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傀儡の博奕打ち 〜天才ギャンブラーと女戦士によるギャングの壊滅〜  作者: 闇柳不幽
(零または肆)最愛の友人
105/146

1-5.対戦相手は・・・

 バタバタしているな。何があった。俺が来たのに誰も挨拶に来ないとは相当な事態だ。俺は近くの構成員に声を掛けた。


「おい」

「あ、ニシカ兄、お疲れ様です」

「皆何やってんだ」

「昨日の夜、犬が一頭逃げたんですよ。探してるんです」


 犬が逃げた、だと。別に大した問題ではないと思うが、まあ、探さない訳にもいかないか。


「ニシカ兄も手が空いているのなら探すの手伝って下さい」

「え、俺も」

「はい」

「いい、俺は」

「いや、犬が逃げたんですよ」

「聞いたよ」

「どうするんですか、犬が通行人に噛み付きでもしたら」

「・・・ああ、そうか」

「こんなタイミングで問題起こしたら、何かしら口実付けてこのドッグレースまでも国に押さえられるかもしれません」

「分かったよ、探す」

「ありがとうございます。じゃ、俺、行きますんで」


 そう言って構成員は走り去った。俺は約束をしたが探す気はない。俺だって暇ではないのだ。今日のドッグレースを守る様に親父から言われている。モルヒロと・・・ん?


 モルヒロはどこだ。


 考えてみれば、モルヒロは昨日もずっと犬舎を見張っていた筈だが、なぜ逃げられたのだ。もしかしてモルヒロが犬を逃したのか。全く、何やっているのだ。今日だぞ、勝負の日は。面倒起こすなよ。よりによって昨日犬を逃がすか。


 ・・・何があったのか一応把握しておいた方がいいかもな。でも、モルヒロが見当たらない。ん、メーガが居る。そうだ、メーガが犬の世話をしているのだった。メーガなら何か知っている筈だ。


 俺がメーガに近付くと、メーガは俺に気付き、明らかに気不味そうに顔を逸らした。気になる反応だ。俺と話したくない事情でもあるのか。俺は容赦なくメーガに接近する。


「おい」

「・・・お疲れ様です」

「何があった」

「すいません、逃がしてしまいました」

「お前が逃がしたのか」

「いや、モルヒロさんです」

「モルヒロが?」

「ええ」

「・・・」

「・・・」

「どうしてだ」

「夜の散歩でモルヒロさんが逃したんです」

「散歩とかの世話はお前の仕事じゃないのか」

「そうですけど、モルヒロさんがやると言い出しまして。私としてもあのデカい犬達の散歩は大変なのでお願いしたんです」

「モルヒロが言い出したのか」

「ええ」


 俺は訝しんだ。あのパワハラのモルヒロがメーガを思い遣って散歩を代わるかな。もしかするとモルヒロは実は犬好きで寧ろ散歩したいと思っていた可能性もある。だが、犬好きだと聞いたことは全くない。


「そんで、モルヒロはどこだ」

「探しに行ってます」

「いつ帰って来る」

「さあ」

「いつから探してんだ」

「昨日、逃したときからです」

「ずっと探しに行ってんのか」

「はい」

「一度も帰って来てねえのか」

「そりゃ逃がしたのはモルヒロさんですからね」

「・・・お前は何やってんだよ。探さねえのか」

「さっきまで探してましたよ。今帰って来たんです」

「お前も昨日から探してんのか」

「当たり前じゃないですか」

「徹夜でか」

「・・・一度、車で仮眠取りましたけど、それくらいです」

「モルヒロは寝ずに探してんのにお前は休んでんのかよ」

「逃がしたのはモルヒロさんですよ。あの人のせいで探す羽目になったんです」

「てめえ、生意気言ってんじゃねえぞ。お前の方が根詰めて探すべきだろ。立場分かってんのか」

「分かってますよ。探します。でも今日はもう無理ですよ。レースの準備があるんですから、仕様がないでしょ」


 こいつ、メーガ、生意気な野郎だ。直ぐ反発してきやがる。誰かが上に立って礼儀を叩き込むべきだ。しかし、こいつは正式な中ゼミの構成員ではなく、昔からよく使っているゴロツキに過ぎないので教育する者が居ない。だから、放っておくしかないのだ、幾ら無礼だとしても。


「モルヒロを呼んで来い。仕事がある」

「どこに居るか知りません」

「は、行方不明なのか」

「違、その、会った、四時くらいに。まだ探すって言っててどこを探すとまでは聞いてません」

「どこで会った」

「あの、交差点、あるじゃないですか、山に続く」

「山ん中探しに行ったのか」

「え、あ、まあ」

「車でか」

「はい、あ、いや、歩きで」

「そうか、分かった。もういい」


 俺はうんざりした。別に俺と舎弟達だけでもできない訳ではないが、何せ大金の賭かった勝負だ。想定外のことが起こる可能性がある。何かがあったときのために使える奴は多い方がいいのだが、一応他の奴らにもモルヒロのことを聞いてみよう。


 しかし、聞き込みの結果、そもそも昨日の夜から今に至るまでモルヒロの姿を見掛けてすらない者ばかりで、何の情報も得れなかった。モルヒロの車は駐車場にある。モルヒロはずっと足で探しているのか。随分と頑張るな。犬を逃がした責任を強く感じている様だ。なら、もうこれ以上モルヒロを探しても仕方ない。俺達だけで何とかするか。


 開場の時間だ。ネイサンが走るのは第一レースなので今から警戒をしないと。入場客に目を光らせる様舎弟達に伝え、俺はコースの様子を見に行った。


 コースにデカい石とか落とし穴とか何か作為的な物がないか調べる。一周調べたが何もなさそうだ。最後にゲートの前を調べる。ぱっと見、何も、ん、何だ、あれ。ゲートの前に白いシナシナの棒がある。拾い上げてみるとそれはタバコだった。なぜタバコがこの様な所に。誰かが吸ったのか。いつ吸ったのだろう。メーガが掃除をしている筈だからここ数時間以内の物だ。


 俺は何の気なしにタバコをひっくり返してみた。すると、巻紙の中央に小さな赤い点を発見した。何だ、これは。なぜ赤い点が。赤、インクか。ここにインクが落ちたのか、血かもしれないが。


 ・・・これ、血だ。この赤黒い感じ、血に間違いない。しかし、血がこの様に小さな点で付くか。付くとしたらもっと大きな点になる気がする。どの様な状況でこの血は付いたのだ。


 俺は辺りを見回した。血は見受けられない。なら、気にすることでもないか。いや、今日は大勝負の日だ。少しでも気になることはしっかり追求しよう。


 コースから駐車場の間にある広場には喫煙所がある。俺はそこに向かい、先程拾ったタバコを、本当は嫌だが、火を付けて吸ってみた。一吸いで直ぐに変わった味に気付く。何か、甘いな、俺の好み、というか男の好みではない。


 ・・・メーガのか。しかし、メーガではない筈だ。自分で掃除する所にゴミを捨てたりしないだろう。しかし、メーガについて気になることがある。


「車でか」

「はい、あ、いや、歩きで」


 先程の会話で一度車を肯定したことが気になる。モルヒロの車は駐車場にあったから歩きで探しに行ったのは間違いない。なぜ一度肯定、つまり、勘違いか言い間違えをしたのだ。実際にその目で見たのならその様なことは起きない様な気がする。


 どうやらもう一度メーガと話をする必要がありそうだ。メーガはレースの準備をすると言っていた。ということは犬舎に居るな。


 俺は犬舎に向かった。犬舎に入ると、数人の構成員とメーガが居る。構成員達はネイサンを守っている様だ。聞くところによると、数分前に親父がネイサンの様子を見に来たらしい。俺も後で挨拶に行かないといけないな。


 メーガは部屋から犬を出しているところだった。俺はそれを遮り、犬を一旦部屋に戻す様に言った。メーガは俺の言葉に大人しく従い、犬を戻した。俺は話を切り出す。


「昨日、モルヒロが犬を探しに行くとき、お前に何か言ったか」

「いや、特には」

「お前も探しに行ったんだよな」

「はい」

「そんで車で仮眠したんだっけか」

「そうですけど」

「お前の車の中を見せてくれ」

「・・・」


 メーガは黙って振り返った。そして、駐車場に向かって進み出す。了承したということだな。


 駐車場は先程より車が多くなっている。第一レースの開始まであと数十分あるので、これからもっと多くなるだろう。


 メーガが青い車の鍵を開けた。これは間違いなくメーガの車だ。何度か見たことがある。リアシートには何もないし、運転席や助手席にもこれといった物はない。そこでグローブボックスを開けてみた。幾つか物が入っているが、気になる物があるな。何だ、これは。


「おい、これはどういうことか説明しろ」


 メーガがグローブボックスを覗き込む。そして、俺に顔を向けた。


「どれのことですか」

「これだよ。何で鉄砲持ってんだ、お前」


 俺は鉄砲を指差し語気を強める。それに対し、メーガは何ともなさそうな色で言い返した。


「何でって、モルヒロさんに持って来いって言われたから」

「モルヒロが?どういう理由で持って来いっつったんだ」

「さあ、聞いてないけど。誰かが襲いに来る可能性があるからじゃないですか」

「仕事で使うってことだよな。本部に申請はしたか」

「さあ」

「何だ、さあって」

「知らないんです。モルヒロさんに聞いて下さい。あの人がやったんじゃないんですか」

「お前はしてねえんだな」

「私はしてないです」

「この割り箸は」

「それは、弁当に付いてないときがあるじゃないですか、だからいつも車に置いてるんです」

「これは、紙やすりだな。何である」

「ああ、それは、・・・前の男のです。日曜大工をやる奴だったんで。私も捨てようと思って忘れてました」


 メーガの返答はそこまで怪しいものではないが、俺は躱されている様な気がした。こいつ、もしかして本当に・・・。


「申請してないなら鉄砲は没収だ。いいな」


 そのときメーガが反応した。俺の手を止めようとしたのだ。しかし、メーガは寸前で手を引っ込めた。


「それ、一つしかないんで。後で返してくれますよね」

「・・・今日の終わりに返す」


 メーガは今、焦ったのか。この鉄砲、何かあるのか。何の変哲もない見た目だが、メーガは調べてほしくないと思っているのか。


「トランクを開けてくれ」


 俺は車の後ろに回って言った。


「・・・」

「開けろ」


 メーガがトランクオープナーのレバーを引いた。トランクが開くと、そこにはサンシェードがあるくらいだった。それ以外に大した物はない。俺はトランクを閉め、メーガに仕事に戻る様に伝えた。車の鍵をして犬舎に戻るメーガの後ろ姿に安心した色はない。


 結局、どうだったのだろうか。メーガは怪しいのか。分からないな。俺は眼鏡を外し、目頭を揉む。その際、モルヒロの車が目に入ったので、序でに調べることにした。


 リアシートの窓にはスモークが掛かっている。俺は窓に張り付いて中を覗いてみたが何もない。トランクの窓にも張り付いたが何も見付けれない。・・・何もないのか。


 俺は考え過ぎていたのかもしれないな。もう時間だし、これからの勝負に集中することにしよう。俺は会場の入り口に居る舎弟にこれ以上客を入れない様に指示して観客席に向かったが、その途中、犬舎の横の物置きから水を入れる容器を運ぶメーガを見掛けた。


 観客席に到着し、親父に一言挨拶すると、観客席の監視を始める。もしかすると観客の中にレースを妨害する者、もしくはスーツケースを奪おうとする者が居るかもしれない。


「・・・うーん」


 先程親父に挨拶したとき、敵の代打ちの後ろ姿が見えたのだが、まさか、あれ、傷の男ではないよな。後ろ姿が似ていたが、本当に傷の男か。聞いてないぞ、相手は傷の男だったのか。


(続)

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