乙女の保護者達
「ヨーシヨシ、もうそこら辺にしとけ。修羅場だか何だか知らねえが、かーなーり悪目立ちしてんぞー?」
「っ、シグ・・・」
呑気な声で、まるで犬や猫でも宥めるみたいに無造作に頭をワシワシとかき混ぜられ、頭に血が上り過ぎてキレる寸前だった私は、ここでギリギリなんとか冷静さを取り戻した。
・・・よりにもよって往来のど真ん中で、個人的な家庭の事情をブチ撒けてどうすんの、私。
「・・・帰る」
「ん?」
「私、先に帰るから」
それだけ言うのがやっとだった。
吐き出すタイミングを失った怒りの熱が、胸の奥でドロドロと渦を巻いていて、ちょっとの刺激であっという間に噴出してしまいそうで。
私はそのまま一言も口を開かずに踵を返し、広場を後にした。
━━━その後の事はよく覚えていない。
*
『私、先に帰るから』
超絶不機嫌面でそれだけ言うと、足早に広場を立ち去って行くネージュ。
その姿は人混みに紛れてあっという間に見えなくなった。
「・・・は?足、早すぎねえか?」
まるで煙がかき消えるような素早さだった。
独り歩きはやめおけ、と忠告する暇さえ無かった。
この人混みでは匂いを辿るのも難しい。後を追うべきかどうかで迷って、やめた。どうせ行き先は知れている。
━━━それより、こっちと話つけとかねえとなあ?
「おい、兄ちゃん。お前さんひょっとしてあいつの身内か?」
ネージュの走り去った方向を見据えたまま、茫然と突っ立っている優男に声を声を掛ける。
この男と正面から向き合うのはこれが初めてだ。
「・・・っ、その・・・。これには少し込み入った事情があって・・・説明するのがすごく難しいんだ・・・」
━━━そりゃそうだろうよ。
あいつの血縁ならまず、異界からの落人なのは確実。
人前で気軽にペラペラ喋るような内容の話じゃねえ。
「ふーん。ま、俺にはどうでもいい事だがな。ただし、今後あいつに関わるつもりでいるなら、まずはこの俺に話を通して貰おうか」
「え?」
「ここでは俺があいつの保護者だ」
「・・・!」
優男がはっとしたような表情で、こっちを見返してきた。
「君が・・・あの子の保護者?」
「言っとくがこっちは見た目通りの年齢じゃねーぞ。混じりモノだからな」
「そう、なん・・・ですか」
「無職無収入が、何を偉そうに言ってんだい」
話の途中でグウィンが割り込んで来やがった。
ウルセェぞ。
「あんたがうちのハネズとどういう関係かは知らないけど、今のところあの子はちゃんと自分の力で生きてるし、あたしもこの男もその為の手助けを惜しむつもりはないから、安心してくれて構わないよ」
「あの・・・?貴女は?」
「あたしもあの子の保護者の一人さ。付け加えるなら、あの子とは師弟関係でもあるね」
「師弟━━━?」
「あの子にはあたしの魔道具作りの手伝いをして貰ってるんだよ」
「そうでしたか・・・」
男は幾分ほっとした様子で眉尻を下げた。
「━━━だがなぁ。お前さん、あれに構う前に、自分の嫁と話をした方が良くはねえか?」
「っ・・・!」
男がネージュに自分の連れ合いだと紹介した女は、丸きり何も理解していない様子で不安気に面を曇らせ、今にも泣き出しそうな顔をしている。
・・・テメーの事情なんざ知ったこっちゃねえ。
そっちはそっちで何とかしろや。
「詳しい話はそれからだ」
「・・・わかりました」
こちらを見て、それから嫁の顔を見て、流石にまずい状況だと悟ったのか、男は素直に引き下がる姿勢を取った。
━━━━最後に余計な一言を付け加えて。
「今すぐにでもあの子を追いかけて話がしたいところだけど、自分の妻を蔑ろにはできない。あなた方のような御夫婦があの子を保護して下さっているなら、・・・僕も安心です」
「「は?」」
俺もグウィンも思わず目が点になった。
違っっげえええし!!
・・・オイコラ、手前ぇ!!くっそ恐ろしい勘違いしてんじゃねえええーーーーー!!




