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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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3-4.博打の理由

 首がまだ痛い。くそ、多分、正常な可動域を越えたのだろうな、殴られたとき。痛えよ、くそ。


 公園内は家族連れやカップルや大学生のグループがバトミントンやらキャッチボールやらお喋りやら何やかんやしている。俺はそいつらの話題の格好のターゲットだろうな。俺は平和な公園を一人で横断するボロボロの男なのだから。


 あ、居た。カイライだ。トンズラされなくてよかった。カイライはベンチで新聞を広げている。競馬新聞か。鉛筆で何やら書き込んでいるな。


 俺はカイライが座るベンチの反対側の端に座った。カイライは俺を一瞥し、笑う。


「腕を折られたのか」

「笑いごとじゃねえ」

「連中も過激だな」

「いや、実はよ、俺が殴られた弾みで机に腕を叩き付けたんだ」

「ん、事故ってことか」

「そう。腕折ったら勘弁してくれたよ。顔に痣作る前に帰れた」

「ラッキーだったな」

「殴られてる時点でラッキーなんかじゃねえよ。あ、あと、残った金は連中に没収された」

「ああ」

「いいんだよな」

「ああ」

「そんで、お前の方は。上手くいったのか」

「ああ」

「そうか。でも、怪しまれねえかな。俺が騒ぎを起こした直後に勝った訳だろ。繋がってるって思われねえのかな」

「あの後、三十分掛けて百万くらい負けといた。多分、大丈夫だろ」

「へー、まあ、お前が言うならいいか。それでな、頼みがあるんだよ。これ、まだワニに言ってねえんだけど」

「・・・」

「ほら、腕も折れたし、報酬上げてもらえねえかな。片腕使えねえの不便なんだよ。いいだろ」


 俺は思い切って要求してみた。カイライは新聞に視線を下ろしている。この要求は無茶なのだろうか。確かに前もって決めていたことを急に変更するのは都合のいい話だが、俺は腕が折れているのだ、腕を折られたのだからこれくらい聞いてくれたっていいだろう。


「・・・分かった」


 カイライが意外とあっさり認めてくれたので俺は喜んでカイライの方を見た。が、俺達は他人の筈なので直ぐに視線を戻した。


「いいのか」

「ああ。その代わりもう一仕事頼む」

「お、仕事か。いいぜ。何をやんだ」

「一昨日のルーレットと同じことだ。別の賭場でやる」

「え、同じこと」


 俺はカイライの提案を腕を組んで考えようとしたが、片腕をギプスで固められていることを思い出してやめた。同じことをやるのか、いい考えではないかもしれないな。


「それは、やめといた方がいいんじゃねえか」

「何でだ」

「ここらの賭場は大体中ゼミのだからな。俺達の話は回ってると思った方がいい」

「そういうもんなのか」

「俺の聞いた感じだとそうだ」

「誰から聞いたんだ」

「中ゼミの構成員だよ」

「知り合いにギャングが居るのか」

「お前、俺がここらで何年ゴロツキやってると思ってんだよ。友達に何人も居るわ」

「それなのに中ゼミを騙して大丈夫なのか」

「大丈夫だよ。馬鹿なことしたなって言われて笑われるだけだ」

「・・・中ゼミ以外の賭場を知ってるか」

「中ゼミ以外か。東かな。フルズの賭場とか。ここら辺ならエル会の賭場もあるけど、でも、どうだろうな。中ゼミ以外にも噂は広まってんじゃねえのかな」

「お前はルーレットはやめた方がいいって言ってんのか」

「まあな。ルーレット以外がいいと思うぜ」

「・・・」

「デカい勝負をしたいのか」

「ああ」

「今回のルーレットで幾ら儲けたんだ」

「まあ、一千万くらいだ」

「え、そんなに儲けたのか」

「ああ」

「それなのにまだデカい勝負をしたいのか」

「ああ」

「何で」

「弟の手術代だ」

「え、あ、そうなのか」

「・・・」

「・・・結構緊急なのか」

「ああ」

「あー、そうか」


 俺は頭を悩ませた。実は俺はカイライによさそうな博打を紹介できるのだが、薦めていいものだろうか。まあ、カイライに判断を任せればいいか。


「賭場じゃねえんだけど、あるよ」


 カイライの新聞を捲る手が止まった。


「居酒屋とか飲食店とかバーとかで博打をやってるとこがあるんだよ。この近くにも何かコインの表裏とかを予想するバーがあるんだけどよ。そんでな、お前、デカい勝負がしたいんだろ。一応、そういう店を知ってる」

「今は少額の博打に興味はない」

「いや、違うんだよ。そこは特別だ」

「・・・どんなのだ」


 やはりカイライは食い付いた。だが、教えていいのかな。


「鍋の店なんだけどな。多分、エル会のシマだと思う。幾らでも賭けれるらしい」

「一千万でもか」

「多分な。一千万全部賭けんのか、マジかよ」

「どんなことをやるんだ」

「・・・神経衰弱って言ってたと思うけど、違うか。おかしいよな、神経衰弱って」

「見に行こう。今日の夜は空いてるか」

「え、空いてるけど。その前に待て。行かない方がいいかもしれねえよ」

「何でだ」

「エル会は頭おかしい奴の巣窟だって聞いたことがある。その店も危険らしい。お前がもしデカく勝っちまったら危ねえかもしんねえぞ」

「分かった」


 カイライが新聞を俺の方に置き、立ち上がった。そのまま公園の出口へ向かう。あいつ、行く気か。俺の忠告をちゃんと理解したのかな。俺は、まあ、見に行くくらいならいいけど、危なくなったら逃げるからな。あいつは、逃げなさそうだな、危なくなっても。


 俺は新聞を見た。カイライが畳んで偉く俺の近くに置いた物だ。俺が処分しろってことか。面倒だな。


 俺は新聞を手に取った。手応えがおかしい。何か挟まっているぞ。新聞を広げてみると、俺の膝に万札がバサバサと落ちてきた。


「何だよ」


 これ、追加報酬ってことか。沢山の万札だが、普通に渡せよ。公園の人達に見られるだろうが。でも、嬉しいな。久し振りにこれ程の万札が手に入った。


 新聞には落ちなかった万札がまだ挟まっている。そのページを広げてみた。鉛筆で書き込みがされている。場所と時間だ。これ、集合場所と時間のことか。


(終)

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