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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
106/146

1-6.裏切った

 俺はこの勝負は楽勝だと思っていた。Bクラスの犬相手にネイサンが負ける訳がない。落ちている金を拾う様な勝負だ。だが、相手が傷の男となると話が変わってくる。何かが絶対に起こるぞ。


 今回の勝負の賭け金は失って平気な額ではない。法律が変わったばかりだからギャングは今、苦しい状況にあるのだ。とても失えない。何としても傷の男の勝ちを阻止しなければならないのだ。


 傷の男がしそうなこと、何だろう、分からない。しかし、その逆のしなさそうなことは分かる。観客席から何か投げたり、スーツケース持って逃げたり、そういった雑なことはしない。バレない様に何かを仕掛ける筈だ。そう考えると、ここで客を監視しても余り意味はないのかもしれない。他の舎弟も監視していることだし、俺は居なくても大丈夫か。取り敢えず下に行こう。


 俺は観客席を後にし、コースへ向かった。その途中、犬舎を横切るのだが、念のために中を見る。奥の方から順にクラスの高い犬の部屋があるので、奥の方の一つの部屋と中央辺りの六つの部屋がない。レースの六頭と逃げた一頭、問題はない様だ。


 一応、空の部屋に何か変な物がないか調べようとしたら、ベルが鳴り出した。あ、ヤベ、レースが始まる。


 俺は慌てて犬舎を出た。出た所からゲートが見えるのだが、俺が出た瞬間に丁度そのゲートが開き、犬達が一斉に飛び出す、一つのゲートを覗いて。


 何だ、一つだけゲートが途中で止まったぞ。犬が何とかゲートの下を潜ろうとしたことによって、ゲートが急に開き切ったのだが、その犬、ゼッケンが白だった。ネイサンだ。ネイサンのスタートが妨害されてしまったのか。くそ、やられた。これは偶然起きたことだろうか。いや、傷の男の仕業に違いない。


 俺はコースに駆け寄って犬達の順位の確認に急いだのだが、それより気になる人物が目に入った。メーガがなぜかゲートの前に走り、何かを拾ったのだ。そして、メーガはそのままコースの反対側の方へ歩いて行った。


 今、何をした、あいつは。やはりメーガは怪しい。あいつは何かやっているぞ。関係あるのか、今日の勝負と。メーガは中ゼミサイドの人間ではないのか。何を拾ったのか気になる。それで全てが分かる様な気がする。


 一周した犬達が俺の目の前でゴールした。ネイサンは二位だった。一位はゼッケン黒のブランドン、傷の男の勝ちだ。ゴミが、負けるとは。あのネイサンが負けるとは。


 いや、重要なのはゲートがおかしかったことだ。ネイサンのだけちゃんと開かなかった。傷の男が何か細工をしたに違いない。誰かが弄る前に押さえてやる。


 俺はコース外に移動したゲートの許に駆け寄った。そして、近くの構成員を呼ぶ。


「検証するぞ。セッティングしろ」


 その構成員はテキパキと動き、ゲートをスタート直前の状態にした。あとは犬を入れればレースできる。


「ゲートを開けろ」


 構成員が何かしらの操作をすると、ガシャーンという乾いた音とともにゲートが開いた。それも、全て。全てのゲートが一斉に開いたのだ。先程と違い、正常に作動している。傷の男が何かをしたのではないのか。


「おい、どういうことか分かるか」

「い、いえ、何が起きたのか、もしかすると一時的なトラブルがたまたま起きたのかもしれません」

「そういうことはよくあるのか」

「・・・今まで一度もない筈です」


 俺は目頭を揉んだ。今まで一度もなかったことが今回のレースで起きたのか。嘘だろ。その様な訳がない。傷の男がやったのだ。しかし、もう既にゲートが正常に作動しているから、これに関して傷の男を追求することはできない、のか。


 ゴミが、どうする。業者を呼ぶか。それで何か出てくるまで傷の男を捕まえるか。いや、その様なことをしても何も出ない気がする。業者が必要なレベルの細工を傷の男ができる訳がないのだ。なぜならここはモルヒロとメーガがずっと、あ、メーガ、メーガだ。メーガが何かを拾ったのだった。あれが何か関係するのかもしれない。


「メーガはどこだ」

「え」

「メーガだよ」

「あ、第一レースの犬を回収してたんで、第二レースの犬の準備をしているんじゃないですかね」


 犬の準備、犬舎か。あいつ、問い詰めてやる。


 俺は犬舎に向かった。先程まで居た構成員の数が少なくなっている。重要な第一レースが終わったので犬の捜索に行ったのだろう。モルヒロはまだ帰って来てない様だ。


 犬舎に入ると、やはりメーガが居た。俺はメーガにズンズン詰め寄る。


「おい、どういうことなんだ、さっきのゲートは」

「え、何ですか」

「さっきのゲートは何だって聞いてんだよ。何をしたんだ、お前は」

「え、何もしてないですよ」

「何か拾っただろうがよ、犬達がスタートした後によ」

「え、ああ、あれは石を避けただけです」

「は、んな訳あるか。てめえ、ゴミが、ポケットの中全部出せ」

「え、何も入ってないですよ、ほら」


 メーガはポケットの内袋を引っ張り出して空であることを示した。何だと、空なのか。しかし、納得できない俺はメーガの上着のポケットを上から触って調べる。だが、メーガは、触んな、と言い、俺の手を払った。


 上着に何かあるに違いない、と俺は一瞬思ったが、致命的な証拠をいつまでも持っておく馬鹿は居ない。とっくにどこかに隠しているに決まっている。この犬舎のどこかか。


 俺はメーガを放っておき、犬舎の中で物を隠せそうな所を調べた。とはいえ、何を探せばいいのか分からないので、この探索が正しいのかも判断できない。一方のメーガは俺を放って第二レースの準備に戻っている。余裕だな。それともそういうハッタリか。


 ・・・無駄だな。きっと俺は何も見付けれない。一度頭を冷やそう。


 俺は黙って犬舎を出て先程の喫煙所でタバコを吸った。もちろん自分のだ。血が付いていた甘い方ではない。頭を空にして煙を噴き出す。


 ・・・・・・・・・。


 ・・・・・・。


 ・・・。


 そうだ、鉄砲だ。メーガの車から没収して調べてなかった。何か分かるかもしれない。


 俺は辺りを見渡してから壁を向いた。鉄砲を持っているところを堅気に見られて通報されたら面倒だ。俺は人目を気にしながら鉄砲を取り出した。


 これはよくあるタイプのマワシだ。国内ではこのタイプしか出回ってない筈、だからメーガもこれを持っているのだろう。どこにも血は付いてない。そこで掛金を引いてみると、手にその感触を残しながら弾倉がゴロッと転がり出た。


 ・・・おいおい、これは。これは不味くないか。これは駄目だ。こいつ、もう俺は全くメーガを信じれない。メーガは今回の勝負で傷の男を勝たせるためにモルヒロを殺した。絶対にそうな気がする。メーガは怪し過ぎるのだ。これは怪しい。


 なぜなら、弾倉にはマメが四発しか込められてない。つまり、二発足りない。どこで使った。今日までにどこか他所で使って今日まで一切装填しなかったのか。その様な訳あるか。


 俺は目頭を揉んだ。どうやらモルヒロは死んだという前提で動いた方がよさそうだ。しかし、モルヒロもザコではない。なぜメーガに遅れを取ったのだろう。まあ、兎に角、モルヒロはメーガに殺されたとしよう。


 メーガはモルヒロを殺し、昨日からずっとここに居る。なら、モルヒロの死体もここにある可能性が高い。探そう、死体を。それを契機に傷の男の細工を突き止める。それで勝負は無効になるという訳だ。メーガは殺す。あ、傷の男は帰ったのかな。まあいい。突き止めるぞ。


 俺は先ず会場の外を探した。会場の中は人通りが多くて死体が見付かるリスクが高い。きっと外だ。急ぎめで会場の外をぐるっと回ってみたが、ちょっとした茂みくらいだ、死体を隠せそうなのは(もちろんその茂みの中も調べた)。死体を流せる川でもあるのかなと思ったのだがないし、会場の外ではないのか。


 今度は会場の中に戻って調べることにした。他人に見られたら不味いものは自分の近くにある方が逆に安心するのかもしれない。


 会場の中、・・・あ、そういえば、物置きを一度も調べてない。・・・いや、バレバレ過ぎだろ。死体を物置きに隠すかよ。まあいいや、一応見ておくか。


 物置きは犬舎の横、辺りにメーガは居ない。絶好のチャンスだ。俺は堂々と物置きに入った。物置きの中は物置き特有のカビの匂い、カビの匂いか、これ。変な匂いだ。


 さて、死体があったらもう探さなくて済むから楽なのだがな。でも、まさかないだろう。


 そう思って中を見渡すと、角にブルーシートの膨らみを見付けた。何だ、あの膨らみは。何か不自然だ。ブルーシートは餌か何かの大きな袋で不自然に押さえられている。


 ・・・え、嘘だろ。まさか、何か、匂わねえか、ブルーシートの方から。・・・確認しない訳にもいかねえよな。


 ふう。俺は息を吐いた。ブルーシートに近付く。これを取れば分かる、何が隠されてあるのか。よし、取ってやろう。


 俺は恐る恐る手を伸ばした。ゆっくりと近付く。俺はなぜか息を止めていた。指先がブルーシートに触れると、その瞬間にけたたましいベルの音が突然炸裂した。俺は驚いて手を引っ込める。くそ、何だよ、ゴミが。タイミング悪いな、畜生。


 俺の呼吸が少し荒くなった。第二レースの開始のベルだ。そうか、第二レースが始まるからメーガが居なかったのか。


 もういい、一気にいこう。ゆっくりやる意味がないからな。ばっとブルーシートを捲ってやろう。


 俺は一気にブルーシートに近付き、両手で捲り上げた。その下にあるものを見て、俺は目を丸くする。何だよ、これ。


 はあ、やられたな。やられたよ。本当に何やってんだ、モルヒロは。こんなとこで犬と一緒に死んでんじゃねえよ。何やってんだ。メーガなんかに殺されてどうすんだよ。舎弟どもに示しが付かねえじゃねえか、ゴミが。


 俺はブルーシートを離した。すると、ブルーシートは自然と死体を隠す様に広がる。すっぽり隠しやがってよ。俺は眼鏡を外して目頭を揉んだのだが、怒りで眼鏡を握り潰してしまった。


 あ、やっちまった。まあ、なくても見えるけどな。


 くそ、メーガ、舐めやがって。俺を虚仮にしてくれたな。どういうつもりだったんだ。第二レースが終わったら昼休憩になるから、その隙に逃げようってか。いい計画じゃねえか、俺達を裏切るだなんて。ポイントナインから金も貰えるだろうしな、俺達から奪った金だけどよ。いい計画だ。それじゃあ、バラバラにして犬どもに食わせてやろうか。俺はお前を殺したくて殺したくて仕方ねえ。


 俺は自分のグラブを嵌めた。メーガの鉄砲は使えなくて邪魔なだけなのでここに置いて行く。楽しみだな、メーガ。お前はどんな顔でどんな言い訳をするのかな。


(終)

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