乙女は語る
嫌がらせというかお仕置きに、シグの晩御飯を生肉にしてやった。
自分で煮るなり焼くなり好きにすればー?というつもりで。
━━━ところが。奴は大して堪えた風でもなく、獣化してあっさり生の鹿肉に噛りつくと、二キロはあろうかという大きなお肉の塊を、あっという間に平らげてしまった。
・・・何の仕返しにもならなかった。
食後のお茶の時間。
帰宅後変装を解いていつもの姿に戻ったグウィネスさんが、優雅な仕草で茶器を傾けながら『ところで、昼間の件だけどね』と話を切り出した。
そりゃそうだよね!尋問かれるよね!
往来で大騒ぎした挙げ句、一方的にトンズラかましたんだから。
「と、その前に━━━あんたはとっとと人型に戻りなシグルーン。その姿じゃ話もできないじゃないか」
「デスヨネー」
そう、何故か食事が終わった現在もまだシグは獣姿のまま。長椅子にだらりと寝そべって、私の膝の上に前肢と顎を乗っけてダラけている。
「シグ、重い。どいて。足が痺れる」
猫科の獣としては中型だけど、普通のイエネコとは比べ物にならない重量だから、乗っかられている方はたまんない。
腹いせにセクハラ親父の如く身体中撫で回してやるゼ。
へっへっへ。イイ身体してるねぇ兄ィさん。
「・・・ハネズ。あんたもそのジジィを構うのはそのぐらいにしておきな。話が先に進まないじゃないか。シグルーンも、キモチの悪いアヘ顔晒してないでさっさと二足歩行に戻ったらどうだい」
「ハッ、しまった!」
ヤマネコシグのシルキーな毛並みについ我を忘れて撫で回してしまったーーー。
大きな猫が気持ち良さげにゴロゴロ喉を鳴らす様は、絵的には和み要素なんだけども、これが元の姿で悶えているところを想像・・・し━━━━。
鼻の粘膜をやられそうになった。
故郷に遺してきた戦友達なら多分、これをオカズに薄い本を何冊も生み出すであろう。
ちなみに私はただの衣装オタクであって、断じてBでLな腐海の住人ではない。
━━━で、その後。
いつまで経っても獣化を解かないシグに業を煮やしたグウィネスさんが、その首根っこを掴んで長椅子から引きずり降ろしたんだけど。
渋々といった体で人化した(よりにもよって目の前で)素っ裸の超絶美貌が、鳩尾に拳を叩き込まれる行事が行われた。
私はこの時点になってやっと、人前で『男』を撫で回していたという事実に改めて気が付き、
「もう、嫁にいけない」
━━━と、思った。
「チッ。好きなだけ毛皮をモフらせといて色々チャラにするつもりだったんだが・・・、ババァのせいで台無しじゃねえか」
シグがなんか小声でブツブツ言ってるけど、乙女として大打撃を受けた直後なだけに、まともに取り合う気にもならない。
このままだと曾孫に囲まれての大往生どころか、真っ当な結婚生活を送る相手すら見付けられずに人生詰み!?
いーーーやあああぁーーーーー!!
「そろそろ本題に入りたいんだけど、いいかい?ハネズ」
「あ、ハイ」
現実逃避してる場合じゃなかった。
この際だから、自分自身の頭の中身を整理するつもりで話してみようか。
「実は、その・・・。昼間、街で出会したあの男。八年前に故郷で失踪したはずの、私の父親・・・でした」
「「父親ぁ!?」」
何故か二人の声が揃った。
「あの若造がか!?」
いや、それシグが言う?




