乙女に愁嘆場はまだ早い
『待たせたな』って、こっちは別にそれほど待っちゃいないんだけども━━━。
「・・・おかえり」
右手に金のストレートヘアの正統派美人、左手にはオレンジの巻き毛の勝ち気そうな美人。
正に両手に花の状態で野暮用から戻ったシグ。
まさか“お花摘み”に行って本物の“美女”を摘んで来るとは思わなかった。
「━━━あなたの言ってた連れって、このお嬢ちゃんの事?なぁんだ~」
「一緒にいるのってこの娘の彼氏でしょ?せっかく二人きりでいるのに邪魔しちゃ悪いわよ。ねぇお兄さん、私達と別行動しない?」
シグの両脇でそれぞれ腕を絡めた美女二人が、かなり本気でシグを口説きにかかってる。
いや、それは別に構わないんだけども。
・・・そーいうのは他所でやって欲しい。
「悪ぃが俺は今んとこ、こいつの専属だ」
「ええっ、そんなぁ~」
「・・・専属って!?」
「━━━ちょっと、シグ!おかしな誤解を生むような言い回しは止めてよね!」
単に保護者的として付き添ってるだけなのに、そんな風にやたら意味ありげに言い濁して、嫁入り前の娘にあらぬ噂が立っちゃったらどうしてくれんのよ!
「実際そんなようなもんだろ。“用心棒兼運搬係”てとこか?」
ただし、その運ばれる“荷物”は私。
「なぁんだ~、“仕事”なのね」
「祭の日にまで子守り?大変ねー」
・・・・・いちいちカチンとくる言い方だなあ。
自らの容姿に絶対の自信があるタイプの美人てのは、どうしてこうも自分より劣ると判断した相手をとことん見下したがるのか。
・・・もう面倒臭いから全部シグに丸投げしよう。このての厄介事は全力回避するに限る。
「私の事は放っといてくれて構わないから、お二人の相手をしてあげたら?」
※『自分が引っ掛かけた女の後始末ぐらい自分でしてよね』
「お前は俺に死ねっつってんのか」
※『テメーを一人で放り出して何かあったら、ババァと獣にブッ殺されんだろーが』
「大袈裟ねー。たまには羽を伸ばせば良いのに」
※『そっちの痴情の縺れに巻き込むなっつってんのよ!』
「離れたら死ぬ」
※『お前ぇはそんなに俺を殺してえのか』
「そのくらいで死にゃしないわよ」
※『この世が滅んでも生き延びそうな生命力してて何言ってんのよ』
「死んでも離れねえぞ」
※『冗談じゃねえ!ババァに消し炭にされんのも、獣に食い殺されんのも御免だぜ』
以上、副音声付きの会話でのやり取りだったんだけど・・・往生際が悪いったらありゃしない。
自分のお尻くらい自力で拭けなくてどうすんのよ。面倒臭いのを連れ帰ったのはそっちなんだから、自分で何とかしなさいよね。
表面上はいたって平静を装っちゃいるけど、私は内心ぷんすことお怒り気味だ。
なんだってこの男は出歩く度にこうも女を吸い寄せるのか。
まったくもって厄介事の予感しかない。
「えー・・と、なにかなこの物凄い会話」
成り行き上、私のすぐ隣の席で事を見守る格好になっていたニアさんが、ここでボソリと口を挟んできた。
シグの両腕にぶら下がっていた美女二人も、何故か若干引き気味だ。
「引き離されたら死ぬ、とかさー。兄さんどんだけお嬢を熱愛してんの?」
「「はあああああ!?」」
私とシグの叫びが重なった。
「違うよ!ちーがーうーーー!!」
「ちっげえええぇ!!そういう話じゃねー!こいつに何かあると物理的に俺の命が危うくなんだよ!!」
うおおおおおおおおおお!!
副音声抜きの台詞を思い返すと、やらかした感が半端ない。
そうじゃない!そうじゃナインダアアアアアーーーーー!!
━━━で。結局この日も昨日に勝るダメージを負って帰宅する羽目になった。




