第十八話 兵士の意志
謝罪。
静かな空気に流れる音は風に揺らめく木々のかすれる音のみ。
あたりは血の匂いに満ち、白仙自身、白と青を基調にした巫女服には赤色が至る所に染み付いていた。
白仙が切り落とした首。その顔に映る表情はただ無表情。苦しさも現れていない、ただまじめに生きていた人の顔をしていた。
「奴の名は影の骸」
突然、突き刺した刀を抜いた白仙がそんなことをつぶやく。
「数百年ほど前。奴は別の場所で発見された。その際の被害は死傷者十数万。首都と周辺地域が壊滅となった」
「しゅ、首都壊滅?」
アルギが自身の国のことを思い浮かべて身をこわばらせる。
「首都壊滅なんて・・・。どうやったらそんなことをできるんだい?」
「奴が人ならざるものなら簡単であろう? 例えば神であったとするなら。ば」
「か・・・み?」
アルギに神という単語には思う節があった。
それも最も慣れ親しんだ土地の中で。
「とりあえず、この話はよそう。こやつを供養せんくてはな」
「ああ。こいつの墓はもうある」
そういったアルギは木陰で隠れて瀕死の兵士を治療していたフェルムに何かを伝える。
「隊長・・・。ほんとにこんなところでいいんですか?」
「ああ。彼が望むのは最後となった土地。そこが安置ならば努力した結果だ。そこが戦場であるならば自身の非力さ。ならば悔やんでそこに留まり、打ち勝つまでやる。というのが彼の遺書の一文だ」
「遺書・・・?」
「ああ、うちの隊はこうやっていつ死ぬか分からない。だから、先に入隊時に死んだ際の墓をどこにするか記してもらうんだ。普通は思い出の地や先祖の墓。または家族に委ねるとか。彼の場合は孤児でな・・・」
「なるほど。それで死んだ地に?」
「そういうことだな。だからここに穴を掘って埋めてやる。なにやら死んでもなお戦おうと遺書に書いてあったから武具は置いといて予定だが。何かあるか?」
「そないなこと我に聞くでない。遺書を賜っておるのはお主じゃろう? しからばその遺書を尊重してやるのが・・・。ふっ、勝手にしよれ。我はキャンプに先に戻る」
踵を返した時、ちょうどフェルムが戻ってきた。
手にしていたのは銀色のスコップ。どうやら本当にここを墓にするらしい。
「白仙。彼を殺したのはあなたなの?」
すれ違いざまフェルムは冷めきった声で白仙に耳打ちする。
「見ていたことが真実である。フェルム。主は何という答えを求め我に今質問した?」
「答えなんかないわよ」
「ならば我は肯定も否定せん。理不尽さなど・・・クソくらえ」
フェルムの耳に聞こえたのは白仙が理不尽といったところまで。その先で白仙が何と言っていたのかは分からなかったが、フェルムは白仙の片鱗しか知らないのだと悟った。
一足先にキャンプに戻った白仙はぎりぎり焚き火の光があたる木に寄りかかり、木々の間から見える夜空を見上げ、独り言をつぶやいた。
「桃はどうしておるのかの」
ホームシックと似通った気持ちが出てくる。
今まで二百年近く寝食を共にしていた者がいなくなると寂しさを感じるようになる。
少しして暗がりの中からアルギ、ミユウ、フェルムの三人が現れる。
「白仙。少しいいか?」
いつの間にやら移動していたアルギが木を挟んで問いかけてくる。
周囲には聞こえないような声。しかしその中には固い芯のある声。
「なにようか? 先の話ならする気は毛頭ない」
「違う。なあ、俺はお前に感謝している・・・」
待たせた上に短くてすいませんでした!
次回投稿は水曜日前後を目途に・・・。




