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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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2-5.親切の理由

 大丈夫かな。不味いことになった。パクられるのは絶対に御免だ。絶対に嫌だ。何とかなったのか、カイライ。まだか。遅いな。


「メーガ、何やってんの」

「バーでサボるのはやめたの?」


 少し路地に入った所でタバコを吸っていた私にスタンドショップの従業員が話し掛けてきた。私は煙を吐いて質問に答える。


「今日は待ち合わせがあるんだ」

「何、男?」

「違え。あ、いや、そうか、あいつは男か」

「彼氏じゃないんだ。店の部屋貸してあげようか」

「違えって。話すだけだよ。トラブルに巻き込まれてな。そいつが助けてくれるかもしれない」

「本当に。じゃあ話が終わったら私に回してよ」

「何でだよ。あ、別にいいのか。分かったよ、言っておく。客は捕まってんのか」

「いいや、平日のど真ん中だから人通りが少ないんだ」

「マジ。商売上がったりだな」

「そうなの。最近、従業員の数も増えたし」

「増えたのか。稼げるって話が広まったのかな」

「稼げないよ、全然。中ゼミに殆ど取られてる。メーガの方が稼いでるでしょ」

「そうでもねえよ。変な客が大量に居てくれりゃあ私の仕事も増えて稼げるかもしれないけど」

「メーガのお陰で変な客減ったよ。客自体の数も減ったけど」

「うへえ、悪かったよ」

「刺し殺したんでしょ」

「殺してはねえ。ただ、やり過ぎた。だから、不味いことになった」

「何、不味いことって」

「パクられるかもしんない」

「え、嘘。何で」

「あ、来た。じゃあな。仕事に戻って」

「え、あ、うん」


 私はタバコを捨て、踏み潰した。向こうから歩いて来るカイライに向かって手招きをする。一応、通りではなく路地で人目に付かない様にしたい。


 カイライが私に気付いた。しかし、走ることなくゆっくりと近付いて来る。私はやきもきしているのに、早く来いよ。


「こっちだ」


 カイライが路地に入って来た。私は早速尋ねる。


「どうだった」

「信じた。あのナイフは俺ので、お宅は俺が落としたナイフをたまたま拾っただけだってことになったから覚えておいてくれ」

「マジか、よし。そんでこれからどうなるって」

「さあな。お宅、逮捕歴ないのか」

「ない」

「それがよかったらしい。正当防衛になる可能性が高いとか言ってたかな」

「じゃあ、パクられることはねえのか」

「刺した後、救急車を呼んだのは誰だ」

「えー、誰だろ。従業員の誰かだ」

「そいつを見付けてお宅が指示したってことにした方がいいかもな」

「ああ、分かった」

「余り警察は捜査したがってなかったし、何というか、テキトーな雰囲気だった。あの感じなら多分大丈夫だろ」

「そうか。で、密告した奴の情報は」

「・・・ん?」

「言ったろ。通報した奴の情報を聞いて来いって。口封じをしなきゃだからな」

「ああ、その、何だ、教えてくれる訳がないだろ、警察が」

「んだよ、聞いて来いよ。まあいい。こっちで探す」

「おい、やめろ。大人しくしてろよ、暫くの間は。余計なことして警察に目を付けられたらどうすんだ」

「ああ、そうか。じゃあ、いいや」

「仲間を助けるのに必死だった非力な女を演じろ」

「そうだな。で、何だ」

「何がだ」

「私に何か用があるんだろ。お前はタマホクの博打に何回だっけ、三回くらい来ただけだ。そんで私を助けるのか。見返り求めなかったら逆にキモいぞ」

「じゃあ単刀直入に聞くがお宅は中ゼミの構成員か」

「・・・は」

「どうなんだ」

「いや、違うけど。バイトみたいなもんだ」

「タマホクの所に居る理由は」

「まあ、外で従業員見守ってても退屈だからな。何かあったら私を呼びに来ればいいし」

「中ゼミの許可は取ってんのか」

「何だよ、説教してえのか。私がバーに居ても問題は起こってねえからいいんだよ」

「それでもタマホクの許可は要るだろ」

「いいんだよ、あんな奴の許可なんてな。店で酒飲んでる訳にもいかねえからタマホクの部屋くらいにしか居れねえんだ。そんで何だ。何の話だ」

「茶椀の中のことは分かるのか」


 カイライが通りの方を見ながら言う。私はその科白でカイライが何を企んでいるかを一瞬で理解した。そういうことか。だから、リスクを負ってでも私に親切したという訳だな。


「分かるよ。でも、百発百中じゃない。七、八割だな」

「そうか」

「別に教えてやってもいいけど、タマホクを嵌めようってのか。あいつ、用心深いぞ。私が金をチョロまかしてないか常にチェックしてるくらいだ。私のこと明らかに信用してねえ」

「あいつの持ち物は」

「持ち物・・・、別に、特別なものはないと思うけど。茶碗、賽子、グラスはバーの物だし、あとは何だ、幾つかのトランプと十両玉の籠と」

「トランプは一つじゃないのか」

「一つじゃない。四つくらい」

「金は。あいつは幾らくらい持って来ている」

「ぴったり百万」

「そうか。いつもトランプを四つ持って来てるのか」

「うん」


 カイライが黙って考えごとを始めた。トランプの個数がそれ程気になるのか。


 でも、言われてもみれば、なぜタマホクはトランプを複数個持って来ているのだろう。ゲームで使うトランプは一つだけ。万が一の予備ならもう一つあればいい。四つも要らないよな。


「何であいつはそんなに沢山持って来てるんだ。そのこと、お前に分かんのか」


 私は思い切ってカイライに聞いてみた。


「さあな」


 はぐらかされた。


「おい、言えよ。言わなきゃ協力しねえぞ」


 カイライは幽かに困った顔をした。だが、観念したのか、直ぐに口を割った。


「はっきりとは分かってないが、仕掛けがあるんだろ、それぞれのトランプに」

「何だよ、仕掛けって」

「調査中だ」

「んだよ」


 結局、カイライも何も分かってないのか。トランプに仕掛けか、でも、そうか、十両玉だけでは駄目なのか。トランプの方も何とかしないとタマホクはあのゲームを自分の好きな様に操作できない。


 ・・・待てよ。そもそも、このカイライはなぜ私が茶碗の中の十両玉のことが分かると知っているのだ。私はこのことを誰にも話していないのに、なぜ。


「なあ、何で私が茶碗の中のことが分かると思ったんだ」

「別に、何となくだ」

「お前、いいから、そういうのは。聞かれたことにはスッと答えりゃいいんだよ」

「分かった。お宅がゲーム中に十両玉のことに全く言及してなかったからだ」

「・・・は、それだけ?」

「十分だろ」

「十分じゃねえよ。そんだけで分かって堪るか」

「客達は何で盛り上がっていた。十両玉とトランプがどうなるかだ。お喋りなお宅が十両玉について何も言わないのはおかしい。トランプについては普通に、赤じゃねえかな、とか言ってたぞ」

「あれ、そうだったの」

「ああ。十両玉のことだけ何も言わなかった」

「あー、そうだったんだ。そっか。いやさ、変に言って皆を惑わすのもあれだし、タマホクにも悪いかなと思って言わない様にしてたんだよ」


 私は自分が十両玉の表裏が分かっていることをバレない様にしようと意識し過ぎて、無意識に十両玉のことを遠ざけようとしていたみたいだ。馬鹿だな。好きな子に意地悪しちゃう心理かよ。


「それで頼みがある」


 カイライが真っ直ぐ私を見て言った。まあ、そりゃあるだろうな、私に頼み。茶碗の中が分かるのはタマホク以外だと私くらいしか居ない。


「何」

「タマホクの十両玉を一枚盗んでくれ」

「え、あ、盗むの。何か、ゲーム中にこっそり教えてくれとかじゃないんだ」

「籠の中に沢山あったからな。まさかタマホクも枚数を管理してはないだろ」

「そうだろうけどさ、タマホクも、中ゼミの構成員って訳じゃないけど、中ゼミの認可の許でやってるから、私が盗んだってチクられたら面倒なんだよな」

「盗まれてることが判明しても仲間であるお宅は疑われない」

「ふざけんな。仲間じゃねえよ。バレたら真っ直ぐに私が疑われてもおかしくねえぞ」

「・・・じゃあ、こうしよう」


 カイライが代替案を提案した。聞いてみると確かにそれなら私にそこまでリスクはないが、それを私がして何なのだろうか。なぜ私がそれをする必要がある。地味に面倒くさい。普段の客だけではなく、タマホクとあのゴツい男のスケジュールも把握しないといけないぞ。


「何だ、タマホクと二人きりになりたいのか」

「いや、そういう訳じゃない」

「ん?ああ、友達呼ぶのか。お前、そんな友達多い奴には見えねえぞ」

「当てがあるから大丈夫だ。俺の稼ぎの三割でやってくれるか」

「あ、金くれるんだ。そんくらいで金くれるんならやるよ。面白そうだしな。スケジュールの報告はどうすればいい」

「電話してくれ。これが番号だ」


 カイライが私に紙切れを渡してきた。用意がいいな。カイライは渡すだけ渡すと何も言わずに去って行く。愛想の悪い男だ。挨拶くらいしてから帰れよ。


 しかし、カイライの指示通りに動くのは別に問題ないが、何をするつもりなのだろうか。何だろう。まあ、いいや。大して労せずに金が貰え・・・、待てよ、あいつが一両も稼げなかったら私が貰える金は零になってしまうではないか。


 ・・・いっか、面白そうだし。


「あれ、メーガ、さっきの男回してくれるんじゃなかったの」


(終)

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