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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
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2-1.匿名ダーツ

「まだ殴られた所が痛いわ」

「・・・」

「痛えよ。こうなるなんて聞いてなかった」

「そんなこと言っても、もうこれ以上は一両も払わん」

「何だよ。お前は一発も殴られてねえよな」

「ああ」

「俺だけだ」

「ああ」

「・・・お前、今まで殴られたことある?」

「ない」

「だから分からないんだよ。顔に傷一つないお前はこの痛みを理解してない」

「もう行っていいか」

「何だ、お前は。まあいいや、もう俺はやることねえのか」

「ああ」

「そうか。お前はこれからどうする」

「・・・何も考えてない」

「何も考えてねえのかよ。俺は東に行くぜ」


 ジョーは俺が聞いてもないことを言い出した。本来なら無視するところだが、俺はこれからやることもないし、暇潰しにジョーの話を聞いてやることにする。


「東になんか行ってどうする」

「稼ぐんだよ。博打もいいけど、もっと確実な方法がある」


 俺は呆れた。確実に稼げる方法などある訳がない。いや、あるにはあるのだろうが、こいつの口振りからからは、簡単で確実な方法、というニュアンスを感じる。その様なもの、ない。あるのなら俺もやりたい。


「何だ、その方法って」

「えー、どうしよっかなー。まあいいか。教えてやるよ。でも真似すんなよ。それは、ドラッグだ」

「は」


 俺は更に呆れた。成る程、それは確かに稼げそうだ。しかし、かなり危険だ。


「・・・へえ、頑張れよ」

「お前、今、内心、俺のこと馬鹿にしただろ。俺は本気だ。ツテもある。まあ、末端の売人の仕事だけど結構稼げるってよ」

「ギャングが絡むんじゃないのか」

「大丈夫だよ、危険を冒す気はねえ。路地裏でひっそり売るだけだ。間違っても、ドラッグでのし上がってやる、なんて気は起こさねえよ」


 俺は腰掛けていたガードレールから立ち上がった。もう十分ジョーの話に付き合ってやったからそろそろ行こう。


 ジョーは片手をポケットに入れ、その逆の手だけでハンドルを握っている。いつも片手運転をする奴なのだ。その様な慎重でない男がドラッグに関わって無事でいれるのだろうか。


「もう行くのか」

「ああ、じゃあな」

「あ、おい、カイライ」

「何だ」

「その・・・、聞いていいのかな」


 ジョーが申し訳なさそうに運転席から俺を見上げる。


「お前の、弟のこと」

「ああ、別に、いいけど」

「そうか。どうだったんだ」

「駄目だった」

「え、あ、マジか。それは、残念だな。・・・駄目ってどういうこと?現状維持ってこと?」

「死んだ」

「は、死んだ。あ、そうか」


 気不味いのか、ジョーは俺から視線を外す。俺は全然気にしてないのに、ジョーは俺が気にしてると思っているのか。しかし、ジョーが勘違いしてようがしてまいが俺にはどうでもいい。金は既に渡した。さっさと行くとしよう。


「じゃ」

「あ、ああ、じゃあな」


 俺は車から離れた。ジョーと話すうちに行き先を思い付いたのだ。前にジョーから教えてもらったバー、そこに行こう。


 車は俺が離れて暫くしたら走り去った。恐らく東に向かうのだろう。ドラッグを扱うとは、馬鹿な奴だ。変な連中に目を付けられなければいいのだがな。


 さて、バーか。まだ早いよな。普通のバーなら十九時くらいに開くが、そのバーもそうだろう。どこかで時間を潰すか。


 テキトーに町をふらついていると、俺の前を歩く通行人が左に曲がり階段を下りた。雑居ビルの地下一階に向かったのだ。看板が出てたので何となく見てみると、そこにはダーツバーとの記述がある。


 このダーツバーはもう開店しているのか。なら、少し寄っていこうかな。でも、どうするか。賭けダーツとかに巻き込まれたら・・・。


 俺は例の語呂合わせを思い出した。


(かんやみ)ぜやみ銭(08302)、医師婿な(14657)。皆パーシーに(37842)、黒い救護(96195)。


 20、18、13、10、2。1、4、6、15、17。3、7、8、14、12。19、16、11、9、5。


 14と12だけ例外で、あとはカウントアップかカウントダウン。よし、大丈夫だ。まあ、絡まれることはないだろうが、一応直ぐに思い出せる様にしておこう。


 俺は近くの店でガムテープを購入し、そのダーツバーの扉を開けた。黒を基調とした綺麗な雰囲気のバーだった。入ると直ぐにバーテンが俺を席に案内する。若いバーテンだ。


 店の奥にダーツの的が掛かっているが、グループ客が楽しそうに興じている。余り賭けごとをしている様には見えない。


 テキトーな酒を頼んだ俺はダーツをしている客達を観察しながらぼーっとして時間が経過するのを待っていた。十数分後、奥のダーツで二人組がゲームを終える。それまで、その二人組のことは気にならなかったのだが、ゲーム終了後のある行動が非常に俺の興味を引いた。一方がもう一方に何枚かの紙幣を手渡したのだ。金、つまり、博打、賭けダーツ、やってたのかよ。


 そして、その金の受け渡し中にバーテンが急に俺に話し掛けてきた。今まで俺に目も暮れなかったのに突然どうした。


「どうですか、あちらのお客様と投げられては」


 勝負の提案だった。おいおい、あちらのお客様って、賭けダーツをやるお客様だろ。このバーテンは俺のダーツの実力を知りもしないのに賭けダーツをやれと言っているのか。おかしいだろ。繋がってんのか、あの賭けダーツをしている奴と。


 俺が返答に迷っていると、先程の二人組の金を受け取った方が俺の近くに来て、俺に勝負を受ける様に迫った。近くで見るとゴツい男だ。


「あんた、さっさとやろうぜ。投げる気で来たんだろ」

「・・・いや、いい」

「何でだよ。ああ、さっきの金の受け渡しを見て日和ったか。分かったよ、手加減してやる」

「・・・」

「いいか、この店では必ず一勝負するのが決まりなんだ。見学だけだなんて店に失礼だろうが。手加減してやるっつってんだ。勉強代だと思って黙って俺と勝負しな」


 何だ、こいつ。高圧的だな。ゴロツキか。


 バーテンがこいつの口汚い言葉を看過するところを見ると、やはりこいつらは繋がっていて、こいつの勝ち分の一部がバーテンに行くのだろうな。一人で来た見知らぬ顔の俺は絶好のカモだという訳か。


「お宅、強そうだな」

「そんなことねえよ。あんただってこんな所に一人で来るってことは結構な腕前なんだろ」

「・・・」

「やろうぜ」


 実は俺は最初からやる気だった。しかし、ダーツの実力で言ったらこのゴツい男の方がありそうだ。普通にやったら俺が九分九厘負ける気がする。だから、精一杯抵抗させてもらうぞ。


 俺はガムテープを取り出し、丁度いい大きさに切っていった。


「じゃあ、俺のルールを認めてくれるのならやる」

「は、ルールって何だ」

「的のナンバーをこのガムテープで隠す」

「・・・何でそんなことをする」

「ナンバーが見えてれば、お宅に20のトリプルを入れられまくって俺が負けるに決まってる。実力ではなく運の勝負にしよう。それなら俺に勝機がある。三投を三回の計九投、その合計得点が高い方の勝ちだ。合計点が三百点を上回ったら無条件で負け。もちろん、ブルは無得点だからな」

「・・・あー」


 ゴツい男が目線を下げて考え出した。俺としてはゴツい男の返答がオッケーでも駄目でもどちらでもよかった。俺の方法も確実なものではないし、やってもやらなくてもいい。ただ、こいつは受けるだろうな。これだけ威勢よく絡んできた男が急に慎重になって辞退するとは思えない。


「分かったよ。やってやろうじゃねえか」


 やはり。きたか。


「こっちに来い。矢はあるのか。ねえのなら店のを使え」


 俺はガムテープを作りながらゴツい男に付いて行った。ゴツい男は俺を一番端の的に案内する。俺は的を外してナンバーの部分にガムテープを付けながら賭け金の確認をした。


「幾らの勝負なんだ」

「そうだな、二万はどうだ」

「それが天井か」

「いや、そういう訳では」

「五万はどうだ」

「五万か、まあ、・・・いいだろう。よし、五万だ」


 全てのナンバーにガムテープを付けた。俺はその的を20を上にせずに戻す。さて、上手くいくかな。


「ブルに近い方が先攻にするか」

「ああ」


 ゴツい男は意気揚々とスローラインに立つと直ぐに狙いを定め、矢を投げた。その矢はアウターブルに突き刺さる。こいつ、一発で・・・。見た目に反して器用な男だ。しかし、こいつ、先攻をやりたいのか。通常の発想なら様子見のため後攻をやりたがりそうなものだが。


 もちろん俺は後攻めになり、ゴツい男の一回目が始まった。どこにどのナンバーがあるか分からないのに大して考えもせず連続して三投する。まあ、考えても無駄だと判断したのだろう。


 ゴツい男の矢は一本を除いてトリプルに突き刺さった。外れた一本もトリプルに近い。これ、殆ど思い通りの所に刺さったのではないか。かなり上手いぞ、こいつ。


 しかも、上限三百点という縛りを設けたのに容赦なくトリプルを狙いやがる。攻撃的だな。上限など眼中にない様だ。くそ、余りトリプルを狙ってほしくないのだが。


 そのうえ、狙ってやっているかどうかは分からないが、三本とも隣り合わないトリプルを目指している。連続したトリプルならば確実に一本か二本は二桁得点になる一方で、別々の場所ならば全て一桁の可能性もあるがそれと同時に全て二桁の可能性もある。この男は後者の可能性に賭けたのだ。


 俺は近くの客に矢が刺さった記録としてそのナンバー部分のガムテープに油性ペンで印を付けてもらった。ダーツのナンバーはプリントではなく出っ張っているので触ると分かってしまうから勝負と関係のない者に頼んだ。


 俺の番だ。俺はじっくりと時間を使ってトリプルに狙いを澄まし、矢を放物線に乗せた。しかし、矢はシングルに刺さる、それも三本とも。くそ、調子悪いな。


 俺の矢を取り除いて次のゴツい男の番、今度は三本ともゴツい男の矢がトリプルに刺さった。凄い。さすがだな。ちょっと、不味いか。これ程上手いのは予想外だ。


「よっしゃ。あんたの番だぜ。あんた、やばいんじゃないか」


 俺の番、トリプルに狙いを澄まして、やはり三本ともシングル。本当に調子が悪いな。おかしいぞ。だが、一回目よりは狙いに近い。次こそはいける、と思う。


 ゴツい男の最後の番だ。今までトリプルをヒットさせ続けたので今回はダブルくらいに収めるのかなとも思ったが、ゴツい男は強気にトリプルを狙った。二本がトリプル、一本がシングル、これもほぼ狙い通りなのだろう。


「はん、次のあんたで最後だ」


 さて、俺の最後の番だ。きつかった。何がきつかったって頭の中で二桁の計算をしないといけないのが本当にきつかった。どこにどのナンバーがあるかをこっそり覚えておくのはそこまで苦ではないが、計算が本当に辛い。その辛い計算を頑張ってした結果、俺とゴツい男の間には九十九点という差があるということを導き出せた。


 九十九点か、まあまあな差を付けられたな。ゴツい男の実力は兎も角、自分の実力は正直誤算だった。ここまでトリプルを外すとは。ゴツい男の運が悪いお陰で差が致命的なまでに開かずに済んだが、九十九点、今の俺の実力では厳しいかもしれない。


(続)

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