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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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前途多難な乙女の婚活

それからしばらくの間、いつも通りの毎日が続いた。


私は家事と魔道具制作の助手をする傍ら、手仕事屋の仕込みに明け暮れる日々。

五日に一度の青空市には決まって顔を出し、最近はちょっとした仕立ての仕事も請け負うようになった。


シグはすっかり本格的なニートと化して、たまにフラ~っと姿を消しては出所不明な金品を持ち帰る以外、家でゴロゴロしている。


そのうちグウィネスさんに家を追い出されるんじゃないかと本気で心配してるんだけど、何故か『面白いから』という理由で未だに滞在を許されている。何故だ。


そして私は相も変わらず単独行動を禁止されていて、どこを出歩くにも用心棒という名目のお目付け役に付いて回られている。


そして、いつの間にか季節は秋に移り変わっていた。







「いったいいつになったら私、一人歩きさせてもらえるのよ・・・」


昼下がり、青空市からの帰り道。グウィネスさんの倉庫に向かって荷物満載の荷車を引く私は、隣に並んで歩くシグをジトリと見上げた。


「そりゃオメー。お前に旦那オトコができりゃ俺はすぐにお払い箱だぜ」


その“旦那”を見つけるのに、あんたが邪魔になってんのよ━━━と、喉元まで出かかった台詞を私はグッと飲み込んだ。


営業では客寄せパンダの役割を果たしているシグだけど、私が好みの男子とイイ感じで会話を始めると、何故だか私の背後で仁王像のように突っ立って相手を無駄に威嚇し始めるのだ。


図体がでかくてやたら顔が整っているだけに、その無言の圧力は半端なく、お相手は赤くなったり青くなったりした揚げ句、目を泳がせてスゴスゴと引き下がってしまう。


一応私の保護者を自負してくれているみたいだから、近寄ってくる『虫』に対して目が厳しくなるのかもしれないけど、純人の結婚適齢期が十代後半だというこっちの世界の基準に照らし合わせると、私は結構ギリギリなんじゃないかと思うのよね・・・。



「今日はこの後キャリコに寄って、それから例の香辛料のお店にも顔を出さなきゃ」


「ちょこれーとの材料を買うのか?」


「そうよ・・・言っとくけど、今度勝手にうちの食材を漁ったら、一週間の生肉コースじゃ済まさないわよ」


「勘弁してくれー」


この前のお仕置きは連日の生肉攻めにシグが一週間で音を上げた。


元軍人として粗食にはそこそこ耐性があるはずなんだけども、この家に転がり込んで来てからのシグは、この世界の水準としてはかなり上のランクの食生活を送ってきていたため舌がおごってしまい、目の前で他人が美味しそうな料理を食べいてるのを眺めながら、自分だけ火を通してすらいない生の肉塊にかじりつくという行為が、どうにも我慢ならなかったらしい。


しかもうちの食事は故郷にほんの調味料を用いたメニューが多いため、他所で同じ味を再現する事が難しく、私を怒らせると自分の好物を二度と食べられなくなるとあって尚更堪えたようだった。



グウィネスさんのお使いやら青空市への出店で、私がこの街に通うようになってもう結構日が経つけど、未だに大通りを一歩外れただけでもすぐに道に迷いそうになる。

わざと“そういう”造りにしてあるのだそうだ。


流石に幾度となく通う馴染みの魔道具屋の場所ぐらいは覚えたけど、ちょっとでも脇道にそれたらもうおしまい。

どっちを向いても似たような景観の街並みと、迷路のように複雑に入り組んだ小路に惑わされて、あっという間に迷子になってしまう。


私に単独行動が許されていないのは、例のかどわかしの一件もあるけど、何度か自信満々で『一人で行けるもん』を宣言した揚げ句にその都度盛大に迷い、こっそり後をつけてきたシグに回収されるという事を何度かやらかしたせいでもある。



《魔道具屋キャリコ》は幸いにも大通りからそれほど離れていない場所にある。

歯車とゼンマイがモチーフになったアイアン製の看板が目印のお店。


魔道具自体が高価でそんなにしょっちゅう買い換えるような物じゃないから、いつ訪れても店内はガランと空いてて滅多にお客さんと鉢合わせる事がない。


そう、『お客さん』とは。



「━━━華朱。よかった、やっと会えた」



そしてコイツは断じて客ではない。





「なんでここに青磁がいるの━━━━」

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