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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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真夜中、乙女に出会うもの

昼間チビちゃんやお母さんと一緒に昼寝をし過ぎたせいか、夜中のおかしな時刻になって目が覚くめた。


「眠れない・・・」


窓の外は当然真っ暗闇だけど、双子の月が落とす明かりで庭の輪郭がぼんやり浮かび上がって見える。


グウィネスさんの家は野中の一軒家で、夜ともなると野生の獣の咆哮が毎晩間近に聞こえてくるような所なんだけど、間違ってもそれらが家の半径五百メルテ以内に侵入して来る事はない。


魔女の強力な結界で守られたこの場所は、この世で最も安全な場所と言えるかもしれない。


「・・・外の空気でも吸ってこよっかな」


私はサイドテーブルの上の照明ライトのキューブを手探りで掴むと、夜の庭へと足を向けた。







━━━思った以上に月が明るい。


『庭』といってもこの家のそれはほぼ手付かずの自然そのままで、館の周囲には丈の短い草に覆われた原野が広がっている。

レンガ積みの花壇やら木の柵なんかの障害物が無い分、多少足下が暗くとも歩き回るのにそれほど不自由は感じない。


私はてのひら照明キューブをかざしながら、ゆっくりと夜の先に歩を進めた。


「不思議・・・」


元の世界では夜に人工の明かりを目に入れないようにする事の方が難しいくらいだったのに。

現在いま私は、街灯の灯り一つ見えない夜の底で双子の月を見上げている。


これを目にするたび私、『ああ、違う世界に来ちゃったんだな』━━━って、しみじみ思う。

だって、どんなに壮大なドッキリでも、空の月を増やすのは流石に不可能だし。


「それにしても明るい月・・・て、えぇ?」


ゆらり、と不意に月のシルエットが歪んだように見えて、思わず何度も瞬きを繰り返していたら━━━━次の瞬間、月が分裂して小さな光の珠を吐き出した。


まるで月の子供が生まれたみたいだった。


「えっ?うわ!今度はナニ!?━━━あ。あぁ・・・、そういうこと━━━・・」


よくよく見ればそれは近頃見慣れた『御一行様』で、たまたま月の正面を横切っていた群れが月明かりからはみ出た途端、突然現れたように見えただけの事だった。


「どこにでもいるのね・・・フェアリーランプって」


そしてその時ふと何気無く、呼んだら来るかも?とか思って、手に持っていたキューブを掲げてくるくると振り回してみた。


━━━すると、来るわ来るわ。

あっという間に私の周りはフェアリーランプだらけになってしまった。


「うわっ!」


しかも私の身体を通り抜ける際に、記憶を勝手に拾い上げているらしく、ほとんどの個体(?)が金魚トトちゃんの姿をしている。


他にもイルカや鳥の姿を真似たり、マニアックなところでダイオウイカになったりしてるのもいて、結構なカオス状態になっている。


「あー・・そういや昔、海洋生物のドキュメンタリー番組で見た事ある」


光の珠は楽しそうに次々と合体分裂を繰り返して、大きくなったり小さくなったり。


「まるで遊んでるみたい」


しばらくの間ボンヤリとその奇妙な天体ショーに眺めていたら、知らぬ間にシグが自分のすぐ真後ろに腕組みしながら立ってて驚いたけど、シグの行動がいきなりなのは日常茶飯事だから、こっちもちょっとやそっとの事じゃもう動じない。


「ヤレヤレ、夜中に外が騒がしいと思ったら、またこいつらかよ」


「音もしないのになんで気が付くかなぁ・・ 」


「こんだけ気配が浮わついてりゃ、肌をくすぐられてんのとおんなじだぜ」


「ふーん、そんなものなの?」


私には絶対わからない感覚だけど。でもそういえば、フェアリーランプが身体を通り抜ける時、静電気みたいなものは感じるかも。

なんというかこう、モワッとした感触がするんだよね、モワッと。


こうして会話をしてる間にも、フェアリーランプは遠慮なしに人の身体を通過して次々と形を変えてゆき、そのうちの幾つかはシグの体内にも潜り込んだ。


どういう基準で形を変えているのかは不明だけど、シグの身体から出てきたフェアリーランプはほぼ丸い形のまま。


━━━かと、思ったら。


シグの身体を通過した光の珠が次々と上空で固まって、みるみるうちに巨大な生き物を形成し始めた。


「え・・・何あれ」


「━━━━げ・・」



それはオタク寄りの私にとって、ある意味とても身近な存在ものであり、別の意味では全くの『未知の生き物の』姿。


全身煌めく鱗に覆われた巨体、鋭い爪と牙を持ち頭部には優美な角と背中に一対の翼。

そう、ファンタジーには定番のアレ。


「なんでドラゴン!?」


妄想が生み出した創作物、いわゆる二次元でならイラストやゲーム画面で散々見てきたけど。

今のところフェアリーランプが二次元の産物の姿形を模倣した例はなかった。


━━━と、いうことは。


つまりアレは実際に()()が、その目で見たものを再現した可能性が大きい。


その場合、この場で該当するのはたった一人しかいやしまい。


「シ~~グ~~~??見たの!?アレを!?いつ、何処で!!」


「うぉっ!━━━どっかに食い付く要素があったか!?オメーの好きな毛の生えたケダモノじゃねえだろうがよ」


「アレは別腹ベツバラよっ!!ドラゴンっていったら私の故郷じゃ完全に架空の生き物なんだから!物語なんかだと悪役系か神様系の二択でね?どっちにしろ終盤になって登場する役が多いんだけど、そりゃあもおおおおおうカッコ良いんだから!!そっかー、実在するのかドラゴン!ブラボーーー!!」


私の謎のテンションにシグがドン引きしてるっぽいけど、キニシナイ。

ある日突然意味もなく異世界にドボンして、何もかも手放さなきゃならなくて━━━。

せめて趣味にでも浸らなきゃやってらんない。


「アレのどこが良いんだ?ただの図体がデカイトカゲだぞ?あんまし頭良くねーし」


「ぎゃあああ!そういう余計な情報要らないから!乙女には夢が必要なのよ!」


この際アレが現実にどういう生態の生き物なのかは置いといて、見てるだけで眼福だから良いんですううううーーーーー。


むしろ実際に出会でくわしたら、パニック起こしてじっくり眺めるどころの騒ぎじゃないし。プチッと潰されてオシマイでしょ。


「トトちゃん達、ぐっじょぶ!!」


ただの再現映像(?)だからこそ、竜を全方位からじっくり観察できるというもの。

こんな機会滅多に無いし。




そうして私はしばらくの間、夢見心地の時間を過ごしたんだけど━━━。フェアリーランプは現れた時同様、消えるのも一瞬だった。


後になってシグにフェアリーランプのモデルになった竜について聞いてみたんだけど、『昔、ちょっとな』としか返事は返って来なかった。




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