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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女、青天の霹靂

私が魔力操作のコツをなんとなくつかみ始めた辺りから、身の周りでちょっとした異変が起こるようになった。


例えば“本宅”の厨房で食事の支度をしていて、『別宅うちの冷蔵庫からマヨネーズ取って来なきゃ!』なんて事を考えながら食器棚の扉を開けると食器棚の中が自宅の冷蔵庫に繋がってたり。


縫い物を始める前に刺繍糸が足りなかった事を思い出して、買い物に行こうと転移の魔法陣がある小部屋の扉を開けたら、いつもの生地屋さんの店内に繋がったり。


モフモフ中毒の禁断症状に襲われて玄関を開けたら、お母さんとチビちゃんがいる山のねぐらに直行してたり━━━━━。


なんと例のあの『謎扉』の現象が頻繁に起きるようになってしまったのだ。


「・・・なんで???」


なんていうか・・・、これじゃまるで私がこのわけのわからない現象を引き起こしてるみたいなんだけど???




「なんだい、今頃やっと気がついたのかい」


意を決して疑問をグウィネスさんに投げ掛けたところ、返ってきた返事がそれで。

あんまりあっさりした答えに、熱々のコーヒーをなみなみ注いだ器を手から取り落とすところだった。


「ウィ、ウィネスさあぁん!?あっ、熱っつっ!!」


知ってたの!?実際そうなの!?マジか━━━━━!!


「ほらほら落ち着きな」


落ち着きなと言われても!ハイそうですね、とはいかないって!

それになんで、いつ、その結論に至ったの!?

私の頭の中身は疑問符だらけだ。



「実際何度か“視た”からねぇ」


「・・・『視た』?」


ちなみに今朝の早朝のお茶の席にシグの姿は無い。

一昨日狩りに出掛けたんだけど、どうやらまたしても遠出になったらしい。


初めて無断外泊(?)をした時は少しばかり心配したけど、よく考えたら腕っぷしは折り紙付きの上にほぼ野生児(爺)みたいなものだから、私が気を揉む必要なんてどこにもありゃしなかった。


「一番最初はあのクソガキがうちに転がり込んで来た時さ」


あのシグをクソガキ呼ばわりできるのは、世界広しといえどこの人だけだと思う。


「あの時・・・は、確か急にシグが家の中に現れて━━━━」


晴れて自由の身になってとっくに新天地に渡ってるとばかり思ってたのに、いまだに山の中をウロついてると知って『ナニやってんだ爺さん!』とかって、ちょっとプチ切れしたのよね。


「二度目はあんたの拐かし事件の直後」


あー・・そうそう。五・六階建ての建物の屋根から飛び降りるとか、マジで死ぬかと思った!!

頭の中が真っ白になって、走馬灯が浮かぶ余裕すらなかったし!

気が付いたらここんちの居間に転がってた。


「決定打はやっぱり夏の建国祭の時だね」


「・・・え・・・」


あの時何かあった?


あの時私青磁の事で頭に血が上ってて、怒りで我を忘れてしまったというか、その後の記憶がろくすっぽ残ってないんだけど。

あれ?そういえば・・・あの日、私どうやってこの家に帰って来たんだっけ・・・?


「あんたはあの日、広場の雑踏の中で忽然と姿を消したのさ。傍目はためにはただ人混みに紛れただけに見えただろうけどね。あんたの魔力を追跡トレースしてたあたしには、あんたの気配がいきなり途絶えたのをはっきりと感じたよ」


「は」


「あいつもあんたの匂いはマークしてただろうけど、ああも人が多くちゃ嗅覚はあまりあてにならなかっただろうからね。ただ自分が見失っただけだと思ってるようだけど」


「・・・それ、って、つまり私・・・」


「あんたは何の術式も用いず、魔法陣の補助も無しに自力で空間を跳んだんだよ」


「はいぃぃぃ?」


ナンダッテェェェーーーーー!?!?

私もついに魔法少女の仲間入り!?

・・・・・て、そんなわけあるかーーーい!!


「だけど私、魔法は・・・使えませんよ」


「はあああぁ、そうなんだよねぇぇ。そこが不思議なんだよねぇぇぇ」


不思議なんだよね、というグウィネスさんのその表情は、まるで目の前で鰹節カツオブシを振られた猫そのもので。

『あ、これ逃げられない』と、私は一瞬で悟った。


「通常空間を曲げて跳ぶ際には、どんなに上手くやっても魔力の揺らぎ・・・というか余波が生じるものなんだけどね。私が“視た”三回とも転移の術を用いる際に起きる余波は感知できなかった」


「はあ・・・」


それにどういう意味があるのか私にはいまいちピンと来ないけど、その道の専門家であるグウィネスさんが言うからには何か意味があるんだろう。


「なんだかよくわからないという表情カオしてるね」


「スミマセン」


「説明すると長くなるから端折はしょるけど、通常あり得ない事態だとだけは言っとくよ」


「よくわかりました」


私の理解の範疇を超えているという事だけは。


「何にしろあの奇妙な現象が起きるのはあんたが絡む時だけ、しかもその頻度が増してるとあっちゃあ他に原因があると考える方が不自然だろ」


ですよねぇぇぇ!でもその自覚ないんですけどー。


「あたしゃいつあんたが気付くかと思って黙ってたんだけど、今頃になってようやく原因が自分かもと疑い始めるなんてねぇ。あんたも大概のんきな娘だよ」


「あ、あははは・・・」


スンマセン、こるぇっぽっちも自分が原因だなんて思ってませんでした。


「何をどうしたらああいう現象に繋がるのかは謎だけど、魔力と無関係ではないだろうね。現にあんたの魔力操作の上達に伴って『謎扉』の現れる頻度が増してるんだから。上手くいけば自由意思で操れるようになるかもしれないじゃないか」


「・・・『謎扉』を、ですか?」


いつでもどこでも、行きたい場所に移動可能な手段があるとしたら━━━━。

それはとても夢のようなお話だ。


なにしろ通常の『転移』は大掛かりな術式と膨大な魔力が必要な術で、行き先も“どこでも”とはゆかず、ひとつ間違えば身を損なうリスクも高いらしいから。


グウィネスさんはそっち方面に突出した才能を持った魔術師で、どうやらこの謎扉の現象には並々ならぬ興味を抱いているもよう。



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