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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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3-2.俺の名前を知っている

 俺は咥えていたタバコを捨て、踏み潰した。一瞬、ポケットの中で握っているタバコの箱を出してもう一本いこうか、と思ったがそろそろ約束の時間なので控えることにした。


 殴られ屋か。最初は殴られるだけで金を貰えるボロい仕事だと思ったが、殴られるってどれだけ強く殴られるのだろうか。死ぬまで殴られ続ける訳ではないよな。まあ、最悪逃げればいいか。


「ん」

「うおっ」


 路地から突然人が現れた。誰だ。あ、依頼主か。この時間にこの路地裏にたまたま来る奴は居ないだろうから多分依頼主だな。


「あ、あんたか。殴られ屋を探しているのは」

「ジョーか」


 ・・・え、なぜ俺の名前を知っている。あ、そうか、ワニか。ワニが前もってこいつに教えたのだろうな。


「そうだ」

「ワニに何て言われた」

「何って、殴られることとか余計なことを他所にペラペラ喋らないこととか」

「・・・そうか」


 あれ、この声、聞き覚えがある。・・・これ、カイライか、暗くて顔がよく見えないがカイライだよな。薄ら見えるこの何の特徴もない顔、それが逆にカイライの特徴だ。


「お前、カイライか」

「ああ」

「あ、何だ、そうだったのか。早く言えよ。久し振りだな」

「・・・」


 俺は昔の知り合いと会えてテンションが上がっているのだが、カイライはそうではない様だ。まあ、カイライは前からそういう奴だが。


 何だ、俺の依頼主はカイライだったのか。ワニも教えてくれればいいのに、サプライズかよ。・・・え、カイライが殴られ屋を必要としているのか。なぜだ。


「お前、何で殴られ屋なんか、工場で働いてんじゃねえのかよ」

「もう辞めた」

「辞めたのか、マジかよ。いつ?」

「一週間前」

「何やってんだよ、今」

「今は博打に集中している」

「博打?一攫千金狙ってんのか。え、博打?博打に殴られ屋要らなくね」

「ワニが何でお前を俺に押し付けたか分かるか」

「押し付けたって酷えな。多分、あれじゃね、知らない間柄より知り合い同士の方が裏切る可能性が低いって判断したんじゃねえの。大丈夫だ。俺は裏切ったりしねえからよ」

「・・・」


 カイライが黙った。何だ、怒っているのか、カイライは。知り合いであることが嫌なのかもしれないが、知り合いであろうがなかろうがゴロツキなどどいつも同じだ。特別優秀なゴロツキが存在する訳ではない。ないものねだりをするより前に進むべきだ。


「おい、カイライ、仕事だろ。仕事の話をしようぜ」


 カイライは溜め息を吐いてから口を開いた。失礼だな、こいつ。


「お前にはこの近くの賭場の従業員に殴られてもらう。場所は分かるか」

「賭場?分かるよ。あのデカい所だろ」


 カイライが俺に計画を説明した。その計画は単純なもので直ぐに理解できたのだが、それをやってカイライに何の得があるのだろうか。俺は気になる点を質問した。


「それ、やる意味あんのか。お前が儲かんのか」

「ああ」

「その内容は教えてくれねえのか」

「ああ」

「何だよ、教えてくれたっていいじゃねえか。で、あと、俺はその、要はイカサマだろ、イカサマの練習はしなくていいのか」

「しなくていい。簡単だからやればできる」

「そうは言ってもよ、知らねえぜ、上手くいかなくても」

「俺とお前はたまたま居合わせた他人だ。俺のことをじっと見たりするなよ」

「わーってるよ」

「これがお前の軍資金だ。お前が先に行け」


 カイライが俺に封筒を手渡した。随分と分厚い。幾ら入っているのだ。


「働いて貯めた金か」

「いや、ちょっとある店から金を借りてルーレットで増やした」

「まさかギャングから金借りたのか」

「いや、あれはギャングじゃない。一般人だ」

「・・・は。一般人が金貸しやってんのか」

「借りたというか騙し取った」

「おい、お前、話変わって来るぞ。詐欺かよ」

「まあな」

「数百万騙し取ってルーレットか。エグい神経してんな」

「違う、全部で五万だ」

「・・・五万?」

「そんな大金奪ってない」

「ああ、五万か。五万でも駄目なものは駄目だけど・・・五万をこんなに増やしたのか」

「ああ」

「凄えな。儲かるんだな、博打って。確実にそんな少額が大金になるのか」

「いや、確実ではない」

「え、じゃあ、その五万擦っちまってたらどうしてたんだ」

「また借りる」

「ああ、成る程。で、その方法を今からやんのか」

「違う」

「何だ、違うのか。その方法いつか教えてくれ」

「そんなのはいい。賭場に入ったら一番高いルーレットに向かえ。ミニべが三万のヤツだ。間違えるなよ」

「え、三万。今言ってた計画ってそんな高いルーレットでやる予定だったのか」

「早く行け」

「あ、ああ」


 カイライに急かされ、俺は通りへ出た。封筒は後ろポケットに入れる。この封筒、恐らく百万は入っているぞ。一体カイライは幾ら勝つ気なのだろう。そして、一体俺はどれだけ殴られるのだろう。五万プラス治療費を貰えると聞いたが入院させられる程の怪我は困る。そのときは報酬を引き上げる様ワニに要求するか。


 賭場に到着した。ちらほらと入って行く客に紛れ、中に入る。


(終)

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