第二章4 懸念
椎名の部屋へ俺は向かっていた。
道中、俺は椎名と何を話すか考えていた。一度嫌われた以上部屋に入った瞬間は気まずい雰囲気になることは予想していた。しかし借りがある以上そんな態度はとれないと踏んだ。そこを狙って俺は椎名の部屋に入ることを決心したのだ。ついでに、椎名から見た俺の部屋がどうなっているかも確認したかったからな。
そんなことを思っていると椎名の部屋の前に到着した。椎名のお母さんが
「りなー。鷲崎君がお見舞いに来てくれたよ。」
ドアをノックしたのと同時に問いかけた。部屋の中でゴソゴソという音が聞こえた。
恐らく部屋をかたづけているのだろうと思ったとき
「は、はいって、いいよ。」
照れたような声で俺を呼んだ。俺は
「入るぞー。」
すると椎名のお母さんが
「じゃあ、二人でゆっくりしていってね。」
と言葉を残して一階へ降りて行った。
椎名の部屋に入った俺は部屋を見まわした。女の子らしいかわいい部屋だった。ピンクを基調とした部屋だった。机には教科書から、よくわからないラノベではない本が数十冊いや、数百冊置いてあった。
俺が見まわしていると椎名のほうから、
「で、な、なな、何しに…来たの?」
本題を忘れていた俺は手をたたいて、椎名に今日学校で配布されたプリントを渡した。
「あ、あ…ありがとう。」
そう言っている当の本人は掛け布団をチラッと端だけ持ち上げて、顔を僅かにのぞかせている。
俺は思い切って大きな行動に出た。
「な、なぁ。椎名。」
「え…///な、なに?」
「あのですねーそのですねーなんといいますかー私は椎名さんのー」
椎名の表情が明らかに変わった。
「なに。端的にわかりやすく言って。」
「は、はい。えっと、あの。椎名さんと、れ、れ…連絡先をここ交換したくて………」
(言ってしまったー。さすがにこの手段は横暴すぎたか。いくら歌詞があるからって無理だよな。)椎名は照れくさそうに
「わ……私とれ、れ…連絡先を交換して何かいいことあるの?」
「え、ちょ。あ。えっとー今日みたいにー急に椎名の部屋に行くのは悪いと思うしいちいち家に行くのもどうかと思って。」
「そ、そう。じゃ……じゃあい…い…よ………」
俺は椎名の連絡先を入手することに成功してしまったのだ。最後に俺は椎名の部屋からどんなふうに俺の部屋が見えているのかだけ確認した。(どれどれ。えーとここからだと、って、ほぼ全部丸見えじゃねぇかよ。)俺と椎名の部屋は、少し椎名の部屋のほうが高く俺の部屋からでは椎名の部屋が見えないが、椎名の部屋からは俺の部屋がすべて見えてしまっていたのだ。(あんなことやこんなこと、もしかしたら椎名にすべて見られてしまっていたのかもしれない。)
「ね、ねぇ。さっきから…なにしてるの?」
ビクッとした。その場しのぎの嘘をついた。
「えっとースマホに椎名の連絡先を保存するのに手こずったんだよ。あ、じゃあ、今試しに送ってみるね。」
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送信者:鷲崎
件名:よろしく
本文:
おくれてますかね。
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「届いた?」
「う、うん。」
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送信者:璃那
件名:よお(^^)/
本文:
これからも
よろしくな!(^^)!
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俺は驚きを隠せなかった。椎名はなんというか、メールと現実では人格が変わる人だった。
「お、おま、メールみたいにしゃべれないのかよ。」
そう問いかけると、
「恥ずかしいし、人と話すのが苦手だから、声、出なくなる。」
俺はよくわからなかった。けれどもわかる部分もあると思った。俺はゲームの世界なら人の顔が見えないから大丈夫なのだがいざ、知らない人と話すともうコミュ障発動と言った感じだったからわかる部分もあった。
俺は一つ好奇心が沸いた。椎名がメールみたいにしゃべっているところを見たくなったのだ。そんなことが見れることなんてありえないと思っていたので、
「ん、んじゃ、帰るな。」
帰ることにした。これ以上話しても進展がないと推測したためだ。俺は椎名の部屋を出て、一階に降り、椎名のお母さんに一言言ってから家を出た。隣の家、すなわち俺の家に入り、自分の部屋に入ったとき俺は後悔した。(んああああああああ。ミスったーーーー。あいつに嫌われているかの確認が取れなかったーー。よし。ちょっと俺、本気出しちゃおうかな?)誰に言っているのでもない。それはただの独り言に過ぎなかった。俺は思い切ってメールすることを決意した。
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送信者:鷲崎
件名:教えてほしいことがある。
本文:
お前
今、俺のことどう思ってる?
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何秒で返ってきたことか。俺が送ったのとほぼ同時にメールの返信が来た。
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送信者:璃那
件名:急にどうしたんですか?
本文:
告白とか気持ち悪いのでやめてください。
メアドを交換したことがうれしいからって
調子に乗らないでください。
気持ち悪いです。( ˘•ω•˘ )
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と、書いてあった。俺はもう一回自分の送ったメールを見てみた。
うんと、頷きながら(気持ち悪いですね。告白間際すぎですね。はい。)俺は改めてメールを送った。
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送信者:鷲崎
件名:さっきのは勘違い
本文:
椎名が体調崩す前の日に
俺、椎名に嫌がらせチックなこと沢山したじゃん
だから、まだ怒ってるのか聞きたくてね。
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と、今度は誤解を招かないようなメールを送った。間もなく椎名から返信が来た。
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送信者:璃那
件名:そゆことね。
本文:
えっとね。
いまは鷲崎くんに貸しがあるから、なんとも言えないな。
でも一つ言えることは怒ってないよ。
おんぶしてくれてありがと。
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そう書いてあった。(んだよ。最後の文。俺のこと誘ってるのかよ。ときめきかけたわ。)俺はあいつのことを嫌いになるとか言っておきながら全然嫌いになれていないと思うと苛立ちを覚えた。その日は普段よりも家庭内で俺は冷たい対応をしていた。
風呂へ行く時間になった。今の時刻は午後十時、普段よりも断然早かった。久々に風呂に浸かろうと思った。頭を洗い、体を洗った。風呂に浸かった瞬間。俺の中の何かが目覚めたのか、すぐに追い炊きを押した。順番的には俺が一番最後だから、ただの電気代の無駄なのだが熱々の風呂に入りたかった俺がいた。
今の時刻は10時49分もうそろそろ、寝なければならない時間だ。今俺は体を拭いている。おそらく時間は気にしていない。体を拭き終わり丁度部屋に入った瞬間俺の意識がふっと飛んだ。そして俺は大きな音を立てて地面に顔から落ちていった。おそらく起きている状態だったらめちゃめちゃ痛かっただろうけど今の俺は意識がないため、途中で起きるかそのままかのどちらかになった。今、母親が入ってきたら恐ろしく心配するだろうし、鼻血なんて出てた暁にはもう死という選択肢しかなかったと思う。そして俺の意識は復活する。夢の中で。