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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の絶叫

グウィネスさんに『謎扉』出現の原因は私━━━と指摘されて、「なんで?」と首を傾げる一方で、「ああ、なるほど」とも思った。

だってこれまで自分に都合の良過ぎる展開があまりにも多かったから。


その最たるものが『歩道橋から転落したら別の世界にまで落っこちてた件』よね。

そもそもアレで命拾いしたようなものだし。


けど、その後も色々と普通じゃない事が立て続けに起こり過ぎて、感覚がマヒしちゃってた感じとでもいうか。

何度も死にかけて、その都度生き延びて。

・・・でもそれ、断じて狙ってやってんじゃないのよ!


結果として何度もあの『謎扉』が活路を開くきっかけにはなったけど、自分の意思であんなもんを呼び寄せた覚えは全く、これっぽっちも無い。

ていうか、そんな事ができるならとっくに日本に戻ってるわ!!


・・・・・でも微妙ビミョーにうっすら自分の願望が投影されてる辺り、複雑な気分だ。

一番わかり易いのが岩牢でのトイレの一件。

十八年と少しの乙女の人生で、あれほどジワジワ追い詰められた気分に陥った事は無い。


もし・・・本当にあの『謎扉』の現象に、無意識にでも私自身が関わっているのだとしたら。

魔力操作が上達すれば、あの現象に自由意思で関与できるようになったりするのかな?


何時でも行きたい場所に、何処へでも━━━━。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



やめやめ。あんまり過度に期待すると、不発に終わった時が虚し過ぎる。







「・・・魔力操作の上達云々はともかく、そもそも何をどうやったらあの『謎扉』に結び付くのか不明なんですけど」


あれこれ考え込むうちにすっかり冷めてぬるくなったコーヒーを一息に飲み干してから、堅焼きのビスケットを一枚頬張る。

甘さ控えめの生地に塩の粒がいいアクセント。

好みでジャムやクリームチーズのディップを添えても良いんだけど、今朝はハチミツを用意。


「これはあたしの見解だけど・・・。例の現象はあんたの強い感情の揺れが影響してるんじゃないかと思うんだよ」


「感情の、揺れ・・・?」


「そうさ。現に精神的にギリギリで、切羽詰まった状況下の場合が殆んどだろ?」


言われてみればそうかもしれない。

あの『謎扉』、自分自身の身の安全に関する時に現れたケースが圧倒的に多い。


“感情の揺れ”というなら、シグとの再会の瞬間だってそれなりに感情が振り切れてたし。

『ナニやってんだ爺さんんん!!』的なものではあったけど。


「ま、焦って解決しなきゃならない事なんか一つもありゃしないんだから、あんたは気楽に構えてりゃいいんだよ。━━━こっちはこっちで好き勝手に観察させて貰うからね」


「はぁ・・」


いまいちピンとこないけど、『精神的に追い詰められて異能に覚醒する』ていうのは、物語フィクションなら王道パターンだ。

それも少年誌の主人公によくあるタイプのやつ。


でもだからってそれを確かめるために、ギリギリの状況に自分を追い込む気になんか到底なれない。

私は平穏無事に暮らしたいんだよぉぉお!!


━━━そんな会話を交わしつつ、優雅な手付きでコーヒーを飲みながらビスケットを口に次々と運ぶグウィネスさんの手元には、空になって転がるハチミツの瓶が。

大皿に乗せたビスケットの山もいつの間にか消えている。


・・・うん。まあ、いつもの光景か。



そして早朝のお茶の時間(ティータイム)が一段落した頃。

耳に馴染んだ大きな羽ばたきが聞こえて窓から表を眺めると、これまた見慣れた天狼親子の真っ白な姿が。


「おはよーお母さん、チビちゃん!」


『ねーね おあよー』


内開きの窓を開けて声を掛けると、チビちゃんをお口に咥えたままのお母さんがズボッと窓に顔を突っ込んできて、そのままチビちゃんは私の腕の中に収まった。


「今朝は早いじゃないか、あんた達。いつもはもっとゆっくりなのにどうしたんだい?」


天狼親子との会話は思念の交感によるもので、お母さんやチビちゃんが実際に人間の言葉を話してるわけじゃないんだけど、私もグウィネスさんも天狼親子との相性が良いらしく、わりとスムーズに会話が成立している。


『きゅん!じぃじ おちたー』


「は?」


「何が、なんだって?」


『じぃじ ごろんごろんして ぷらーんぷらーんなのー』


「「・・うん???」」


だけどそこは獣と人間。

複雑な表現や曖昧なニュアンスはどうしても伝わり難くなる。


「・・・“じぃじ”って、もしかしてシグのこと?」


「あー・・あたしがいつもジジィ呼ばわりしてるんで、そっちの呼び名で覚えたのかい」


『じぃじ!ごろんごろーん』


「・・・ごろんごろん・・・」


なんだかとてつもなく嫌な予感がした。


お母さんもチビちゃんも、シグの事は特別好いてはいないけどそれほど嫌ってもおらず、チビちゃんに至っては丁度良い遊び相手だと思ってる節もある。


「そのジジィは二・三日前狩りに出掛けてまだ戻らないんだが・・・。“落ちた”だって?」


どういうことだい、とグウィネスさんがお母さんに視線を向けると、お母さんはクゥと一鳴きしてから可愛らしく首を傾げ、シグルーンが狩りの最中に岩場から足を踏み外し、谷底に転がり落ちるのを見たと教えてくれた。


「うそ━━━、」


「あの間抜けが!」


そしてその話には続きがあって、急勾配の山の斜面を転がり落ちる羽目になったシグは、持ち前の身体能力でどうにかこうにか落下の勢いを削いだものの、崖の中腹に突き出た岩棚に引っ掛かって、にっちもさっちもいかない状況に陥っているという。


「生きてるんだ・・・良かった」


「ありゃそう簡単にくたばるようなタマじゃないよ、ハネズ。・・・けど弱ったねぇ、どうしたもんか━━━」


魔法がけして万能じゃない事は、私も承知している。

ましてや私は超インドア派の人間、自力で遭難者の救助に向かえるほどの体力も根性も持ち合わせていない。

つまり、状況を知ったところでシグを救出する具体的な手段が何も無いときては━━━━。


「せめて対象が目視できる状態であればやりようもあるんだけどねえ・・・」


「そういうもの、なんですか?」


「実を言うと“見えてる対象もの”を手元に引き寄せるのはそう難しくはないんだよ。イメージしやすい分、術式の展開が楽なのさ。・・・取り敢えずあれの様子を『視て』みるかね」


グウィネスさんの幻視は千里眼のような能力で、遠く離れた場所を見透す事ができるらしい。

本人は精度がイマイチで役に立たないとか言ってるけど、とんでもないと思う。


「あのー・・、その影像って、私も視たりできます?」


「多分、“同調”すればイケると思うよ。━━━試すかい?」


「はい」


「じゃあ、どこでもいいからあたしの身体に触れて、魔力の流れを沿わせてごらん」


私は言われるままテーブル越しにグウィネスさんの手に自分の手を重ね、初歩の魔道学講座で教わった通りに魔力を全身に巡らせ始めた。


「一気に大量の影像が流れ込んで気分が悪くなるかもしれないから、お目当てのものを探し当てるまで感覚は遮断しておきな」


「は、い・・、」


今この瞬間すでに、正に指摘された通りの状況だった。

頭の中に色々な影像が高速で映し出され、目まぐるしく移り変わってクラクラと目眩がする。


━━━ちょ・・、これけっこうキツイ。

まるで瞬きを禁止されてジェットコースターに乗っけられたみたいな・・・!

感覚を遮断と言われても、初めての事でなかなか上手くできないしで、私はちょっとしたプチパニック状態だ。


ああああああーーーーーー!!

もうなんでもいいからーーーーーっ!!




早く、出てこい、シグルーーーーン!!




━━━と、思ったら。


アラ、不思議。目の前に宙吊りになったシグの姿が現れた。



「「「・・・は!?・・・」」」



お互いバッチリ視線が合って、なんだか間の抜けた声までが三人揃ってしまった。


片やいつもの見慣れた居間でテーブルに着いた状態で。

もう片方は岸壁に不安定な姿勢でぶら下がった状態で。


「・・・かなりリアルな影像ですね、ウィネスさん」


これで精度が低いというなら驚きだ。

まるでその場に居合わせているかのような臨場感。おまけにあちら側からもこっちが見えているみたいだし。


空間にも全く歪みがなく、室内の一部分がそっくり切り取られたかのように異なる空間の景色を映し出している。


「「・・・・・・、、、」」



━━━━に、しても。


目の前に見えているシグの姿は全身擦り傷と打撲痕だらけで満身創痍、御自慢の超絶美貌にも赤だの青だの紫だのの痣で化粧が施されている。


そして、現在シグの生命を繋いでいるものといえば。


岩棚の出っ張りに丁度良い具合に引っ掛かった外套コートの布地。

━━━ここ最近で一番の私の渾身の作品。




「いっ・・・、イ”イ”ヤ”アアアアアアァーーーーーーーー!!アンタまた私の服を破いたわねえええええーーーーーーーーーー!!!!」




ちょいと爺さん、体育館裏まで来いや。






「「・・・気にするのはそこか」」


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