乙女が羨むダイナマイト
初日・二日目とそれなりに楽しめた今回のお祭りだけど、毎回最後にしょっぱい気分を味わうのはなんでだろう。
最終日くらいは『あー楽しかった!』で終わりたいもんよねー。
━━━━という訳で、建国祭三日目のクーベルテュール。
本日午前のお祭り会場では『美女コン』らしきイベントが行われていて、大層な盛り上がりを見せていた。
「うわー、結構な人数がエントリーしてるんだねぇ。・・・三十人ぐらいいるかな?」
広場中央のステージ上には、いずれも容色自慢で見目の整った女子ばかりがズラリと並び、それぞれ順番に得意な歌や踊りを披露したりして、自分のチャームポイントをアピールしている。
ランウェイよろしく舞台を練り歩く美人の姿に、周りで見守る男達の間から『うおおおおおお!』という獣じみた雄叫びが上がり、囃し立てるような口笛があちこちで飛び交いまくる。
出場資格が“未婚の女子”という一点だけのため、自薦・他薦を問わず誰でも気軽に出場できるこのコンテストは、良縁を求める男女の格好の出逢いの場にもなっているらしい。
「午後には男子部門があるんだったよね?」
「そうみてーだなぁ。ただし男は腕っぷしを競う勝ち抜き戦方式らしいが」
「え、まさかの喧嘩祭!?」
なんと試合は棒術で行われるらしい。
クーベルテュールでは一般市民が街中で帯剣する事は許されていないし、例え模擬刀でも金属の塊を振り回せば、打ち所が悪いと大怪我をする恐れもある。
「美人の前でイイ格好してーだけの野郎なんざ、棒切れ持たせときゃ充分だ」
━━━というのは、シグの意見だけど同感。
打ち身や捻挫程度なら“男の勲章”で済むからねー。
コンテストの舞台上で出場者の紹介が進むたび、どよめいたり歓声が沸き起こったりと、周囲の観客達の反応は実に忙しない。
見ていたらなんと昨日シグにまとわりついていた金髪美人と、オレンジの巻き毛の女子もエントリーしてて驚いた。
どっちもそれなりに取り巻きがいるようで、周りから名前を呼ばれたり声を掛けられたりして、手を振り返してるドヤ顔がかなり肉食系。
女子のコンテストは観客の中に審査員が紛れ込んでいて、全員のアピールが終了してからそれぞれの採点を集計して順位を決定するらしい。
なんでも以前ハニートラップが横行して、審査員の判定が信用できないと市民から批判が殺到したのだとか。
それ以後審査員は毎年ランダムに選定されるようになって、しかも公表されないのでハニートラップはほぼ無効化されたそうだ。
ついでに判定をより公正にする為に、審査員の半数は女性なんだとニアさんが言ってた。
そうこうしてるうちにコンテストのアピールタイムがどんどん進み、残りの女子があと数名になったあたりで少しばかり異変が起きた。
順番を待って舞台の中央に進み出たある女性が、頭部を覆っていた薄い被り物を外した途端、━━━会場が一気にシンと鎮まり返ったのだ。
露になった桁外れの美貌に、観客達が全員棒立ちになり陶然と息を飲んでいる。
━━━ていうか、皆息してる!?
『エ、エントリーNo.・・・二十八番、ネス・ファタール嬢━━━━』
司会者の声もかなり上擦り気味。
これは・・・一度見たら忘れられない類いの美女だ。なんというか、目力が半端ない。
くっきりとした目鼻立ちに薄い唇。
滴るような色香を漂わせていながら、けして甘くはないその雰囲気。
スレンダーな体型なのに出る部分はしっかり出て括れる部分はしっかり括れるという、正に夢のような美ボディを、身体の線を際立たせる細身の衣服に包んで、舞台の上で艶然と微笑んで見せている。
なんとなく妙な既視感を覚えて隣の連れを見上げると━━━、シグは恐ろしいものでも見たかのように、口許をひきつらせて絶句してた。
「どーしたの?」
普通は見惚れる場面だと思うんだけど。
「ねえ、シ」
更に言葉を重ねようとしたタイミングで、周囲から『うおおおおおおおおお!!!!』という爆発的な歓声が沸き起こり、祭りの会場はかつてない熱気に包まれたまま、美女コンのフィナーレを迎える事となった。
「やっぱり優勝は満場一致であの人だったね。えーと、ネスさん、だったっけ?」
「・・・くっそ、夢で魘されそうだぜ」
「“目の保養”の間違いじゃないの?あんな美人見て何言ってんの。どっかおかしいんじゃないシグ」
「チッ、誰も彼もアッサリあの見た目に騙されやがって。あのトンデモ女━━━」
「え、ナニその言い草・・・もしやあの美女、シグの知り合い!?」
うっわ!いつの間にぃいいいいーーーーー!?
基本自由人のシグはちょいちょい家を空けてるから、いつ何処で知り合いを増やしていたとしてもおかしくはないけど。・・・この言い方だと、昨日今日の知り合いという感じでもないような・・・。
「オマエの目ん玉は節穴か」
「はぃ?」
何それ。全く意味わかんないし。
シグの交友関係まで私がいちいち把握してるわけないじゃん━━━━
そう反論しようと口を開きかけた次の瞬間。
「君━━━ネージュさん、だったよね?君もお祭りに来てたんだね。自鳴琴の件、今更言うのも何だけどすごく助かったよ。ありがとう」
一瞬にして私のテンションがダダ下がりになる声が耳に飛び込んで来た。
「・・・それは、どうも」
今、この世で最も逢いたくない顔に、何故このタイミングで遭うのか。




