第二章3 影響力
俺はその日まで激しく疑がっていた。
未来が見える夢なんてあるわけがない。
しかし
俺は夢で椎名の家にいた。
その夢は正夢になった。
俺は恐怖とともに好奇心が沸いた。
俺は自分の部屋で考え事をしていた。それはおろか、その事しか考えられない脳になってしまったと言っても過言ではないほどに。
それはたまたまだったのかそれとも本当に未来視をしたのか。
俺は悩んでいた。かなり悩んでいた。これからの生活に支障が出るのか、椎名との関係はどうなるのか。
様々なことを考えていた。そのとき
「かなたー ごはんだよー」
母親が俺を呼んだ。俺は軽くはーい。と返事をして妹の香蓮も連れて一階の食卓へ向かった。今日はメンチカツだった。
「いただきまーす」
皆でそう言って、食べ始めた。まだ俺の脳は考え続けていた。無意識に一点を見つめ続けていた。
「あれぇお兄ちゃん。何見てるのぉ?」
俺の顔を覗き込んできた。俺はビクッ体を跳ねさせた。
「あ、いや。考え事してただけだよ。」
事実を言ったのだが、香蓮は、ふーんと、興味なさげな反応をした。すぐに夕飯を済ませて、自分の部屋に向かった。何か、特に熱中していることもなく、取り敢えず、趣味のアニメを見た。
━━━━━━二時間経過━━━━━
時刻は10時30分だ。
時計を確認した俺はすぐに風呂へ向かった。
今回は時間があったため湯船にしっかり浸かった。
「ふーーあったまるなぁ。」
そんな独り言を漏らして風呂を上がった。しっかり体を拭いて、ドライヤーで髪の毛を乾かした。
ひととおり終え、自分の部屋へ向かい、布団にもぐった。俺は、少しこの未来視について、感謝していることがあった。それは、俺は朝起きることがすごく苦手だったのだ。この未来視の条件は睡眠時間を指定できるということで、徹夜などはできなくなるが、朝は必ず起きれるという利点があった。
そんなことを考えていると俺は突然の睡魔に襲われた。話は夢の中に移る。
━━━━夢の中━━━━
俺は視界がぼやけているのを確認した。元に戻るとそこは、自分の部屋だった。(え、夢見れなかった?やべぇよ………やべぇよ………)急いでスマホを見た。日付は四月四日、初めて未来視した時は椎名の視点で未来を見れた。しかし今回は俺視点だった。バリエーション豊富だなと思った。起きてからは普段と何も変わっていなかったため、特に巻き戻しなどはしなかった。
「行ってきまーす。」
家を出た瞬間に左手の甲をつねった。それをすると、その地点までセーブされたことになる。普段通りの道を歩いているとき、
「バサバサバサバサっ」
ハトが羽ばたいた音が聞こえた。それとともにポトッという音が聞こえた。俺の頭に温かい感触が残った。ハトの糞が俺の頭を直撃したのだ。(うわぁぁぁぁぁぁ。最悪だよ。まじか。家帰、あ。右手つねればいいんだった。えいっ)
━━━━現実世界━━━━
パッと目を開けた。
俺はかなり憂鬱な気分になった。ハトにフンかけられるのか。悲しいなぁ………そんなことを思いながら再び眠りについた。
━━━夢の中━━━━
「行ってきまーす。」
そこからまた始まった。
俺は先ほどの反省からいつもよりも早く歩いた。
先程、俺にフンをかけたハトは、のんきに道端で寝ていた。一応俺はそこで左手の甲をつねった。
夢の中だからもちろんい痛みは感じないのだが、つねるというのはどのぐらいを指すのかわからなかった。
思いっきり跡が付くくらいつねっておいた。
学校へ着いた。特に普段と違う様子もなく教室へ向かった。
席に着くなり本を読み始めた。特に変な様子もなく
━━━現実世界━━━━
ぱっと目が覚めた。
今回の夢は普通といえば普通だった。
何か大きなイベントが起こるわけでもなく。
椎名と会うこともなかった。
時計を見たが、今日は4月4日夢と全く一緒だった。また、いつものように
「かなたーごはんだよー」
下から母の声が聞こえてきた。無言で一階へ向かった。
今日は珍しく香蓮が起きていた。だが、寝ているのか起きているのかわからなかった。
コクコク首を前後に振っていた。
俺は特に気にかけず、朝食を食べた。
ちょうど俺が食べ終わったとき香蓮がぱっと目を開けた。
(おいおい………寝てたのかよ……。)そう思った俺は
「寝ないでちゃんと食べろよ。」
と、優しく声をかけてやった。
「う……うん」
と、返してくれた。俺は普段通りに身支度を済ませた。
香蓮を起こしに行く時間が今日はないからゆっくりできる俺はスマホをいじっていた。
「そろそろ行くか。」
鞄を持って、玄関へ向かった。
俺は今日見た夢を思い出した。
家を出たら速く走ること。
「いってきまーす」
そういって玄関を飛び出した。いつもよりも早く走っていった。
夢の中で見た光景と全く持って同じ光景が広がっていた。俺の頭にフンをかける予定だったハトが道端で寝ていた。
学校に着き、靴を履き替え教室へ向かった。
教室に着き、本を読み始めた。
数分後にチャイムが鳴った。椎名は来ていなかった。
「キーンコーンカーンコーン」
放課後の訪れを告げるチャイムがなった。俺は今日も平和だったなと思いつつも、椎名が居ないだけでここまで静かになるとは思ってもいなかった。あいつの、絶大的影響力は、計り知れなかった。俺はクラスで孤立していた。ただ1人で、一日を過ごした。まぁ、普段から独りなのは確かなのだが、いつもは椎名がいて、椎名の周りにいろんな人が集まる。俺はそんな雰囲気も悪くないかなと思った。俺は小学校高学年から、中学校卒業までただ一人で過ごしていた。その状況よりも今の状況の方が俺は断然好きだった。
「はい。じゃープリント配るぞ。あ、椎名の分は……鷲崎、お前が持ってけ。家近いしいいだろ。」
「え、あ。はい。持ってきます。」
日本語が思いつかなくなった。俺は人と会話することが苦手である。ましてや極度の人見知り。絶望的だった。
「えー皆回ったか?じゃあ、またあした。」
そう言ってホームルームが終わった。俺はクラスを出て階段を降り、靴を履き替え、校門を出た。特に変わったことは無い。俺が待ち望んでいた日常というやつだった。
椎名の家につき、インターホンを押した。
「ピンポーン」
「はーい。」
椎名のお母さんが出た。
「鷲崎ですー。」
「あらま。今開けるね。」
そう言って家の扉を開けた。何故かもうなんのためらいもなく開けてくれることに関して俺は不思議な気持ちになった。
「莉那さんは、いまは?」
「あ、莉那は、具合はもう大丈夫だと思うよ。莉那の部屋行く?」
そう言われた。
─────刹那─────
俺の頭の中には様々なことが、俺の記憶から蘇ってきた。
俺は、椎名のことを嫌ったはず。なのに、家に上がり込んでいる。ましてや、おそらく向こうも引いたはずなのに、部屋行ったらもう公開処刑だな。とすら思った。
しかし今の椎名には俺があいつを、おんぶしてやったという貸しがあるためおそらく何も言えないだろうと思い俺は、
「あ、じゃあ、お願いします。」
「優しい子ねぇ見習っちゃうわぁ」
そんなことを言って俺は椎名の部屋に案内された。