乙女よりも乙女な父親
「えーと、・・お嬢?この間からセレンディードさんがお嬢に用があるとかって、うちに何度も足を運んできてるんだけど・・」
表情にかなりの温度差がある私と青磁の様子を見て、ニアさんは戸惑ったように双方の顔を交互に見比べる。
ニアさんにとって私と青磁は、このお店を介して知り合った“お客と魔道具師(見習い)”というという程度の認識だから無理もない。
そもそもこの店で初めて顔をあわせて時、お互い初対面という体だったんだから、そう思うのが当たり前なんだけど。
「もうあれきり会えないかと思った・・・。君の保護者の人達と別れてから、連絡先も聞かなかった事に気付いてかなり焦ったよ」
私としてはむしろ二度と顔を合わせたくはなかったんだけど。
「それで此処に?」
「唯一の接点だったから・・」
・・・まあ、そうよね。
余程の鈍馬でもない限り魔道具屋に来るわよね。
そして店員は顧客に魔道具師について問われれば、知っている限りの事は答えるだろうし。
「華朱が五日に一度この店に立ち寄っていると聞いて、時間の許す限り通い詰めていたんだ。今日まで掛け違って会えなかったけど」
話がしたいんだ━━━、と青磁は続けた。
それがまるで、叱られた子犬がションボリと耳を垂らしながら飼い主の情に訴えているような様子に見えて、何だか私はだんだん腹が立ってきた。
「ねぇ━━━もういい年齢した大人なんだから、少しはシャキッとしなさいよ」
「・・・あ、茜、ちゃ・・ん」
「はああっ!?」
「ゴメン!今の怒った表情、茜ちゃんに凄く似てたからっ!」
「母娘なんだから、当たり前でしょ!」
「うん・・・うん。そうだね・・・」
だああもうっ、イライラするううぅーーー!!
なんだって自分より年上の青磁を気遣わなきゃなんないの。普通立場が逆でしょ。
「ヨーシヨシ。落ち着け小娘ぇー。あんまし興奮すっと頭の血管がブチッと切れんぞー?」
「常日頃私の血圧を上げるのに一役買ってるシグに言われたくないし」
「ワハハハ!」
絶妙なタイミングで口を挟んできたシグのおかげで、頭に上りかけてた血がすうっと引いてゆく。
「あんたもだ。ネージュに話があるっていうんなら、まず俺を通して貰おうか。この前ちゃんとそう言っといたはずだ」
「あ、ああ・・・そっか。そう、だね」
この言い方から察するに、以前シグと青磁の間で既にある程度のやり取りがあったみたい。
「・・・あのさー。なんか込み入った事情があるんなら、ここで立ち話ってのも上手くないんじゃない?なんだったら“奥”を貸すからそこで話しなよ」
ギクシャクした私達のやり取りに気を遣ったのか、はたまた店内で揉め事を起こされるのを危惧してか。
それともその両方なのかもしれないけど、どちらにせよニアさんのその申し出はとても有り難かったので、私とシグは青磁を連れて何度かお邪魔した事のある来客用の応接室に向かった。
テーブルを挟んで向かい側の正面に青磁、私の隣にシグという組み合わせで席に着いたものの、しばらくの間はお互いに無言の時間が続いた。
私は━━━というか多分青磁もだけど、何から話せばいいのか全く見当がつかなかったからだ。
そしてかなりの間をおき、青磁が意を決したような表情で口を開いた。
「こっちの世界で華朱に再会できるとは思わなかった・・・。それで、いつ頃こっちに?」
「━━━春先よ。来たくて来たんじゃないし」
「そっか・・・、だよね。僕も同じだったし」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
駄目だ。会話が続かない。
「・・・あのさ」
「何」
「茜ちゃんは・・・元気だった、のかな」
「━━━━━━━」
なんて言ってやろうかと思った。
『青磁がそれを聞くの?』
今まで散々好き勝手に放浪を繰り返したあげくに、こんな異世界に落っこちて、とうとう帰って来やしなかった青磁が。
「青ちゃん」
「その、呼び方・・」
「私、この春高校を卒業したの。四月から大学生になる予定だったんだよ」
「もうそんなに・・・」
「八年は長いよ」
「・・・・・っ」
「お母さんはね━━━青ちゃん。警察に青ちゃんの失踪届けを出してから七年もの間、突然姿を消した青ちゃんに操を立ててずっと独り身のままだったんだよ。
『気紛れな青磁の事だから、何年も経ってから急にある日「ただいま!」とかってヒョッコリ帰って来るかもしれないじゃない。その時誰も「お帰り」を言ったげる人がいなかったら、寂し過ぎるでしょ』━━━━っ・・て・・」
お母さんの口真似をしたのが失敗だった。
八年分の恨みつらみを込めて轟々と批難してやるつもりだったのに、それが原因で早々に出鼻を挫かれてしまうなんて。
「~~~~~あ、あ”がね”ぢゃんんんん~~~」
━━━━青磁、号泣。
あー、ハイハイ。・・・そういやこういう人だった。
ド天然の上に泣き上戸とか、━━━アンタは女子か!!




