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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女と夕空の茜

あかね”というのは八年前に青磁ちちおやが失踪した後、女手一つで私を育ててくれた生みの母親の名前だ。


姉御肌で世話焼きで、大雑把で細かい事にはこだわらない性格だけど、他人の身の上話で号泣するような涙脆い一面もあって、けして鋼の心臓が備わった打たれ強い人間というわけでもなかった。


娘の私の前では滅多に弱音を吐いたりしなかったけど、お母さんが夜中によく独りでお酒を呑みながら、青磁ちちおやの写真を見て泣いていたのを私は知っている。




「・・・“華朱”。・・・本当に君は・・・、僕の━━━・・?」


“茜”の名に反応した私に、目の前の青年が呆然と固まった。


世の中には同じ顔の人間が三人はいるとかってよく言うし、ドッペルゲンガー並みによく似た他人がいたもんよねぇ、という認識でいたら、まさかの本人━━━━━━。

これ、どんな冗談!?


日本で失踪したはずの人間がなんでこんなとこに・・・・・・・・・・。



・・・・・もしかして『失踪』じゃなかった?



この人も私と同じように、こっち側に落っこちてしまったんだとしたら・・・?

お母さんと私を捨てて消えた訳じゃなかったとしたら━━━━━━━━。


色んな事が頭の中をぐるぐると駆け巡って、まともにものを考えられない。


「・・・茜ちゃんによく似てる・・・。でも君が僕の華朱だとしたら、どうしてそんな姿で・・・」


「━━━━()()()姿?」


「華朱はまだ小学生のはず・・・。いや、でも、発育がよく見えるけどまだ君は小学生なのかい?」


「はいーーーーーー!?!?!?」


どういう事!?


「・・・一、二年でここまで育つ?女の子の成長ってどうなってんの」


「!」


こっちの戸惑いなんかまる無視で、ずっと独り言ダダ漏れ状態の青磁。


「・・・何を言ってるの?八年もの間行方知れずになっといて!」


「━━━━八年っ!?えっ、それどういう事・・・?僕が家に帰れなくなってからそんなに経ってるの!?」


「・・・そうよ!青磁あんたの行方が知れなくなるたんびに、こっちは毎回捜索願いの届けを出して!七年目でとっくに死亡が成立してんのよ!!」


「━━━っ、そんな・・・!まさか、時間の流れ方が違うのか!?」


元々青磁は三十過ぎても二十歳そこそこにしか見えない超絶童顔で、私と二人で並んでいるとよく年の離れた兄妹に間違われたりもした。

こっちの世界でなら尚更若く見られるだろう。


現に私も見た目通りの年齢だと思ったから、青磁ちちおやに気持ち悪いぐらいに似てても、同一人物かもとは考えなかった。


・・・だいたい父娘揃って異界落ちだなんて、誰も思いつきゃしねえっつのーーーーーー!!



「・・・セージ?・・・その娘さんとは、いったいどういう・・・」



酷く困惑した声が会話に割り込んできて、私達はふと我に返った。


━━━っ、そうだ。奥さんがいたんだった!!


「、、、それは・・・」


異界落ちが不可抗力だったにしろ、妻と生き別れて一年や二年そこらで別の奥さんがいるってどういう事。

青磁おとうさんにとってお母さんは、そんなにすぐ忘れてしまえる存在だったっていうの。


・・・そう思ったら、段々ふつふつと煮えたぎるような怒りが胸の奥に沸き上がってきた。

私とお母さんの、八年間の母子家庭の苦労はいったい何だったのか。


しょっちゅう行方を眩ませる父親の事で、何度も警察に届けを出しに行くようになると、三度目ぐらいには『またか』というような呆れた視線を向けられるようになり、それ以後の対応がかなり雑になったと嘆いていたお母さん。


青磁の行方が知れなくなる度に、どうせいつもの放浪癖が出たに違いないと思いつつも、万が一不慮の事故や事件に巻き込まれている可能性も捨てきれず、毎度毎度警察に一報を入れるこちらの心痛を、この兵六玉ひょうろくだまは考えた事があるのだろうか。


そしてそんな事が何度も続けば近所の噂にならないはずもなく、『あそこんちの御亭主、また蒸発したらいしわよ』なんて、面白半分に話のネタにされる私達の腹立たしさを。


「・・・赦さない」


「━━━━え」


「いつも置き去りにされる私やお母さんが、どんな気持ちで青磁あんたを待っていたか解ってる・・・?」


「ご、ごめんよ・・・」


「それは“何”に対する謝罪なの?」


「う」


私達が心配するのを理解していながら放浪を繰り返していた事?

それとも、家族と離れ離れなったらあっという間に余所の女に心を移した事?


ああ、もう、頭の中がぐちゃぐちゃで、ナニモカンガエラレナイ━━━━━━。




あとちょっとで堪忍袋の緒が切れて、気違いみたいに叫び出しそうになった、その時。

━━━ぽん、と頭の上に大きな掌が置かれる感触があった。


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