ってる店多いって」


 俺は眉根を寄せた。六色か。困ったな。二色でもハードだと思っていたのに六色か。リスクが高いな。それに、よく考えたらこの六色だけとも限らない。他の色、もしくは他のデザインも十分に考えれる。どうしたものか。


「以上でニュースは終わり。んでよ、今お前は何を考えてんだ。このトランプをどうする。教えてくれねえのか」

「ああ」

「あっそ。何だよ。まあ、俺は金を貰えればそれでいい」

「・・・お前、人を雇えるか」

「俺?ワニに言えよ」

「あ、そうか」

「人雇ってどうすんだ」

「イーヤロと戦わせる」

「何色のトランプを使うのか調べるってことか」

「お前もだ。あの店に張ってイーヤロとやった奴から何色を使ったか聞くんだ」

「え、何で。俺もやんのかよ」

「当たり前だ」

「いや、俺、暇じゃねえんだけど」

「俺に雇われてる立場だろ」

「えー、面倒臭え。あ、そうだ、あれ、教えてくれよ。教えてくれたらやるぜ」

「あれって何だ」

「お前、地下から階段を上るとき店の名前呟いてただろ。あれ何で」

「ああ」

「教えてくれよ」

「別に、数字にできるなって思っただけだ」

「数字?」

「『紅ニ染ミ込ム屋』だから、9071243568に変換できる」

「え・・・、あ、本当だ。よく気付いたな。何で気付いたんだ」

「俺も似た様なことを考えてる」

「へー」

「行こう」

「あ、行く?」


 ジョーが座り直してキーを回した。車のエンジンが掛かる。


「俺、腕折れてんだからな。お前が運転してくれたっていいんだぜ」

「・・・」

「全治三ヶ月なのに」


 車が走り出し、駐車場を出た。広い割には車通りのない道を進む。


 こいつ、店の名前が数字になってそこから先は気にならないのか。店名が数字に変換できてそれが何なのか、気にならないのか。・・・まあ、気にならないのか。気にならないのなら仕様がない。


 あのときのゲームの三戦目、俺は完璧に追えていた訳ではないが、恐らく卓に並べられた十枚はイーヤロから見て左上から9071243568になっていた可能性が高い。もしそうならイーヤロはトランプを回収する前から既に自分のペアが幾つできているか分かっていたことになる。


 しかし、その情報に価値はあるのだろうか。一見なさそうだが、もし本当にないのならテキトーにトランプを並べればいい。わざわざそうするということは価値があるのだ、その情報に。どの様にそれを利用するのだろうか。


 ・・・心当たりはある。だが、実現方法が分からない。俺はイーヤロの手許を監視していたが、ポケットからトランプを足したり卓の下にトランプを捨てたりはしてなかった。どうやったのだろうか。


 でも、まあ、イーヤロの方法は分からないが、俺には俺の方法があるから大丈夫だ。俺の方法は、相手にあの二十枚のトランプが一切摺り替えられないのなら、最強だ。完全にペア数を操作できる。イーヤロの方法が分からなくても問題ない。最低でも理屈は分かっている。


 それより重要なのはジョーが雇えるかどうかだ。雇えなかったら何も始まらない。また別の策を立てなければならないが、今のところ別の策の候補はない。だから、ジョーが雇えないとなるとかなり困る。こいつ次第になってしまうが、それは仕方ないことなのだ。


 車が駅に着いた。ジョーが車を停める。


「着いたぞ」


 俺はレジ袋にトランプを入れた。そして、今回の肝を初めてジョーに告げる。


「ジョー、雇ってほしい人が居る」

「ワニに頼むんじゃねえのか」

「いや、それは俺がやる。お前に雇ってほしい人は別に居るんだ」


 俺はできるだけ詳しく必要な人を説明した。それを聞いてジョーは明らかに困惑の表情を浮かべた後、善処を尽くす旨を述べる。


「頼むぞ」

「はあ、分かったよ」


 俺は助手席のドアを開けて車を降りようとした。しかし、ジョーに止められる。


「待て、カイライ」

「何」

「やっぱりだな、難しい、かなり。確かにギャングやってる連中の中には面白いかどうかを基準に動く奴もまあまあ居るが、連中も俺達に構う程暇じゃない。それに、連中は格を気にする。俺みたいなゴロツキの言うことを聞くかな。兎に角、お前の要求する条件を満たす奴を雇える可能性は超低いからな。それを分かっとけよ」

「ああ」

「もし雇えなかったらどうするんだ」

「イーヤロを諦める」

「他に博打を探すのか」

「ああ」


 ジョーは、そうか、と言い、前を向いた。俺は車を降り、ドアを閉める。俺が駅の方へ歩き出すと、車も走り出した。そこで、俺は思い出す、様々な色の油性ペンが必要だということを。トランプも手に入れたし、早速今日から取り掛かりたいので、今から買いに行くか。


(終)

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