乙女と混迷のポルカ
「━━━隣の彼女はアルビオナ。あの自鳴琴の持ち主で僕の奥さん」
広場で再会した『彼』は、記憶にあるのと全く同じ笑顔で、私の知らない女性をそう紹介した。
一昨日二人の姿を目にした時点で覚悟はしてたけど・・・。
青磁と同じ顔をした人間の横に、全く見ず知らずの女性が“妻”として並んでいるのを見るのは、やっぱりあまり気持ちがいいものじゃない。
勿論これは私の見当違いの逆恨みで、目の前の青年は赤の他人で、ましてやその隣にいる女性が全然無関係な人だって事ぐらいはちゃんと理解してるし、内心自分がどれだけ不愉快だとしても、それを面に表さないように努めるぐらいの分別はあるつもり。
「まあ!随分可愛らしい魔道具師さんなのね」
「・・・ただの助手です」
セレンディードさんの奥さんは、当たり前だけど私の実の母親とは全く違うタイプの女性だった。
亜麻色の髪にヘイゼルの瞳、年齢は二十歳を幾つか過ぎたあたりでやや小柄。とにかく華奢で儚げというのが第一印象。
『男が守ってやりたくなる女』の見本みたいな女性だと思った。
や、別に実母がデカくて太くて図太いとか言ってないよ!?
・・・・・ちょっと、大雑把で雑なところはあったけど。
「私、一昨日の夜もお二人を見掛けましたよ。夫婦仲良いんですね」
「そうなんだ、全然気付かなかったよ」
「擦れ違っただけですから」
「あの日は幻灯機のショーを見に来てたのよ。今年は時間が短くて物足りない感じだったけど、最後に面白いものが見れたわ」
「うん、あれには驚いたねぇ」
フェアリーランプの事を言ってるんだとすぐにわかったけど、話題に乗っかってこの場で長話をする気は更々ない。私としては一刻も早くここから立ち去りたいぐらいの気分だし。
セレンディードさんは『顔見知りにちょっと声を掛けてみた』ぐらいのつもりだろうけど、こっちは『見るだけでムカッ腹が立つ青磁の顔』を間近で見させられているのだ。
たまったもんじゃない。
「そうだ、君達さえよかったら僕らと一緒に会場を回らないか?うちの奥さんは出不精で普段いつも家の中にばかりいるから、たまには大勢で出歩くのも良いかなーなんて」
思ってるんだけどさ━━━と続けられた言葉に、これっぽっちも悪意は無い。
無くて当たり前だ。お腹に一物抱えているのは私の側だけなんだから。
むしろ本人は物凄く良い提案をしたとか思ってそうだ。
最悪ぅ━━━・・。こっちの気も知らないで、なんて事言うんだこの優男。
青磁も大概空気を読めない人間だったけど、この人もかなりの天然が入っていそうだ。
“ちょっとした顔見知り”程度の小娘を、夫婦水入らずの場に加えようなんて、何考えてんの。
「━━━あらまあ、あなた。そんな風にいきなり誘ったりしたら御迷惑よ。彼女達だってデートの最中なのに」
「えっ、デート?・・・君達って兄妹じゃなかったっけ?」
奥さんの方はわりと常識人みたいだ。
そりゃそうだよねえ。若い男女が二人でお祭りを楽しんでいたら、普通はそういう関係に見えるよねー。実際は違うけども。
「兄妹のようなものです」
わざと思わせ振りな言い方で事実を濁しておく。だって嘘は言ってないしー。
誤解するのはそっちの勝手だしー。
「・・・君、いったい何歳なの?」
「セレンディードさん、乙女に年齢を訊くのは御法度ですよ。一応成人してる、とだけは言っときますけど」
こっちの基準でなら、だけどね。
・・・それにしても、シグがやけに大人しい。
何にでもやたらと口を挟みたがる性格のくせに、今回はどういうわけか黙りを決め込んでいて、この事態に茶々を入れる素振りすら見せない。
通常ならここで『こんな乳臭え小娘なんざ俺の趣味じゃねえ!』とか反論して、余計に場を混乱させてそうな気がするのに。
さっきから一言も口きいていないよね???
・・・おっかしーなー。でもま、いっか。
事態をややこしくされるよりはマシよね。
「じゃあ、私達はこれで失礼しますね」
それだけ言って、そそくさとその場を立ち去ろうとした、その時。
「ハ~ネ~ズ~~~」
事態をよりややこしくする人物が現れた。




