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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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2-3.意味のない行動などない

 大賑わいだ。雰囲気はバーというよりバルの様だが、うるさいな。


 俺はバーテンを見付けるとゲームの席が空いているかを尋ねた。すると、バーテンは、どうぞ、と言い、奥の壁を指差す。


 指差した先では別室に続く扉が開いていた。ここからその別室に居る女が誰かと喋っている様子が見える。その女は四枚の赤いゲームチップを指の間に挟んだり、指の腹の上に乗せたりしていて、随分とチップの扱いに慣れている様だ。俺がその部屋に近付くと女は俺に気付き、声を掛けてきた。


「やんのか」


 俺はその女のぶっきらぼうな口調に少し面食らったが、それを表情に出さないで頷いた。


「おい、一人追加」


 部屋の中に足を踏み入れた。そこには大きな長方形の卓が一つ、長い一辺に男女六人が座り、反対側の一辺に一人の男が座っている。恐らくこの男がタマホクだな。


「お客さん、先ずは換金だ。そしたらそこに座って次のゲームから参加してくれ」


 タマホクが俺に言った。入り口付近に居る女の隣の丸テーブルの上には金やらチップやらが置いてあるので、この女が両替係なのだろう。


 幾ら替えようかな。あのゴツい男がマキべは十万と言っていた。なら二十万、いや、そこまでする必要はないか。


 俺は財布から先程勝った五万のうちの二万を出し、その女に渡した。女は、たった二万かよ、と言ってからそれをチップに換えると、更なる金を要求する。


「あと千両」

「ん、何の金だ」

「換金手数料三百両と私への心付け七百両。次からは心付けは二百両でいい」

「・・・」


 俺は納得できなかったが、揉める様なことでもないので潔く支払った。あのゴツい男、俺はこのゲームについて全て教えろと言ったのに、この千両のとこは言わなかったぞ。


「チップはポケットに入れるな」


 女は俺にチップの入った籠を渡すと、卓の端に座る客との会話を再開した。俺はそれを受け取り、タマホクが手で示す席に着く。さて、気合を入れないとな。


「初めてだよな」


 座るや否やタマホクが話し掛けてくる。


「ああ」

「じゃあ説明しよう」

「俺がするよ。簡単だ、小学生でもできる。十両玉の表裏とトランプの赤黒が一致するかどうかを予想するゲームだ」


 タマホクを遮って説明したのは俺の隣の酔った客だった。馴れ馴れしく俺の肩に手を回してきたので、その手をそっと取り除く。


「先ず、グラスを、こうだ。上に向けるんだ。帰るときはこれを伏せてから帰るんだぞ。んでだな、あの十両玉、おい、ちょっと貸してくれ。これ、裏は普通だけどよ、表はほら、ピカピカだろ。何か薬で磨いたんだってよ。表はピカピカ光ってるから赤って覚えな。裏はくすんでるから黒だ」


 隣の客が十両玉を縦にひっくり返すと反射した光が一瞬だけ目に刺さってきた。それ程表はピカピカに磨かれている。


「十両玉が表だったときにトランプが赤だったら『イッチ』、黒だったら『ソーイ』だ。裏のときは逆だからな。イッチだと思ったら賭け金をグラスの中に入れる。ソーイだと思ったらグラスの外、タマホク側に置くんだ。そんぐらいだな。ドラゴンのときは勝っても四分の一しか払われねえ。逆にドラゴンリセットは四倍払いだ。これでいいよな、全部説明したよな、タマホク」

「ああ。酔っ払ってる割にはできてたな。ただ急にドラゴンって言われても分かんねえだろ」

「あー、そっか」


 タマホクは近くにある賽子とトランプのうち、賽子を指差して俺にドラゴンの説明をした。それは俺があのゴツい男から聞いていた話と同じだった。


「君、名前は」


 隣の客が聞いてきた。


「カイライ」

「カイライ、飲み物は。頼まなきゃ店に悪いぞ」

「バーカウンターまで戻れってのか」

「いや、ここで注文を取れる。何が飲みたいんだ」

「じゃあ、ビール」

「ビールか。おい、メーガ、ビールだ」


 隣の客が両替係の女に言うと、その女は面倒臭そうに部屋を出た。あの女、メーガという名前らしい。


「おい、それ、新しい客が入ったから交換する」


 タマホクが隣の客から十両玉を回収した。そして、卓の下から出した籠にそれを入れ、俺にその籠を突き出す。


「好きな一枚を取って、あの端っこのあいつに渡してくれ。片手でな。しっかり指を開いて」


 その籠には大量の十両玉が入っていた。全て表面がピカピカ光っている。よくこれだけの十両玉を加工したものだ。俺はそのうちの一枚をテキトーに選び、端の客に渡す。


 受け取った客はタマホクに確認を取ると十両玉を回そうとしたが、俺の隣の客が声で制止した。こいつ、よく遮る男だ。俺は早くやりたいのに。


「待て待て。悪いな。この初めてのお客さんに今の状況を説明してやんねえと不公平だろ」


 その男が俺に、端の客と俺以外の客の前にあるトランプを見ろと言った。それぞれのトランプは全て赤だった。


「全部赤だろ。ってことはタマホクが持つトランプには黒が多いってことだ。そんでこれが超貴重な情報なんだが、今日はよく表が出てんだよなあ」


 隣の客は嬉しそうに言った。口振りからするとこれからの勝ちを確信しているのだろう。おめでたい男だ。こういったゲームに絶対などない。


 俺の隣の客が言い終わったのを見て端の客が十両玉を回転させた。十両玉の動きが安定すると、その客が上から茶碗を被せる。これがベット開始の合図だ。それぞれの客がチップをグラスに入れたり外に置いたりし出す。


 隣の客が言うには十両玉が表でトランプが黒のソーイが今回の結果になるらしいが、俺はチップをグラスの中に入れた(イッチに賭けたということだ)。チップをグラスの中に入れるという珍しい賭け方をやってみたかったのだ。


「ええ、違うよ。俺の話聞いてた?」


 うるさい隣の客。俺が信用のない奴の言うことなど聞くか。


「もう皆いいのか。変更しないんだな。おい、ジェイ、今日勝ってる彼女とベットが違うけどいいのか」

「うーん、分かったよ」


 タマホクに唆されたジェイと呼ばれる男はグラスからチップを滑り出した。そして、タマホクがベット終了を宣言すると、手に持っているトランプの一番上を端の客に配る。茶碗の中から音はしない。もう十両玉はどちらかの面を天井に向けて卓に倒れているのだ。


 端の客が茶碗を取り除いた。十両玉は、表だ。


「ほら、表だ」


 俺の隣の客が手を叩いて喜んだ。端の客はトランプの角を少し捲り、自分だけがそのトランプの色を確認する。すると、その客は顔をぴょんと上げ、俺の隣の客に向かって何度か頷いた。隣の客は拍手をし出す。


「来た来た来た来た」


 端の客はトランプを一気に取り上げ、ひっくり返した。その色は、赤、つまり、イッチ。俺の勝ちだ。隣の客が絶叫する。


「はあ、赤かよ」

「へーい、残念だったな」

「ふざけんなよ」

「まあまあ、そういうこともある。因みにリセットな」


 タマホクは自分の近くにある賽子を回転させて5の目を天井に向けると、手早くグラスの外にあるチップを回収し、次にチップの入ったグラスを回収する。それぞれに幾ら入っているかを確認すると、それと同額をグラスに入れ、返す。このタイミングでメーガと呼ばれた女が戻って来た。しかし、手ぶらだ。俺の注文はどうなったのだ。


 俺以外のトランプを持っている客はそれをタマホクの方に滑らせた。端の客はそれに加え、十両玉を置いた茶碗も滑らす。タマホクはトランプを集め、茶碗を反対側の端の客に渡すとこう言った。


「一周したからトランプを混ぜる。誰か、カイライさん、混ぜるか」


 タマホクにトランプを差し出された俺はそれを受け取るしかない。テキトーに混ぜて返す。本当はこのタイミングでトランプにマークが付けられていないか簡単で直ぐに終わるチェックをしたかったのだが、それをやってタマホクに追い出されたらつまらないのでやめた。


 タマホクは他の数人にも混ぜさせてから次のゲームの開始を宣言した。端の客が十両玉を回転させ、茶碗を被せる。


「裏を頼むぞ」

「いいや、どうせ表でしょ」

「分かんねえだろ、そんなん考えても」

「馬鹿野郎、それを考えて実際に当たるから面白いんだろうが」

「よく言う。外しまくってんじゃん」


 茶碗の中で十両玉は静かに回っている。そして、直に回転力が弱まると、ぐわんぐわん、という音を茶碗の中で鳴らし出した。回転力はどんどん弱まっていき、音が、ちゃちゃちゃちゃ、という高い音になって、止まる。


 音が止まるまでにベットを終わらせるのがルールだ。止まった後には賭けれない。俺は今回もチップをグラスに入れた。


「もういいな。よし、確定だ」


 タマホクがトランプを配る。その後に茶碗が取り除かれると、十両玉は裏だった。客がトランプの端を少し捲って自分だけで確認した後、全てをひっくり返す。赤。


「ソーイだ」

「よっしゃー」


 皆が盛り上がる中、タマホクがチップを集め、精算をした。その後、賽子を回転させて4の目を上にする。俺は負けてしまった。


「次行こうぜ」


 十両玉と茶碗が次の番の客に渡った。十両玉が回転され、茶碗が被される。


「どうする」

「私はイッチかな」

「今日はツイてねえからな」


 俺は再びグラスにチップを入れ、その時を待つ。タマホクは先程と同様に皆の予想を確定させてからトランプを配った。


「さあどうだ」


 結果はソーイだ。俺はまた負けた。しかし、それも当然。俺は流れも何も掴めていない。勝つとしたらもう少しゲームを消費してからだ。


 ただ、ゴツい男から話を聞いたときから気になっていることがあった。それはタマホクがトランプを配るタイミングだ。もし俺がタマホクの立場で公正にゲームを進めるのなら、茶碗を被せたタイミングで配る。明確に理由は述べれないが、そのタイミングの方がフェアな印象を与えれる気がする。タマホクがトランプを配るタイミングに何か意味があるのだろうか。


 賽子は3の目を天井に向けている。


 そのときタマホクが動いた。手に持つトランプの上から三分の一程を卓に置き、それと同じくらいの枚数をその上に重ね、最後に手に残ったトランプも重ねたのだ。何も言わずにしれっと勝手にカットした。誰もタマホクの勝手なカットに疑問を抱いてない様だが、俺はかなり気になる。やる意味がないことはやらないものだ。つまり、やるということはやる意味があるのだ、きっと。


(続)

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